無双系主人公になった。
「あれ? 俺これ、ソドシの主人公じゃね?」
目が覚めて数分。
顔を洗って鏡の前で、俺はそっとそう呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ステータス・オブ・ザ・デッドシティ。
略してSODC。
ダンジョンや、そこに出現するモンスターと戦い、世界を救うという、まぁ簡略化すればそう言うラノベ。
主人公は玖我真昼。
普通の少年だった彼に待ち受けていたのは、困難の数々。
小学生の頃に両親が離婚し、父親に引き取られる。
引き取られた先で父親に暴力を振るわれ、ボロボロの毎日。
中学に入れば父親は急性アルコール中毒で死ぬ。
その後は母親が行方不明になっていたことが判明し、天涯孤独の身で誰にも引き取ってもらえず、一人で寂しい一戸建て生活を送る。
中三になると、ダンジョンと、身体能力等をステータス化されてスキルを得た人間、通称ダイバーが現れる。
高校生になる頃には自身もダイバーとして覚醒し、学校生活も送らずダンジョンにダイブする日々を送る。
そして何度も死にかけてそのたびに成長し、ダンジョンが出現した原因であるラスボスとの最終決戦となる……。
これが、玖我真昼を主人公とした小説、ソドシの大まかなあらすじだ。
そしてどうやら、俺はそんな主人公、玖我真昼になってしまったらしい。
ジクジクと痛む切れた唇に、殴られて青くなった脇腹。
そして……目の前にあるのは骨になった父親。
どうやら今日は、中学に入ってすぐの頃に亡くなった父親の火葬の日らしい。
あー……読んでた時は何も思ってなかったが、なんか当事者になってみてアレだな、なんか清々するな。
いっそ嬉しいまである。
主人公は確かこの日、呆然と泣いていたんだったか。
殴られていたとしても、彼にとっては父親。まぁ情がなくなってなかったんだろう。
俺といえば、だが……まぁ、これっぽっちも情なんてない。
だから泣くとかできない。
呆然ともできない。
ただ冷静に骨を拾って、骨壷に入れて、それを抱えながら家に帰ってきた。
「あー疲れた」
骨壷をテキトーに部屋の隅に置いて、なんか邪念とかありそうなので、パンパンと二回手を叩いておく。
はらえたまえ、きよめたまえ。
まぁ明日までの辛抱だ。何も起こらないでくれよ、骨壷くん。
ジャージに着替えて、さっとご飯を食べてから、風呂にも入らずベッドに向かった。
今日は疲れた。
心労もやばいし。
そろそろ……寝ないと。ほんとに眠気がやばい……。
――夢を見た。
小さい頃の玖我真昼が、仲良さげに両親と手を繋いで、川沿いを歩くシーン。
あの頃は仲良かったのか。
あー……いや、記憶が戻ってきた。
そうだ、俺は、彼らが好きだったのだ。
頭を撫でてくれる手。優しげに俺の名を形作る唇。抱きしめられたときの温かい温度。
すべて、すべてが好きだった。
……玖我真昼の精神に引っ張られているのだろうか?
それも悪くない。俺がこの世界に馴染むため必要な工程と言えるだろう。
だから……。
今日はめいっぱい悲しめ、俺。
大好きだった大嫌いな父の死。
それを乗り越えてこその、主人公だ。
翌日、よく知らない親戚がやってきて、骨壷を回収していった。
どうやら俺が暴力を受けていたとは思っていないようで、のんきに「お父さんとのお別れはできた?」と優しく聞いてきた。
うん、お別れは十分済んだ。
そう答えて、骨壷の乗った車を見送る。
さて……情報整理の時間と行こうか。




