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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
別離と邂逅
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8


世界の破滅(はめつ)という思想に取り憑かれた竜魔王は、既に虫の息だった成海に問いかける。


「…女。お前はもう死ぬ」


「………わた…し………しぬ…の?」


問い掛けられた言葉に、成海は最後の力を()(しぼ)り言葉を返した。


そんな成海に竜魔王も言葉をかけ続ける。


「あぁ死ぬ。なんだ?死ぬのが嫌か?怖いか?」


「こわ…い。…しにたく…ない。…でも………わたし…なんか…だれも…ひつよ…と…しない」


死を目前とした成海の脳内を駆け巡った走馬灯。


そのどれもが、成海を『不要な二番目』と(ののし)る物ばかりだった。


だからこそ今の成海は、既に死を受け入れ、生きる事を諦めている。


そんな成海の言葉を聞いて、竜魔王は笑みを更に深くした。


「ほう?お前は必要とされない。いわば邪魔者ということか」


「わた…しは…いらな……そんざ…」


「そうかい。だが俺はいる。お前を必要としてやる。俺はお前が欲しいからな」


そう(つぶや)いた竜魔王の言葉に、成海の漆黒の瞳は光を(よみがえ)らせる。


まるで希望を与えられたように…。


「わた…しを…?…わたし…いきて…いいの?」


「俺のものになるならな?どうだ?もう一度聞く。お前、生きたいか?」


今まで散々『不要な二番目』と扱われてきた成海。


信じた友にすら裏切られ、殺したい程に嫌われ、憎まれていたと知ってしまった成海。


この世界全てに拒絶された成海にとって、竜魔王のこの言葉は……彼女にとってとても…とても甘美な毒となりその身と心を瞬く間に侵食していく。


自分を『必要』だと欲してくれる者の言葉。


生きる事も、認められる事も、友達も、全てを諦めていたはずの成海。


しかし僅かにも生への執着が芽生えた成海は、姿もよく見えない、何処の誰かも知らない目の前の男に…自分の想いを告げる。



「…いき…たい。…わたし…しに…たく……ない…よ…」



そう言って涙を流す成海の頬を、竜魔王は優しく撫でてやる。


そして彼は彼女の欲していた言葉…そして自分の為の言葉を(つむ)いだ。



「いいだろう。お前の命、俺が生かしてやるよ」



竜魔王は成海の頬に触れたまま、空間転移(くうかんてんい)という瞬間移動の魔法を発動させる。


その直後、竜魔王と成海の二人はこの地から跡形(あとかた)もなく姿を消した。


この地に残ったのは散らばったあの男達の肉片(にくへん)と血の海。


そして……成海が手に巻いていた、あの『クララビ』の(うさぎ)のイラストがついたハンカチの切れ端だけ。





空間転移を無事発動させた竜魔王は、自分の根城でもある廃城へと戻っていた。


竜魔王は知らないが、ここはかつて彼の一族を滅ぼしたあの『覇王』が根城として使っていた城。


200年前に主が死に、その部下もこの場を捨てた為に荒れ果てていたが、数十年前に偶然見つけた竜魔王が住みついていた。


竜魔王は地面ではなく床に横たわる成海の体を抱きかかえると、自分が使っているベッドに寝かせる。


「約束通り、お前を助けてやる。そういえば…まだお前の名前を聞いてなか……………ん?」


言葉の途中で竜魔王は成海の顔を見て固まる。


彼女の顔からは既に血の気や生気が失せ、土気色をしていた。


体はピクリとも動かず……それこそ呼吸もしていない。


「っ!?おいっ!まさかもう死んだのか!?」


ガクガクと成海の体を揺さぶる竜魔王だが、彼女からの反応は何も無い。


想造力という恐ろしい力を使えるとしても、彼女達も所詮は人間。


竜や魔族ように頑丈な体も、長い寿命も持ち合わせてはいない。


慌てて成海の胸に耳を当てる竜魔王。


