表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
『ルナ』
62/67

1




成海(なるみ)(きずな)魔族討伐(まぞくとうばつ)へ向かったあの日。


女王の元に『成海が死んだ』との報告が届いた日から……ひと月後。



鬱蒼(うっそう)とした深い森の中に(たたず)む古い廃城(はいじょう)の庭で、銀髪の少女が空を見上げていた。


空を映す少女の瞳は黄金(おうごん)に輝いており、まるで太陽の中に空があるかのような錯覚(さっかく)を覚える美しさだ。


ここは人里からも遠く離れ、鳥や獣…魔獣達の住処となっている深い森。


王都アイリーンから遠く離れたユラシアーノ大陸、その東南部にある……特殊な結界により隠された森。


そこに彼女はいた。


「…………よし。今日こそは!」


少女は金色の瞳を閉じると背中に意識と魔力を集中させる。


すると、少女の背には漆黒(しっこく)の大きな(つばさ)がバサッ!と勢いよく生えた。


「目指すは……この木の頂上!」


少女は目の前の高い大木を見上げると、翼を大きく羽ばたかせる。


バサバサと羽音を立てながら、少女は宙に浮き…いや、上へと飛んでいく。


まるでその姿は鳥……いや、黒い翼の天使のようだ。


「よし!いける!もうちょっとで……えっ!?わ、わわっ!きゃあぁぁっ!!?」


目指していた木の頂上まであと少し……という所で、彼女の意識は乱れ、飛んでいた体は地面へと真っ逆さまに落ちていった。


ドサッ!という音が響き少女が地面に墜落(ついらく)すると、大木から鳥が三羽飛び出し、少女へと寄っていく。


少女は倒れたまま、地面に打ち付けた頭を抑えていた。


「あいたたたた………。やっぱり…まだ上手く飛べないや」


「チュン!チュチュン!」


「ブルー!それにベニ!キィも!ごめんね。ビックリさせちゃって」


少女はその場に座り込むと、寄ってきた青、赤、黄色という色とりどりの鳥達に話し掛ける。


鳥達も少女を(した)っているのか、彼女の肩に乗ったり、周りを飛んだりと全く警戒していない。


騒がしくピィピィと鳴く鳥達に少女は笑みを浮かべる。


そして草むらの影からも……二匹の毛むくじゃらで単眼(たんがん)の…子犬ほどの小さな魔物まで出てきた。


一匹は赤い大きな目玉、もう一匹は青い大きな目玉をしている。


まるで毛玉の一つ目お化け。


少女はその魔物達にも鳥達と同じように笑顔を向ける。


「ポンポン!モフモフ!」


『ポンポン』『モフモフ』と呼ばれた一つ目の毛玉は、ピョンピョンと高く飛び跳ねながら少女へと寄っていく。


銀髪で黒い翼を生やした少女は、魔物を恐れることなく、二匹のフサフサな毛並みを撫でてやった。


毛玉達は『ギィギィ』と鳴きながら、ジィ…と少女を見つめる。


その大きな赤と青の目玉が逸らされぬ事なく、真っ直ぐと自分に向けられたことで、少女は毛玉二匹と鳥達の心情を悟った。


「もしかして……また私が落ちたから心配してくれてるの?皆、ありがとう。私は全然大丈夫だよ。………もう…人間じゃないからね」


『人間じゃない』


そう語る彼女の笑みは……何処か(うれ)いを()びている。


少女が安心させるように告げると、毛玉達はピョンピョンと彼女の周りを跳ねだした。


鳥達もまた少女へと()()る。


「皆優しいね。ありがとう。………そうだ。天気もいいしちょっとお散歩しようか?ここのお庭も広いからね」


そう言うと、少女は鳥と毛玉を引き連れて庭を歩き出した。


廃城と同じように荒れてはいるが、草は青々と茂り、美しい花もたくさん咲いている。


彼女はここを、鳥や魔物達と散歩するのが日課になっていた。


