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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
別離と邂逅
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『わたくしの名はエリカ。エリカ=メイ=リスクと申します。どうぞお見知り置きを、姫様』


『姫様…そんなに泣かれて。…何かあったのですか?わたくしで良ければ…お(はなし)願えませんか?』


『姫様はこの世界にとって女王陛下、そして絆様の次に(とうと)いお方。そして何より…わたくしの大切なご友人です』


『姫様は…本当にお優しい方ですわね。心優しい姫様とご友人となれて…わたくしは幸せですわ』



成海の脳裏には、今まで自分に向けられたエリカの優しい言葉が、笑顔が、次々と浮かんでは消えていく。


誰もが成海を邪魔者と扱う中で、唯一優しく、友として接してくれたエリカ。


だが、成海がエリカから向けられたのは……笑顔だけではなかった。



『急に姫として現れた貴女様は!わたくしの欲しかったものを簡単に奪い去った!それなのに…簡単に『嫌だ』『いらない』などと。…誰もが望むものを手に入れているのに…これ以上何を望まれるのですか!?』



そう叫んだエリカの美しい緑の瞳は…敵意と憎悪(ぞうお)に満ちていた。


美しい顔を(ゆが)めたエリカを思い出し、成海は悟った。


やっと分かった。


分かってしまった。


(……そうか。…アレがエリカちゃんの…本当の気持ちだったんだ。…アレだけが…エリカちゃんの……本心だったんだ…)


たった一人の友……たった一人…この世界で心を許せた友達。


美人で、優しくて、大好きな友達。


その友達が…自分を殺したい程に憎んでいた。


その事実が…どうしようもない絶望として、成海の中に満ちていく。


成海はもう、何も言葉を発さない。


俯き、涙を零すだけ。


今まで何度も、何度も何度も言われ続けた言葉が…今この時、彼女の心に深くのしかかる。


「………私…は……本当に…いらない存在だった。…誰も…私なんか……いらなかったんだ…」


無意識に成海の口から零れた言葉に、男達は呆れたり笑ったりと見下す姿勢を崩さない。


悲しみに打ちのめされている少女を見ても、それが二番目なら哀れむことすら彼等は……この世界の人間はしない、ということ。


「今頃分かったんですか?良かったですね。死ぬ前にちゃんと自分の存在意義…ならぬ、存在の無用さに気づけて」


「さて、そろそろ終わりにしましょう。将軍達に来られたらそれこそ面倒だ」


「あぁ、安心して下さい。貴女の死は魔族がした風に(よそお)います。情報ではここに巣食ったのは虫型の魔族。奴等の特性なら全てを魔族のせいに出来る。旦那様やお嬢様が疑われる事も無い」


男達は再度、成海に剣を向ける。


しかし成海にはもう抵抗する気力も無かった。


何も言葉を発さず、俯き、立っているだけの成海に、男の一人が剣を振り上げる。


「全ては旦那様のお望み、エリカお嬢様のお望み。この世界に住む全ての者の望み。不要な姫様。この世界の為……死んで下さい」


そう言って男が剣を振り下ろそうとした瞬間…。


ザシュッ!!


「グァッ!!」


彼は背後から何者かに襲われ倒れた。


背中を何か鋭い刃物で切り裂かれたように、鮮血で服が真っ赤に染まっている。


「おいっ!?」


「どうしたっ!?」


男達の問いに答えたのは……男達の更に後方にいる者達。


「なんだなんだ?美味そうな餌がいるじゃねぇか?」


「三人……いや、奥に女もいるぜ!」


「こりゃあいい!クイーンにバレる前に俺達で食っちまおうぜ!」


現れたのは異形の姿をした三人組。


カマキリのように全身緑色で両手が鋭い(かま)になっている者。


その鎌はべっとりと赤い血がこびりついている。


クワガタのように二股の角…いや触角を持ち、全身が硬い茶色の皮膚の者。


そしてサソリのような尾を持った者。


どう見ても人間ではない。


二足歩行をして言葉を話してはいるが……その姿は誰もが知る虫そのもの。


放心状態だった成海も、彼等の出現に我に返る。


「っ!?ば、化け物っ!?」


叫ぶ成海だったが、そんな彼女の声にヴィクター邸の男達は忌々しげに彼女を睨みつけた。


「クソッ!魔族のテリトリーはまだ先のはずなのに!こんな女と無駄話してたせいで!」


「おい!早く逃げるぞ!」


「く、クソッ!手を貸してくれ!」


男達は成海に悪態だけつくと、背中を負傷した仲間を抱えて自分達だけ逃げようとする。


だが、手負いの仲間を連れた彼等が逃げれるはずもない。


「おいおい!何処に行くんだよ?お前らは俺達の餌だって……」


そう言うとクワガタの魔族は頭部を男達に向け、身をかがめる。


「言っただろぉがぁ!!」


クワガタの魔族は叫ぶと同時に、男達に向かって二股の触角を大きく開き、そのまま男達へ突進するように飛んで行った。


ビュン!ドス!


「グボッ!?」


「ガッ!?」


クワガタの魔族が飛んだ直後、男達は巨大なクワガタの触角に挟まれた。


まさに一瞬の出来事。


クワガタの魔族は満足したように地に足を付けると、触角を閉じていく。


触角が締まれば締まる程、男達の体はボキボキと音を立てて潰されていった。


「ヒッ!!?」


口に手を当てて叫ぶ成海。


そんな彼女など放って、クワガタの魔族は仲間の元へと歩いて戻って来た。


「丁度三つ。一人一つだな」


「女はデザートにするか」


「さっそく頂くとしようぜ」


クワガタの魔族が触角を緩め男達を解放…いや地面に落とすと、魔族達は一斉に男達に襲いかかる。


「や、やめ…」


「ぎゃああああ!」


「ガッ!ブッ!」


まだ生きている男達だったがそんな事には構わず、魔族達は彼等を……生きたまま(むさぼ)り始めた。


辺りには血が飛び散り、グチャグチャバキバキと肉や骨を噛み砕く生々しい音が響く。


まだ生きている男達は断末魔を上げ、血を吐き出すが、魔族達はそれすら笑い、男達の体を食べ続ける。


「うめぇ!やっぱり人間の肉が一番美味いぜ!」


「贅沢言えばもっと太い方が良かったけどな!」


ふと魔族達の隙間から、男の一人が成海に向けて手を伸ばす。


「…………だ………だずげ…」


「っ!!?」


自分が先程まで見下し、殺そうとした成海に助けを乞う男だが、直ぐに彼の瞳からは光が失われた。


成海は目の前の惨劇(さんげき)に顔を真っ青にし、ガタガタと体を震わせ、恐怖からボロボロと涙を流し、立っている事もままならず、その場にへたりこんでしまう。


(ば、化け物!化け物!!怖い!恐い!コワイ!コワイコワイコワイコワイ!)


もはやパニック状態に陥った成海の体は、激しく震えるだけ。


耳を塞ぐ事も、目を閉じる事も出来ない。


ただただ…目の前の恐怖に震える事、泣く事しか出来なかった。


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