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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
別離と邂逅
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6


しかし、成海にとって本当の恐怖はこれからだった。


「………ゲェップ!よーし。次はデザートといこうじゃねぇか」


魔族の一人、サソリのような尾を持った男はゲップをすると成海へ振り向く。


「ひっ!!」


恐怖に(おび)える成海を見て、ニタニタと笑いながら立ち上がる三人の魔族。


足元にはさっきまで生きていた、あの男達の腕や指といった肉片(にくへん)が散らばっている。


これから自分も、彼等と同じように生きたまま喰われるだろう。


このままじゃ殺される。


生きたまま奴等に喰われる。


逃げるしかない。


そう頭で分かっていても、成海は腰が抜けており、逃げる事はおろか立ち上がる事すら出来ない。


体は震える為に動くだけで、その場から逃げ出そうとは動いてくれない。


ガタガタと震えるだけの成海に、容赦(ようしゃ)なく魔族達は近づいてくる。



だが……そんな成海と魔族達を森の奥から見つめている者がいた事に…成海も魔族も気づいていなかった。



(………虫けら共と……人間の女か。どうやら(えさ)の時間みたいだな)



その者は成海が今まさに襲われそうな状況だと分かっていながら、助ける素振(そぶ)りすら無い。


それもそうだろう。


人間は……彼が最も嫌う種族の一つでもあったから。


(意地汚く…欲深い。自分の事しか考えず…何処までも(おろ)かな人間共。…どうして…お前等を守っていた俺の一族が滅ぼされて……お前等はのうのうと繁殖し続けてるんだ)


彼は氷のような冷たい眼差しで成海を睨みつけていた。


彼が成海が『二番目』である事も、何処の誰かも知らない。


それでも『人間』というだけで、彼には成海が嫌悪(けんお)憎悪(ぞうお)といった対象にしか映らない。


それこそ……彼の嫌う(おろ)かな人間と同じだということを知らずに。


その間にも、虫型の魔族達は成海の直ぐ目の前まで迫っている。


「やっぱりどんな生き物も食うのは女にかぎるよな!」


「あぁ。人間の女は男より身が柔らかい。栄養だってある。腹にガキがいれば最高なんだがな!」


「ハハッ!じゃあお前は(はら)んでる女でも探して来いよ!俺達はこいつで我慢してやる」


「はぁ!?ふざけんな!抜け駆けしようとすんじゃねぇよ!」


「しっかし……この女。武装もしてねぇぞ?魔道士か?」


「魔道士なら下手な事される前に……」


会話をしている最中、あのクワガタの魔族は成海に向けて頭を下げ触角を開いた。


それは男達を三人同時に捕らえた時と同じ行動。


成海は次に自分の身に何が起こるか瞬時に理解した。


それでも……やはり彼女の体は震えるだけ。


「体を(つぶ)してやる!」


「っ!!?」


クワガタの魔族が飛び上がった瞬間、成海は咄嗟に目を閉じ頭を下げた。


バキッ!!


成海の耳に響いたのは…何か硬い物が壊れたような音。


しかし……いつまで経っても、成海の体には痛みがこない。


恐る恐る成海が顔を上げると、そこには成海を守るように透明な壁が現れていた。


「クソッ!こいつ!結界を張りやがった!」


「やっぱり魔道士だったか!めんどくせぇ!」


「い、いてぇ!!俺の(あご)がぁ!!」


あのクワガタの魔族は全速力で結界にぶつかったのだろう。


二股の触角……やはりクワガタだったので顎だったようだが…片方が見事に折れている。


急に現れた成海の結界に、初めて動揺を見せる魔族達。


しかし魔族達よりも……森の奥にいる彼の方が、成海の結界に動揺(どうよう)し、驚愕(きょうがく)の表情を浮かべていた。


(っ!?あの結界…ただの魔法じゃない。強すぎる魔力を持つ者の自己防衛本能。だとしても…この魔力の気配は………っ、間違いない!あの時と同じ!あの覇王(はおう)と同じ力だ!)