そして一番のお気に入り、大きな泉の傍に行くと……彼女は身を乗り出して、水面に映る自分の姿を見つめる。



ひと月前までとは……まるで違う自分の姿を。



彼女は元々、背中まで続く長い黒髪で、瞳もまた髪と同じく漆黒だった。


極々普通の、日本人の容姿だった。


しかし今…水面に映る彼女は、長い銀髪と黄金の瞳の姿。


そして背中には大きく黒い翼が生えている。


「………まだ慣れないな。銀髪で、金色の目に………牙。こっちはなんとか慣らしたけど…」


彼女は水面に顔を近づけ、綺麗に並んだ上の歯にある、二本の鋭い牙を見てため息をついた。


最近は慣れたが、最初のうちは食事の度に唇やら舌を噛んだりと大変だったのだ。


少女は振り返ると少し離れたあの大木と廃城(はいじょう)を見つめる。


「今日は……三階くらいまでは飛べたかな?三階から落ちたのに……骨折どころか、かすり傷も無い。痛かったけど……それだけ」


かなりの高さから勢いよく落ちたのに、怪我を負わない頑丈な肉体。


再び視線を泉に戻すと、彼女は自分の意思で翼を前に寄せる。


「天使みたいな……ううん。まるで堕天使(だてんし)みたいな…黒い翼」


明らかに人間ではない姿と強度。


しかし『堕天使(だてんし)』と(つぶや)いた事で、彼女の顔にはまた笑みが浮かんだ。


「………堕天使(だてんし)、か。…ふふっ。いいじゃない。王妃や二番目なんかより、よっぽどマシよ。だって……今の方が…私は幸せだもん。優しい友達だっている。………それに」


「ルナ。こんな所にいたのか」


呟きの最中、彼女の耳に届いた男の声。


彼女を『ルナ』と呼ぶ男は………一人だけ。


それは彼女をこの姿に……人間とは違う生き物に変えた…命を救った者。


『ルナ』と呼ばれた少女が勢いよく振り返ると、そこには透き通るような水色の髪と…彼女と同じ金色の瞳を持つ男がいた。


「っ!?竜魔王(りゅうまおう)様っ!」


ルナは驚きつつも、満面の笑みを竜魔王……この世界で最も恐ろしい魔王へと向ける。


だが竜魔王の方は…少々不機嫌そうな顔をしていた。


「『城から出る時は声を掛けろ』といつも言ってるだろう。例え行き先が庭でもだ」


「す、すみません。お昼寝されていたので……起こすのも申し訳なく…」


「バカ。急にいなくなる方が心配する。体は……本当にもう大丈夫なのか?痛みは無いか?」


そう言って優しく自分の頬を撫でる竜魔王の手に、ルナは自分の手を重ねた。


「……ありがとうございます。本当にもう大丈夫ですよ。竜魔王様のおかげで……私はもう人間じゃありませんからね」


ふふっと楽しげに笑うルナだったが、竜魔王の方は今のルナの言葉で顔を曇らせる。


「………俺のせいだな。すまない」


「っ!?そんなっ!謝らないで下さい!私は竜魔王様に感謝してます!竜魔王様は私の命を救って下さいました。……竜王族の姿を捨ててまで…。謝らなきゃいけないのは…私の方です」


始めは力強く否定していたルナだったが、今度は彼女の方が徐々に顔を曇らせ…遂には涙が流れた。


竜魔王はルナの頬から目元へと手を動かすと、自分と同じ金色の瞳から溢れる涙を拭い、彼女に優しく声を掛けた。


「それに関してお前が責任を感じる必要はない。俺が好きでやった事だ。もう二度と完全な竜の姿になれずとも……俺はお前を救いたかった。生かしたかった。それに……」


竜魔王が竜本来の姿を…本当の自分の姿を捨てたというのなら……彼女もまた多くのモノを、命と引き換えにした事になる。



「捨てたのはお前の方だろう。いや……俺が捨てさせたのか。人間である事も……『成海(なるみ)』という名も」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