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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
別離と邂逅
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3


「ごちそうさまでした。キースさん、カップお返ししますね」


薬湯(やくとう)を飲み終わった成海が、キースにカップを返そうと手を伸ばした。


その時、絆は彼女の手の甲に小さく赤い線状の傷があるのに気づく。


「あれ?成海さん、その手どうしたの?」


「手?私の手がどうし………あ、傷ついてる。葉っぱか枝で切ったのかな?」


その傷は赤いが血は垂れておらず、大きな傷では無かったので成海本人も絆に指摘された今、気づいたようだ。


「大丈夫?俺が回復魔法で」


「いい!いいよ!こんな傷に魔法なんて勿体ないから!」


絆の優しさが嬉しいと感じつつも成海はブンブンと両手を振る。


「でも」


「これから魔族と戦うでしょ!少しでも魔力は温存しておかないと。ほら、こんなの大した傷じゃないし!そんな痛くもないし!ハンカチでも巻いておけば大丈夫だって!」


そう言って成海は、ポケットから淡いピンク色のハンカチを取り出し自分の手に巻つけようとする。


が、やはり片手なので上手く結べない。


「貸して。俺がやるよ。魔法がダメでも…それくらいならいいでしょ?」


「ありがとう、絆君」


「ううん。………あれ?このハンカチのウサギ……『クララビ』?」


絆は成海からハンカチを受け取ると、ハンカチの(すみ)(えが)かれたピエロの格好をしたウサギを見て呟く。


成海にはその絆の言葉が…彼が自分のハンカチのイラストに反応した事が意外だった。


「え?絆君……『クララビ』の事は覚えてるの?」


「………うん。なんかこのハンカチ…前にも見た気がする。あれ?でもこのハンカチってピンクじゃなかったような?」


「これね。去年『クララビ』のライブに結ちゃんと行った時、お(そろ)いで買ったんだ。結ちゃんは色違いの水色だったよ」


「そっか。だからか」


「でもなんで家族の事は思い出せないのに…『クララビ』の事は覚えてるのかな?家族とか絆君にとって重要な記憶じゃないから?」


「う~ん。多分そうなんじゃないかな?」


「絆様、姫様。その『クララビ』とはなんですの?」


二人にしか分からない会話をしていた成海と絆だったが、その話にエリカが割って入る。


自分だけ除け者にされた、と嫉妬心を滾らせるエリカだが、そんな物は微塵も感じさせない笑顔と柔らかい声。


鈍感な絆が気づくはずもない。


成海もエリカの嫉妬を見抜いていた訳ではなかったが、エリカの気持ちを知っている彼女には多少の罪悪感が生まれた。


「あ、ご、ごめんねエリカちゃん。『クララビ』は私達の世界の女性バンドで……ええと、女性楽団『Crown Rabbits』の事。絆君のお姉ちゃんがね、彼女達の歌が大好きなんだ。このピエロみたいなウサギは『クララビ』のマークというか…シンボルなの」


この世界に『バンド』という言葉は馴染みが無いと思い、成海はエリカにも分かりやすい言葉を選んで説明する。


絆に巻いてもらったハンカチを見せながら成海が告げると、エリカも納得したようだ。


「まぁ、そうでしたの。それにしても……ふふっ。可愛いウサギですわね」


「へぇ~。エリカも好きなんだ?やっぱり女子って皆ウサギが好きなの?」


そんな会話を三人がしている間、キースはカップやポットを片付けつつ周囲に視線を巡らせた。


正確には自分と同じ…密命を受けたヴィクター邸の私兵達の行動を見つめている。


キース以外の9人は四方八方バラバラに散らばっていた。


私兵達以外の者には、カップの回収の為に各所にいる兵士達の元へと向かったようにしか映らないだろう。


それ以外の意味を持つなど…将軍配下の兵士ですら誰一人として気づいていない。


当然、成海も絆も……そして…エリカも…それは同じだった。


「ありがとう。私も気に入ってるんだ。思い出の品だし。だからメイド長さんに頼んで、コレだけは返してもら」


チリン…。


成海がエリカに語りかけている最中、ふいに小さな鈴の音が聞こえる。


成海が音のした後方へ振り向くと、今度は反対から『チリン』と同じような鈴の音。


しかもそれは……徐々に増えていく。


チリン。


チリンチリン。


チリンチリンチリンチリンチリン。


成海は最初、自分の空耳かとも思ったが…今聞こえているのは、あまりにもおびただしい数の鈴の音。


絆やエリカ……軍の兵士達の耳にも聞こえているらしく、彼等は警戒したように辺りを見回す。


「な、なんだコレ?鈴?」


「どうして森の中で…鈴の音が?」


「二人にも……ううん。皆に聞こえてるよね。なんだろう……コレ」


不安な表情を浮かべる絆、エリカ…そして成海。


「絆様!姫様!どうぞこちらへ!」


兵士の一人が守るべき三人に声を掛けた瞬間…。


ザァアアア!!と黒い煙幕のような物が現れ、一瞬で成海達の周辺を包み込む。


「うわっ!なんだ!?」


「何これ!?煙!?」


「絆様っ!?姫様っ!?」


辺り一面は真っ暗になり、直ぐ近くにいたはずの絆とエリカの姿すら見えなくなる成海。


それは絆とエリカ、そして兵士達も同じだった。


「これは魔族の攻撃か!?」


「クソッ!何も見えん!」


「絆様!姫様!!ご無事ですか!?」


「早くこちらに!」


「いや!我等が向かいます!どうかお声を!!」


兵士達が必死に自分達を呼ぶ声が聞こえる。


彼等は兵士として、次期王とその妃達を守ろうとしていた。


しかしその兵士達の声も…断末魔へと変わっていく。


「うわぁぁぁああ!!」


「な、なんだ!?ぎゃあああ!」


「おい!何がどうなって!グハッ!!」


兵士達の叫び声に混じり、血が吹き出す音…肉の斬られる音が成海達の元にも聞こえてくる。


見えない…得体の知れない恐怖に、顔を真っ青にし体を震わせる三人。


そんな三人の元に、それぞれ救世主とも言える者達が現れた。


「絆様!!やっと見えました!こちらに!」


「えっ!?」


「お嬢様!早く私の手を取って下さい!」


「っ、キース!!」


「姫様!!ご無事ですか!?」


「は、はい!ありがとうございます!」


絆の元には将軍配下の兵士数人が、エリカの元にはキースが。


そして成海の元には……あのヴィクター邸の私兵が三人駆けつけた。


今まで直ぐ近くに居た他の二人は見えなかったのに……何故か自分を助けに来た者達の姿は、急に鮮明に見えた三人。


それは三人を助けた者達も同じだっが、今はそれについてごちゃごちゃと言う暇も、考えている暇も無い。


絆と成海、そしてエリカの三人はそれぞれ、自分達を見つけた者の手を取る。


これで助かると……信じて疑わずに。


「姫様!これは恐らく魔族の攻撃です!しかしこの視界では敵と味方の区別もつきません!」


「姫様は先に我々と避難を!必ず安全な場所へとお連れします!」


「ご安心下さい!絆様もエリカお嬢様も!別の者がお守りしております!」


「分かりました!よろしくお願いします!」


成海はヴィクター邸の兵の一人の手を握りしめると、彼等三人と共に黒い煙幕の中をひたすら走った。


死の恐怖から逃げる為に…彼女はこの三人を信じて、必死に走った。




彼等こそ……今の成海にとって、最大の危険だとは知らずに。

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