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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
『ルナ』
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ルナが短剣を目の高さまで上げると、短剣の向こう側の景色や竜魔王の姿がハッキリと見える。


「竜魔王様。コレは……ガラスですか?」


「ふっ。そんな(もろ)い物を武器としてルナにやるはずがはいだろう。コレはオリハルコンだ。人間達も他の鉱物や鉄を混ぜてオリハルコン製の武器を造れるが、オリハルコンだけで造る事は竜族や魔族のように魔力が高くなくては出来ない」


「オリハルコン?………っ、オリハルコンって貴重な鉱石ですよね!?ソレを私に!?」


『オリハルコン』という単語は、ルナも想造世界で聞いた事がある。


そしてこの世界でのオリハルコンについても、彼女は王都で勉強し、知っていた。


この世界で『オリハルコン』とは、とても貴重な鉱石であり、高額で取引されている。


城の兵士達や貴族、金持ちでしかオリハルコン製の武器を持てず、それらも全てオリハルコンと鉄や他の鉱石を混ぜて造られた物。


オリハルコン純度100パーセントとなれば………その価値は計り知れない。


(確か……王都の城に飾ってあった武器の中で………家一個買えるくらいの価値の物があったはず。………じゃあ…この短剣なら………)


城にあったオリハルコン製の武器の値段を基準にしてこの短剣の値段を軽く換算したルナは、一気に顔が青ざめた。


「だ、ダメです!!そんな貴重な物!やっぱり頂けません!」


慌てて短剣を(さや)にしまい、竜魔王へとつき返そうとするルナ。


そんな彼女の反応に、竜魔王は困惑したような、悲しげな表情を浮かべる。


「…………気に入らなかったのか?」


「ち、違います!私には勿体なさすぎる物です!こんなに素晴らしい物を頂いても………私には…そんな価値」


「ルナ」


慌てて弁解しながらも段々落ち込んでいくルナだったが、そんな彼女の頬に竜魔王は再び触れた。


優しく……まるで親が子を慈しむような手つきで軽く撫でると、触れらたルナの頬は段々と赤く染まっていく。


そんなルナの反応を見て、竜魔王は微笑んだ。


「お前がソレを気に入らないのなら仕方ない。だが、そうでないなら……俺に遠慮しているだけなら、どうか貰ってくれないか?」


「竜魔王様……」


「お前は俺にとって、この世の何より大事な…大切な女だ。そのお前を守る為に、俺が心と魔力を込めて造った短剣。どうか受け取ってほしい」


竜魔王の言葉に、ルナは泣きそうな顔をする。


今までこんなにも優しい言葉を、この世界に来てから誰が彼女に掛けてくれただろうか?


誰もいない。


ある一人を除いて。


ただ彼女に唯一優しかったエリカの言葉も優しさも偽物だった。


その事実はルナも……成海も既に知っている。


また騙されているだけかもしれない。


そう警戒するべきかもしれないが……ルナは竜魔王の言葉を疑う事なく、受け入れた。


それほどまでに……ルナは竜魔王に心酔し、彼の言葉とこの短剣に喜んでいたから。


ルナは竜魔王に深く……心の底から深く感謝していたから。


「………はい。ありがとうございます。竜魔王様」


「礼は不要だ。俺が勝手にお前に…ルナに何かしたい。何かをやりたいと思っただけだからな。お前が受け取ってくれて…俺も嬉しい」


そう自分に優しく言葉をかける竜魔王に、ルナの目尻には涙が浮かぶ。


そしてギュッと短剣を胸に抱きしめた。


ルナのその様子に竜魔王も笑みを浮かべる。



この娘はなんて馬鹿で、単純で、(おろ)かで……可愛いのだろうか、と。



(贈り物一つで…甘い言葉を紡ぐだけで、こうも喜ぶとはな。だがそれでいい。お前はもう俺のモノ。俺の為だけに生き、俺の役に立つべき女だ。もっともっと俺に(おぼ)れろ。俺の為ならば人殺しも…世界を滅ぼす事も(いと)わぬ程に)