彼はこの時、この人間の女に……成海に深い興味を抱く。


そんな事など知る由もない成海は、自分が発現(はつげん)させた結界を見て呆然としていた。


「……け…かい?…私が…出したの?…奴等は…私に…何も出来ない?…私……っ、助かる!?」


自分の結界に安心し、気を(ゆる)めて笑顔を浮かべる成海。


それがいけなかった。


安心し、気が(ゆる)んだ事で結界の強度が一瞬で下がる。


その一瞬を見逃すほど……魔族達は甘くなかった。


「っ!?(えさ)が調子乗ってんじゃねぇ!」


サソリの魔族が激昂(げっこう)し叫ぶと、彼の尾が成海の結界へと向かってくる。


バキッ!!


先程はクワガタの魔族の攻撃を凌いだ結界だったが、今度は巨大なサソリの尾によって破られる。


そしてサソリの尾はそのまま……。


ドスッ!!


「ガハッ!!」


成海の胴体へと突き刺さった。


自分の体を貫く巨大なサソリの尾を掴む成海。


成海が触っても抜こうと力を入れてもソレはビクともせず、ただ成海の両手や彼女の手に巻いたハンカチを血で染めるだけ。


成海は腹部に感じる激しい痛みと、口内に(あふ)れる血で苦しむ。


サソリの魔族は容赦なく、成海の体を尾に刺したまま、彼女の体を宙へと持ち上げた。


「クソッ!俺達の餌でしかねぇ人間が!舐めた真似しやがって!もうてめぇは食わねぇ!」


「ガッ!……ハッ……私…を…ゴフッ!…食べない…の?」


血を吐きながら魔族へと聞く成海だったが……魔族が答えたのは、成海にとって一番聞きたくない…一番辛い言葉だった。


「あぁ!その代わり!八つ裂きにして(なぶ)り殺してやる!てめぇは餌ですらねぇ!『てめぇなんざいらねぇんだよ!』」


「っ!?」


怒り狂う魔族だったが、その魔族の言葉が……『いらない』という言葉が、再度成海を絶望へと突き落とした。


「………私は…やっぱり……この世界に…いらないんだ」


「っ!!?」


悲しく笑い…涙を流す成海。


その言葉が……かつて同じ言葉を向けられた彼の心に激しく響いた。


「おいおい!この女。泣いてんのに笑ってんぞ?」


「もう俺の毒が回っておかしくなったか?ホントは餌に毒を使いたくなかったんだがな。まぁこんな餌以下、もう関係ねぇか」


「おい!そいつを俺に寄越せ!顎を折られたお返しに!こいつの腕と足を一本づつ折って潰してやる!」


「それだけじゃ足りねぇよ。俺達をビビらせたんだ。目を潰して歯も全部折ろうぜ」


「生きたまま全身の皮をはいでもいいな。さて……やるか」


サソリの魔族が尾を引き、成海の体を引き寄せる。


成海に残虐(ざんぎゃく)な限りを尽くし、(なぶ)り殺そうと。


巨大なサソリの尾に(つらぬ)かれたままの成海。


彼女はもう……全てを受け入れていた。


自分の事は誰も必要としていない。


自分は生きている事すら望まれない。


そんな自分は……殺されても仕方ない。


全てを諦め『この世界にとって不要の存在』という自分の運命を受け入れようとしていた。


それを受け入れなかったのは……彼の方だった。


ザシュッ!!


成海の体を貫いていた巨大なサソリの尾は、魔族達に届く前に音を立てて斬り裂かれる。


「ぎゃあああ!!」


「こ、今度は何しやがった!」


「っ!?違ぇっ!あの女じゃねぇ!あれは!」


驚き叫ぶ魔族達の前に現れたのは…サソリの尾が刺さったままの成海を抱き宙に浮く男。



その男は………大きな漆黒の翼を持ち、輝くような黄金の瞳をした男だった。

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