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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
別離と邂逅
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2


キースの思惑(おもわく)、ヴィクターの(たくら)み、エリカの本心など何一つ知らない成海。


彼女は自分に負の感情しか向けていない者達を気にかけている。


皮肉にも、成海が絆に言った言葉は成海本人にも当てはまっていた。


他人の言葉を鵜呑(うの)みにし、そのままを受け止め一人喜び……秘められた相手の気持ちに気づいていない。


成海はエリカもヴィクターも、このキースの事も…何一つ……疑っていないのだから。


「キースさん達が同行してくれて良かったです。これでエリカちゃんは大丈夫ですね。じゃあ…戻りましょうか」


「はい。姫様」


自分に笑顔を向ける成海に、キースもまた上辺だけの笑顔を返すと二人は揃ってエリカの元へと戻る。


二人が元の場所に戻るとエリカの隣には絆も腰掛けていた。


しかし成海は絆には目もくれず、エリカにのみ声を掛ける。


「お待たせ、エリカちゃん」


「おかえりなさいませ、姫様」


「あ……成海さん…あの…………えと…」


成海に何かを言おうと口を開く絆だが、上手く言葉が出てこない。


今の絆に普段の眩しい笑顔はなく、誰の目から見ても落ち込んでいるのが明らか。


(ちょっと言い過ぎたかな?でも大事な事だし。そもそも私は王妃になんてなるつもり無い。絆君が即位したら、何がなんでも…それこそ暴れても拒否して元の世界に帰ってやる!だから…いつまでも絆君の傍にはいられない。だから…言えるうちに助言くらいしておきたい。絆君の為にも。友達として)


成海は絆を見つめると『ふぅ…』と一つ息を吐く。


ほんの小さく息を吐いただけだが、絆の目には成海がため息をついたように映り、絆は分かりやすくビクッ!と体を震わせた。


「な、成海さん…」


「絆君。さっきしたのは大事で…大切な話だよ。これから王になるなら…尚更(なおさら)ね。だから…忘れないでね」


「……うん。ごめん。俺、成海さんが疲れてるって聞いて、言葉通りそうだと思ってた。でも違ったんだよな」


「絆君?」


「エリカから聞いたんだ。疲れてたのはエリカの方だったって。成海さんはそれに気づいてたから、将軍に休憩を頼んだんだ、って」


絆から告げられた言葉に、成海は絆からエリカへと視線を移した。


そんな成海にエリカはニッコリと微笑む。


「エリカちゃん……気づいてたの?」


「先にわたくしを気遣って下さったのは姫様ですわ。それにお二人が気まずい雰囲気になってしまうのは、わたくしが嫌なのです」


「っ、……エリカちゃん」


「俺、エリカに言われるまで気づけなかった。ありがと、エリカ」


「ふふっ。お礼は不要にございます。お二人は未来の王とその王妃。そしてわたくしは、お二人をお支えする第二妃となるのですから。これはわたくしの使命であり、また大好きなお二人の力となれる喜びでもあるのです」


優しく微笑み、自分の望む言葉、そして第二妃としての決意や在り方を聞き、成海は胸が熱くなる。


(エリカちゃん…凄いなぁ。私なんて…王妃って言われても嫌なだけだったのに。エリカちゃんは絆君が好きなのに…第二妃の…自分の使命も受け入れてる。王妃になる私の事も大切にしてくれて。……やっぱり…王妃は私じゃない。エリカちゃんこそ、この世界の王妃に相応(ふさわ)しいんだよ。だって……エリカちゃんは誰よりも綺麗で…優しいから)