…………………トク……………………トク。


ほんの(わず)かだが、成海の心臓はまだ動いている。


しかしそれもいつ止まるか……成海はあと数分………いや、数秒で死ぬかもしれない。


「クソッ!!これだから人間は!これくらいで死ぬとか弱すぎるだろっ!!」


悪態をつく竜魔王だが残された時間はほぼ無い。


「お前に死なれちゃ困るんだよ!お前は……俺の為に必ず生かす!だから死ぬなっ!おいっ!!」


必死に成海に叫び続け回復魔法をかける魔王。


そんなもの、死にかけているこの人間の女には全てが手遅れで無意味だと竜魔王も分かっている。


それでも竜魔王は成海を……目の前の女をなんとか助けたかった。


己の欲の為とはいえ……彼は彼女を生かしたかった。


そんな竜魔王の脳裏に、かつて聞いた父の言葉が蘇る。



『かつての族長は、全ての人間達を治めた古の王のシュヴァリエとなり、王と契約を交わした。それにより古の王は、我等と同じ姿と、人間では有り得ぬ強大な魔力を手にしたのだ』



「っ!?」


何故、今になって亡き父の言葉を思い出したのか?


だがその言葉は…今死にかけている目の前の人間の女を救う唯一の方法のきっかけとなった。


かつての族長が交わした契約とは違うだろうが…竜魔王はこの女を生かす為、とんでもない荒療治を即決する。


「そうか!そうすればいい!やり方はきっと違うが…そうすれば!」


そう叫ぶと、竜魔王は成海の体を貫いたままのサソリの尾を掴み、無理矢理それを引っこ抜く。


そしてサソリの尾を投げ捨てると、左手で自分の右腕を掴んだ。


「ぐ…ぐぅうううう! ぐぁあああ!!」


竜魔王は自分の右腕を引きちぎると、サソリの尾が抜かれた成海の腹部にある空洞にそれを押し込む。


「弱い人間だから死ぬというのなら!お前はもう人間を捨てろ!俺の右腕をやる!命も半分やる!俺と同じ存在になり!俺と共に生きろ!」


竜魔王はそう叫ぶと、自分の持つ魔力を口に集め、そのまま成海へと乱暴に口付けた。


人工呼吸で空気を送り込むように、竜魔王は自分の魔力を、命を、成海へと流し込む。


そして竜魔王が口を離した直後……成海の心臓は…ドクンッ!!と強く激しく脈打ち、漆黒の両目はカッ!と大きく見開いた。


「これでいい。………後は…なんとか耐えろよ」


竜魔王がベッドから離れると、成海の体は彼女の意志とは関係なく、バタン!バタン!と激しく暴れ出す。


成海の体は全身が燃えるように熱く、全身の骨が砕けるようにバキバキと音を立てる。


歯は全て抜け落ち、代わりの歯や鋭い牙がメキメキと急成長し歯茎から生えてきた。


体を貫かれた時以上の激痛が、人間では決して耐えられるはずのない痛みが、成海を襲う。


「ガッ!ハッ!!グッ…うぁっ!!あぁあああああああ!!」


涙を流し、血を吐き出し、体中に走る激痛に(もだ)え苦しむ成海。


バタバタと暴れ苦しむ成海だっが、竜魔王はそれ以上は何もせず、ただジッと彼女を見つめるだけ。


成海が苦しみ続けている間にも、彼女の体は人間から変化しようとしていた。


これは古の王と、そのシュヴァリエだった竜王族族長が交わした契約とは違う、竜魔王が無理矢理編み出したやり方。


それでも……成海が本当に竜魔王の力を受け継いだのなら……必ずある変化が起こるはず。


竜魔王はただその時を待った。


そしてその時は……直ぐに訪れた。



暴れ続けた事で激しく乱れた成海の黒髪が……段々と白く…いや、銀色へと変わっていく。


大きく見開かれた漆黒の両目は……竜魔王と同じ金色へと変化していった。



「これでよし。どう変わろうと想造世界の者なら、死ぬまで想造力を使えるはず。お前はもう人間じゃない。次の人間の王でも、不要の存在でもない。俺だけが必要とする者。お前はもう……俺だけのものだ」



未だ苦しみ悶え、ベッドで暴れ続ける成海を、竜魔王は満足気に、いつまでも眺めていた。


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