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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
『ルナ』
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その言葉にルナ……いや、成海(なるみ)微笑(ほほえ)む。


「捨てられたからこそ……今の私が…ルナがいるんです。だから私は………今、とても幸せです」


それは(まご)うことなき成海……ルナの本心。


彼女は全てを捨てたからこそ、今こうして心から笑っていられる。


こんな風に笑顔で過ごせる毎日など、王都では有り得なかった。


きっとエリカ達が動かず、あのまま王都で(きずな)の王妃となれても、彼女は決して幸せではなかっただろう。


竜魔王(りゅうまおう)様のおかげで、私は『成海』を捨てました。もう私は二番目でも、この世界の未来の王妃でもない。そんな未来なんて私にはいらない。私は…竜魔王様と共に生きる未来しかいりません。私はもう…竜魔王様の為だけに生きる…『ルナ』です」


「そうだな。ルナ……お前は俺のものだ」


そう言って優しく自分を抱きしめる竜魔王に、ルナは照れながらも幸せそうな笑顔を浮かべる。


竜魔王もまた微笑んでいた。


命を助けたとはいえ、ここまで自分に心酔(しんすい)するとは……。


期待していた以上の展開と成海の……いや、ルナの反応に自然と口角が(ゆる)んでしまう。




ひと月前……竜魔王は死にかけていた成海をこの廃城(はいじょう)に連れ帰り、自分の竜王族(りゅうおうぞく)としての力と命を分け与えて、その命を救った。


幼い頃、父から聞いた話を元に、無理矢理…それも自分流にアレンジした魔術を使った為に、その代償(だいしょう)は二人にとって大きなものだった。


成海は魔力だけでなく、この世界のどんな種族より強い竜王族の命まで分け与えられたからこそ、人間ではなくなってしまった。


竜魔王の方も魔力と命を分け与えた結果、竜王族として本来の姿……完璧な竜の姿に戻る事が出来なくなってしまった。


二人とも人間の姿をしているのに、人間でも竜でもない存在へと変わってしまった。


それでも竜魔王が成海を助けたのは……自分の目的の為。



「うっ!!がっ!!あぁっ!!」


「…………まだ馴染(なじ)まない、か」


ポツリと(つぶや)く竜魔王の前には、ベッドの上で(うめ)き暴れる成海の姿。


ここに連れて来てから一週間。


成海の体は人間では耐えられないような激痛を受け続けていた。


時々血を吐き、(つね)(なみだ)(よだれ)を垂らし、眠る事さえ出来ない。


あまりの痛さに、彼女の意思とは関係なく体はバタバタと暴れるように動く。


人間から、竜の力と命に耐えられる存在へと変わる為、成海の体は必死に変わろうとしていたのだ。


「頼む。耐えてくれ。今この時、耐える事が出来れば…お前は生きられる。死ぬな。死なないでくれ。……頼む。生きてくれ」


そう言って竜魔王は何度も彼女に言葉を掛け続け、彼女の頭や体を(いた)わるように撫でてやった。


「はぁっ!!はぁっ!!うっ!!ぐうぅっ!!」


「死ぬな。生きろ。俺はお前に死んでほしくない。俺はお前に……生きててほしいんだ」


「がはっ!!あっ!あぁああっ!!」


血を吐き、涙を流し続ける成海。


だが次第にその涙は……痛みではなく、別の感情から(あふ)れてきていた。


今まで否定されてばかりいた自分を望む存在……そんなものが確かに今、ここにいるという事を……彼女もまた感じていたからだ。


成海が喜びの涙を流している間も、竜魔王は彼女に声を掛け続ける。


ただ心の中では、言葉に出していない彼の本当の気持ちが語られた。


(お前に死なれちゃ困るんだよ。竜王族としての力と命までやったんだ。お前には生きて……役に立ってもらわなきゃ…俺が困るんだよ)