エリカの笑顔に、優しさに胸が締め付けられる成海と絆。


成海だけでなく、絆もまたエリカというこの美しい少女を信頼し、友人としての確かな好意を抱いている。


絆は未来の自分の妻達を見つめると、真剣な口調で自分の思いを口にした。


「成海さん、それにエリカ。教えてくれてありがとう。二人に恥ずかしくないように、俺、絶対に立派な王様になるから。今日も…俺が二人を守るから。絶対に」


「絆君。うん。ありがとう」


「光栄ですわ。絆様」


絆の真っ直ぐな想いに、女子二人も自然と愛おしさで顔がほころんた。


愛情と友情……種類は違えど、絆は確かに、成海とエリカが好きだった。


絆が二人に向ける感情は、間違いなく……『好き』という感情だった。


「二人とも!また疲れたり!もし怪我とかしたら俺に言って!今度は俺がちゃんと将軍に言ったり!魔法で怪我を治すから」


「お話中、失礼致します。皆様、休憩が終わる前に皆様にはこちらを」


絆が意気込んでいると、あのキースが三人に声を掛ける。


その手には何か、お茶のようなモノが入ったカップ。


急に差し出された飲み物に困惑しつつ、絆はキースからカップを受け取った。


「キースさん?これは?」


「旦那様より預かった特別な薬湯(やくとう)です。リスク王家に伝わる物で疲労を回復させ、体力や魔力の向上に効果があるのだとか。いつ魔族が来るか分かりませんし、皆様には万全の状態で挑めるように、と」


「そうなんですか?ありがとうございます!でも薬湯(やくとう)って事は……苦い薬………っ、でも!ヴィクターさんがせっかくくれたんですもんね!いただきます!」


絆は『薬湯(やくとう)』という言葉に少し身を構えるが、ヴィクターの好意を無下にするのも失礼だと、水を飲むように一気に喉に流し込んだ。


「っ!?美味い!薬湯(やくとう)って聞いたから不味いと思ったのに!甘いお茶みたいですっごく美味いです!全然薬って感じしない!」


「ちょ、ちょっと絆君」


なんとも馬鹿正直過ぎる絆の感想に呆れつつも、キースとエリカに失礼だと慌てる成海。


だがキースの方は気にしていないようで、満面の笑みを浮かべていた。


「喜んで頂けて旦那様もきっとお喜びになるでしょう。さぁ、姫様とお嬢様も。兵士の皆様の分もございますので」


「あ、ありがとうございます。キースさん」


成海もまたキースからカップを受け取ると、一口その薬湯を飲む。


確かに絆の言う通り、薬湯というよりは、甘い紅茶に近い味でとても飲みやすい。


成海は絆のように一気に飲まず、しっかりとその味を堪能するように味わいながら飲んだ。


しかしこの薬湯を用意したヴィクターの娘、エリカは不思議そうに薬湯を見つめる。


「お父様が薬湯を?わたくしには何もおっしゃらなかったのに。それにこの匂い…………ピンクハーブ?」


エリカもリスクの一族として、薬の知識はそこらの医者や薬師よりも詳しい。


だからこそ、この薬湯の匂いで使われている薬草にも直ぐに気づいた。


ピンクハーブは確かにリラクゼーション効果の高い薬草だが、体力回復や滋養強壮(じようきょうそう)、魔力関連の効果は無い。


それを目的とするなら、他の薬草を使った方が遥かに効果的だ。


どこか腑に落ちないエリカに、キースは笑顔を絶やさぬままエリカの納得するような説明をする。


「まだお嬢様にお教えしていない秘伝のレシピの一つだと、旦那様はおっしゃられていました。きっとこの薬湯の調合は旦那様しか知らないのでしょう」


「まぁ、そうだったの?今後の為にも、王都に戻ったらお父様にご教授頂かなくてはね」


エリカもまたヴィクターが用意した薬湯を口にする。


キースがチラリと周りへ視線を巡らすと、他のヴィクター邸の私兵達が軍の兵士達にもカップを渡し、全員がこの薬湯を飲んでいた。


キースにこの薬湯を託し、全員に飲ませるよう指示したヴィクターの計画通りに。


キースは自分と同じヴィクター邸の私兵達と視線を合わせると、小さくお互い頷いた。


これでいつでも……決行出来る、と。

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