竜魔王の中にある野心(やしん)、ルナを利用する事しか考えていない本心をルナ本人は知らない。


竜魔王とて教えるつもりはない。


自分の為にだけ生きる事こそ、この娘の幸せに繋がるのだ。


自分の復讐が……この世界の全てが終われば、殺せばいい。


それまでは……この世界で最強最悪の生物兵器として生かし、使う。


それこそが竜魔王の真の目的。


それこそが竜魔王が、己の本当の姿を捨ててでも成海を助けた……本当の理由なのだから。


「さて、ルナよ。飛ぶ練習をしていたのだったな。まだ続けるのか?」


「いえ。今日はもう飛ぶ練習はおしまいです。友達とお散歩しようか、って話してました」


「友達……な。そいつらをそう呼ぶのは、お前くらいのものだ」


ルナが呼ぶ『友達』とは、すぐ傍の木に止まる三色の鳥と、その木の根元で隠れるように二人を見つめる単眼(たんがん)の毛玉。


鳥を友達と呼ぶのも不思議だが……女が可愛く美しい鳥を好むのはまだ分かる。


しかしルナはこの単眼の毛玉型魔獣も好み、二匹の毛玉もまたルナを(した)っていた。


魔獣にも人間や他の獣のように序列があり、この毛玉達は魔物や魔獣の中でもかなり低級。


単眼毛玉達の魔力は本当に弱く少ないもので、それこそ魔力の無い人間でも退治できる程に弱い魔獣だ。


竜魔王にしてみれば、その辺を飛んでいる普通の虫けらと何も変わらない程の矮小(わいしょう)な存在。


だからこそ、この毛玉達は竜魔王が現れてから逃げるように木の影に隠れたのだ。


自分より……この世界のどんな生き物や種族よりも格上の存在を、本能的に恐れているから。


しかしルナはこの単眼毛玉を友達と呼び、毛玉達もそんな彼女にとても懐いている。


竜魔王は毛玉達を見つめると、笑いながらルナへと尋ねた。


「こっちの毛むくじゃらが『モジャモジャ』で、こっちが『ボサボサ』だったか?」


「もうっ!違います!こっちのルビーみたいに目が赤い子が『ポンポン』!そしてこっちのサファイアみたいに青い目をした子が『モフモフ』です!」


ルナはぷぅっ!と頬を膨らませると、毛玉達のそばに駆け寄って腰を下ろし、毛並みを撫でながらそれぞれの名前を口にする。


毛玉達も『そうだそうだ』と言いたげに『ギイギイ!』と鳴き声を発していた。


「……………同じようなものだろ?で?あっちの鳥達が?」


「はい!青い子がブルー!黄色の子がキィ!そしてあっちの赤い子がベニです!」


なんとも分かりやすいというか…単純すぎる名前を誇らしげに語るルナ。


鳥達も毛玉達と同じように…むしろ胸を張って『ピピ』『チュンチュン』とルナに答えるように鳴いている。


ルナの友達をジィ……と順番に見つめると、竜魔王はその口を開き、思ったままの感想を呟いた。


「…お前……ネーミングセンス無いな」


「えぇっ!?そ、そうですか!?分かりやすくていいと思ったんですけど!」


「分かりやすいというか……見たまますぎると言うか………ふっ」


「あぁっ!笑わないで下さい!」


「ハハッ!すまんすまん。まぁ、こいつらは気に入ってるようだしな。いいんじゃないか」


口から出た言葉はルナのネーミングセンスを否定するものだったが、竜魔王はあまりの単純すぎる名前に笑ってしまう。


その笑みは言葉とは裏腹に、馬鹿にするでも見下している訳でもない。


それが伝わったのか、ルナもまた段々と笑顔に戻っていく。


「ふふっ。はい!いいんです!私達はとっても仲良しですからね!」


「仲良し…か。…………そう言われると……少し()けるな」

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