自分の目的の為。


この世界に生きる全ての者への復讐の為……竜魔王は成海を望んだ。


彼女の力を……人間として最強の力、想造力を望んだ。


「頼む。生きろ。生きてくれ。死なないでくれ」


竜魔王は成海に何度も……優しく声を掛け続け、(いた)わるように体を撫で続け、汗や涙や血を丁寧(ていねい)に拭いてやった。


そして……その日の夜。


やっと成海の体は……完全に人を捨て、新しい生命へと生まれ変わった。


遂に竜王族の力と命が、その身に馴染んだのだ。


それからも竜魔王は、成海に甲斐甲斐(かいがい)しく世話をやいた。


食事や水は竜魔王が口に運んでやり、トイレに行きたいと言えば運んでやり、彼女が嫌がらない範囲(はんい)で体を()いて服を変えてもやった。


彼女の体がまだ時折痛んだ時も『大丈夫か?苦しいのか?何処が痛い?』と彼女の体に回復魔法や痛みを和らげる魔法を掛けてやった。


彼女が殺されかけた時の悪夢を見てうなされれば『大丈夫だ。俺が(そば)にいる。もう怖いものは何処にもいない』と抱きしめて、優しく声をかけた。


成海が少しでも痛がったり、苦しんだり、泣いたりすれば………竜魔王は直ぐ彼女に駆けつけた。


成海の体が落ち着いている時…竜魔王は自分の身の上も全て話した。


世界最強と(うた)われた自分の一族は(ひど)い裏切りにあい皆殺(みなごろ)しにされ、自分もまた同じように信じた者に裏切られ殺されそうになったこと。


最強の魔王と呼ばれる自分は……今はもう一人ぼっちだということを。


また成海が話す彼女の身の上も、竜魔王は真剣に、そして口を一切挟まずに黙って聞いてやった。


全て聞いた上で『辛かったな』『お前はずっと一人で頑張っていたんだな』と、彼女の望む言葉を言ってくれた。


その言葉で……成海はまた泣いてしまった。


初めは警戒していた成海も……竜魔王の態度や言葉に…徐々に心を開いていった。



「そういえば……まだお前の名を聞いてなかったな。教えてくれるか?」


「………成海(なるみ)…です」


「そうか。………では成海(なるみ)。人間としてのお前はもう死んだ。お前は生まれ変わったんだ。『成海(なるみ)』は捨て……これからは『ルナ』と名乗れ。新しい名で、新しいお前だけの人生を生きろ」


「……ルナ?……新しい…私の名前?」


「そうだ。今後はルナとして生きろ。俺の傍で……俺の為に。俺もお前の傍にいて、お前の為に生きると誓おう」



命を救い、自分を大切に扱い、また自分の気持ちも存在も、全て受け入れてくれた竜魔王。


そしてこれからはずっと傍にいてくれる。


自分の為に生きてくれる、自分が傍で生きる事を許してくれる。


二番目でも、王妃でもなく……ただ彼女自身を認め、許し、望んでくれる。


過去を全て捨てた……捨てさせてくれた竜魔王。


新しい自分を…『ルナ』としての人生をくれた竜魔王。


成海が彼に心を許すには……十分だった。



「……はい。私は…『ルナ』として…貴方の為に生きます。一生、貴方にお仕えし、貴方のお傍で、貴方の為に生きる事を……誓います。私の全ては……竜魔王様のものです」



「あぁ。お前はもう俺のものだ。……俺の……俺だけのルナ」



お互い誓いを交わした竜魔王とルナ。


竜魔王は自分の目的に使(つか)える(こま)として、ルナは自分が生涯(しょうがい)(つか)える主として、相手を必要とした。


どのような理由があれ、思惑(おもわく)があれ………竜魔王にはルナしか、ルナには竜魔王しかいない。


晴れて主従となった二人は、その後も廃城で暮らし………現在の時間…竜魔王が成海を救ったひと月後へと繋がる。

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