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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
『ルナ』
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5


「え?……きゃっ!?」


竜魔王は一言呟くと、自分を見つめるルナへ手を伸ばし、彼女を抱きかかえた。


竜魔王の突然の行動と、俗に言う『お姫様抱っこ』にルナは顔を真っ赤にさせる。


「りゅ、竜魔王様!?」


「決めた。今から俺とも『お散歩』に行くぞ、ルナ」


「えぇっ!?い、いえ!お散歩でしたら!自分の足で歩きますから!()ろして下さい!」


ルナは恥ずかしさと申し訳なさから、足をバタバタさせるが、そんなモノは竜魔王にとって無意味過ぎる抵抗。


「いいや、ダメだ。今からするのは、俺だけが出来る特別な『お散歩』だからな。下ろす訳にはいかない」


「と、特別な……お散歩?」


「あぁ。しっかり掴まっていろ」


ルナにそう告げると、竜魔王は自身の背中から漆黒(しっこく)(つばさ)を生やした。


現れた自分の翼とは違う、巨大な蝙蝠のような翼にルナは一瞬見惚れる。


「行くぞ」


ギュッと竜魔王がルナを抱く手に力を込めると、ルナにも彼の意図が伝わった。


「は、はいっ!」


ルナもまた竜魔王の首に腕をまわし、彼の体にギュッとしがみつく。


そんな彼女の可愛らしい仕草に自然と笑みを浮かべると、竜魔王は地面を蹴り、ルナと共に空へと羽ばたいた。


一瞬で地面が遠ざかり、あのポンポン達はもう米粒程にしか見えず、自分達が住んでいる古城の屋根すら眼下になる。


「凄い!地面があんなに遠い!」


「なんだ?まだ上に飛んだだけだろ?」


「それでも凄いです!一瞬でこんなに高く!」


先程は慌てふためきバタバタと騒いでいたのに、今はもう景色を楽しげに眺めるルナ。


そんなルナを見て竜魔王が不思議そうに尋ねると、ルナは満面の笑みで力強く頷く。


溢れんばかりの感動が竜魔王にも伝わり、彼もまた楽しげに微笑んだ。


「ふっ。これくらいで満足するな。飛ぶのが好きなら丁度いい。このまま空中散歩と洒落(しゃれ)こむぞ」


「はいっ!よろしくお願いします!」


ルナがそう答えると、竜魔王は翼を大きく羽ばたかせ、ビュンッ!と一直線に飛んでいく。


それはジェットコースターのように……いや、それよりも早く、とんでもないスピードだった。


普通の人間ならば泣き、(わめ)き、騒ぐ……もしくは失神する程の。


しかしルナはもう普通どころか、人間ですらない。


人間には耐えられぬスピードも、ルナは目をキラキラと輝かせ楽しんでいる。


それこそ喋る余裕があるほどに。


「竜魔王様!これからどちらへ!?」


「決めてないな!ルナは何処に行きたい?お前の行きたい所に連れてってやるぞ!それこそ地の果てまでな!」


風圧に負けないように、自分の声がしっかりと相手に届くよう、大きな声で会話する二人。


竜魔王の意外な答えと、何処までも自分の事を気遣ってくれる言葉に、ルナは顔をほころばせながら力強く答える。


「私はどちらでも大丈夫です!竜魔王様と御一緒なら!何処までも!」


「嬉しい事を言ってくれるな!………その言葉……忘れるなよ」


ルナの言葉に竜魔王は黒い笑みを浮かべる。


竜魔王の『地の果てまで』という言葉は、その場の雰囲気も相まって上空混じりから出たもの。


しかしルナの言った『竜魔王様となら何処までも』という言葉は、彼女の本心そのものだった。


彼女に慕われている竜魔王が……自分を慕うように仕向けた竜魔王本人が、ルナのその気持ちが嘘偽りのないものだと誰よりも知っている。


(それでいい。俺とお前は既に運命共同体。何処までも共にあり、離れられぬ存在となるのだ。仮にお前が望まぬとも…俺は何処までもお前を連れて行く。…俺の向かう……この世の破滅(はめつ)まで…)


竜魔王が望むのは、自分の一族を、自分を拒絶したこの世界に住む、生きとし生けるもの全ての破滅。


彼がルナを助けたのも、彼女を傍に置いているのも、その願いを叶える為の手段に過ぎない。


だがルナは、竜魔王の野望も、その身に抱える闇の本当の深さも知らない。


ルナはただ、竜魔王をこの世界で初めて自分を認め、必要としてくれた存在として慕うだけ。


ルナが竜魔王を疑う事は無い。


ルナの中に、竜魔王を疑う気持ちは微塵も無い。


ただ聞き取れなかった先程の言葉を素直に聞き返すだけ。


「???…竜魔王様っ!すみません!最後の方が聞き取れなかったのですが!」


「………ふっ。スピードを上げるぞ!舌をまた噛まないように気をつけろ!」


「は、はいっ!!」


素直に自分の本心を語るルナとは裏腹にに、自分の本心…邪心(じゃしん)(さと)られないようにする竜魔王。


幸か不幸か、ルナはソレに気づくこと無く、竜魔王の指示に素直に従った。


何処までも自分に従順な少女に気を良くした竜魔王は、彼女を抱えたまま、猛スピードで空を(かけ)て行く。




いくつもの山を、村を、街を、森や川を()び超えて、二人が辿り着いたのは……何も無い…ただ広いだけの野原………平原だった。




「…………着いたぞ」


「…竜魔王様。……ここは?」


「ここは100年前……人間全ての頂点である今の女王と、魔族を従えた覇王が、この世界の覇権(はけん)を争った場所だ」

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