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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
別離と邂逅
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10



成海が死んだ。



想造世界から二番目に来た女が死んだ。



その事実は直ぐに、王都にいる女王へと報告された。



「………死んだ?…成海が……死んだだと?」



空間転移を使用して戻った将軍の部下の話を聞き、女王は目を見開いたまま呆然(ぼうぜん)とする。


まるで女王だけ時が止まったかのように。


女王の傍に控えていた宰相も、宰相補佐であるヴィクターもまた驚きの表情を浮かべる。


「………陛下」


「なんということ……姫様が魔族に…」


悲しげに目を伏せる宰相と、口元に手を当てるヴィクター。


宰相は本心から成海の死を、彼女を(あわ)れと思っているようだが、ヴィクターは…ただ悲しんでいるふりをしているだけ。


若くして死んだ成海への哀れみ?


成海の死に対する悲しみ?


そんなモノはヴィクターの中に存在しない。


成海の死の報告を聞いた彼の心は…喜びで満ち満ちていた。


(よくやった!よくやったぞキース!これで邪魔者はいなくなった!これでエリカが王妃となれる!この世界にとって不要な二番目は死んだのだ!なんという吉報(きっぽう)!この世界の者は私を含め(みな)喜ぶだろう!陛下もきっとお喜びに!………?)


その時…ヴィクターは初めて女王の異変に気づく。


彼は女王が喜ぶと思っていた。


死んだのはこの世界に不要で邪魔な…女王が嫌悪(けんお)していた二番目。


あれだけ嫌っていた成海が…自分の心を煩わせてばかりの小娘が死に、女王はきっと満面の笑みを浮かべる…もしくは高笑いすると思っていた。


しかしその女王は……いつまで経っても、呆然としているだけ。


「…成海が……死んだ?遺体も残らず……魔族に…喰い殺されたというのか?」


やっと出た女王の声は何処か震えている。


ヴィクターはダメ押しと言わんばかりに、女王に対して言葉を掛けた。


「……陛下。…そのようです。二番目であり、王妃となるはずだった姫様は……もう…」


悲しげな演技を忘れずに、それでもしっかりと『二番目』『王妃』という言葉を強調するヴィクター。


その言葉を聞き、女王は徐々に俯くと、ポツリポツリと言葉を発した。


「………そうだ。…あれは…二番目だ。…いてはならない存在。…この世界に…不要の存在。…それなのに……何故こうも…胸が痛む?」


胸を抑え、悲しげに呟く女王に宰相もヴィクターも戸惑った様子で彼女を見つめる。


女王も自分と同じく演技をしているのでは?と思ったヴィクターだったが、それは直ぐに違うと気づいた。


こんな女王の姿は……宰相もヴィクターも見たことがない。


喜ぶはずだと思った女王は今……成海の死に…深く傷ついていた。


声だけでなく、体も小刻みにプルプルと震えている。


何故こんなにも辛く悲しい気持ちになるのか……それは女王自身が一番分からなかった。


まるでこんな気持ちは間違いだと言わんばかりに、女王はブンブンと首を横に振る。


「あれは……成海は何処にでもいる無礼な小娘だった。いつも私に口答えをし、女王たる私を睨んで………っ!?」


そこまで口にして女王はハッとした。



成海が無礼な小娘だというなら……自分はどうだった?



自分は……自分と同じく、元の世界や家族友人から無理矢理引き離され、この世界に一方的に呼ばれた成海に……何をした?



「…何故……今、気付いたのだろう?何故…私は今の今まで…気づかなかったのだろう?」


女王の脳裏には、自分を睨む成海の姿、絶望したような表情を浮かべる成海の姿ばかりが浮かぶ。


「私は成海の……あの子の笑った顔を…見たことが無い。一度もだ。それは私が…ただの一度も………っ、私があの子に……優しい言葉も掛けてやらなかったから。思いやる事が…出来なかったから」


成海がいつも自分を(にら)んでいたのは何故か?


成海が自分に笑顔を一度も向けなかったのは何故か?


それは女王自身が成海を『二番目』という理由だけで毛嫌いし、冷たく、キツく当たっていたから。


成海という少女を……一人の人間として見ていなかったからだった。


自分と同じ存在だったのに。


「成海は……私と同じ想造世界から来た娘。見知らぬ世界に無理矢理連れて来られた…哀れな娘。それなのに…私はあの子に…なんということを」


胸を抑えていた両手を離し、見つめる女王。


後悔に震えるこの手ですら……彼女は成海に差し出すことをしなかった。


「…こんなにも苦しいのなら……こんなにも悲しいのなら……っ!」


女王の目に涙が浮かんだ瞬間、彼女はバッ!と自分の両手で目を覆った。


「こんなにも後悔するのならっ!もっと!もっとあの子を!大切に扱うべきだった!(いつく)しんでやるべきだった!優しくしてやるべきだった!あの子の言葉を!もっと!しっかり!聞いてやるべきだった!なのに!私はあの子に…何一つしてやらなかった!いや!私はあの子に何をした!!?」


両手で目を抑えても、涙も後悔も抑えることなど出来ず、自分の内から(あふ)れてくるだけ。


今まで女王は、成海を『二番目』という肩書きでしか見なかった。


かつて『二番目』に裏切られたという過去から…同じ『二番目』である成海にも不信感を抱いた。


不安を、嫌悪を、恨みを……負の感情を全て、成海にぶつけてきた。


その上、女王はヴィクターの薬の副作用で気性が荒くなっていた為、自分の感情を制御出来なかった。


それこそ普段の女王なら、ヴィクターと同じように『二番目』である成海が死ねば喜んでいたかもしれない。


ヴィクターも宰相も…正直、成海の死を聞いた時から、喜ぶ女王の姿を予想していた。



実際は……その真逆。



成海の死は……女王を喜ばせるどころか…女王に深い後悔と悲嘆(ひかん)をもたらした。


「成海を!あの子を殺したのは私だ!私があの子を魔族討伐に向かわせたから!私が成海を殺した!私が殺したのだ!哀れな成海を!」


「へ、陛下!どうぞ落ち着いて下さ」


「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ!だまれぇ!!どいつもこいつも!成海を軽んじていた!成海を邪魔者扱いしていた!私と同じ運命を背負った子を!私がそうだったのだ!この世界の女王である私が!私があの子を追い詰めたのだ!私は人殺しだ!」


「何をおっしゃいます陛下!姫様を殺したのは魔族!全ては魔族がやったのです!おい!誰か!早く陛下を寝所へお連れしろ!」


パニック状態に陥った女王をなんとか宥めようと、ヴィクターと宰相は彼女を寝室へと向かわせる。


駆けつけた数人のメイドに手を引かれながらも、女王は報告に来た将軍の部下に向かって最後の叫びを響かせた。


「魔族!?魔族魔族魔族魔族魔族ぅううう!この世界に巣食う害悪!汚い害虫共め!絆と将軍に伝えよ!その場にいる魔族は成海の仇!皆殺しだ!どいつもこいつも!八つ裂きにせよぉおおお!」


狂ったように怒鳴りながら謁見の間を出る女王を、宰相と将軍の部下……そして成海の暗殺を密かに命じたヴィクターは…真っ青な顔で見つめていた。

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