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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
二人の婚約
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成海が歌い終わると、絆とエリカは揃(そろ)って拍手をし、口々に成海の歌を褒(ほ)める。


「やっぱり成海さんの歌は最高だよ!」


「本当ですわ。姫様がこんなに歌がお上手だったんて。わたくし感動致しました!」


「も、もう!二人とも!お世辞はやめてよ!」


二人からの賞賛(しょうさん)の言葉に、成海もまた照れながら答える。


この世界に来てから成海が他人に褒められたのは、勉学の授業の時のみ。


だからこそ、謙遜(けんそん)の言葉を口にする成海だったが、絆は成海への賞賛(しょうさん)を止めない。


「何言ってるんだよ!成海さんは本当に歌が上手だって!お世辞じゃないよ!エリカだってそう言ってたじゃんか!」


「絆様のおっしゃる通りですわ。お世辞などではございません。わたくしは姫様の歌がとてもお上手だと思ったからこそ」


「わ、わかった!わかったから!二人共……ありがとう」


褒めつ続ける二人の言葉を止めようとする成海だったが、最後は素直に礼を言う。


そんな成海に向けてエリカは美しい微笑みを浮かべた。


「お礼を言わせて頂くのは、わたくしの方ですわ。素晴らしい歌声を聞かせて頂き、ありがとうございます。初めて聞く歌でしたが、今のは想造世界の歌ですか?」


「あ、うん。想造世界の歌っていうか、私が友達と作った歌なんだけどね」


「へぇ~。成海さんってそんな凄い友達いたんだ」


「………え?」


絆の今の発言に成海は違和感を感じた。


成海が今歌ったのは『Destiny Love』。


この歌を成海と共に作ったのは、彼女の親友であり絆の双子の姉。


その事は絆にも先日説明したばかりだというのに。


「絆君?この歌は結ちゃんと作ったんだよ?前に説明したよね?」


「結ちゃん?それってクラスメイト?」


キョトンとした顔で尋ねる絆に、成海の中にある違和感は段々と大きくなる。


「絆君…何言ってるの?結ちゃんは絆君の双子のお姉ちゃんじゃない」


「え?俺の姉ちゃん?双子の?」


成海の言葉を聞いても絆は驚く様子もなく、むしろ不思議そうに首を傾げた。


「ん~」と何か考える素振りをする絆だったが、彼の口から出たのは更に成海を混乱させるもの。


「そっか。俺は双子で姉ちゃんが結で……あれ?そもそも俺の親って…どんな人達だっけ?」


「どんな人達って…絆君の家は神社でしょ。絆君のお父さんは神主さんで、お母さんは巫女さんしてて。絆君も結ちゃんも、お正月やお祭の時はお手伝いしてたじゃない」


「え?………あ、あぁ!そうか神社で神主だ!そうそう!思い出した!」


「絆君?まさか…忘れてたの?」


「…………うん」


成海の説明を聞いて、やっと自分の家の事や両親の仕事を思い出した絆。


しかし絆の脳裏には自分の家も神社も、両親や姉の姿も浮かばない。


そんな絆の様子に、絆本人よりも成海の方が混乱する。


その混乱は段々と恐怖や焦りへと変わり、成海は絆の両肩を勢いよく掴んだ。


「絆君!しっかりして!家族の事やお姉ちゃんの事だよ!ちゃんと思い出して!」


「うわっ!な、成海さん!?」


「姫様。落ち着いて下さいませ」


「っ、エリカちゃん」


絆の肩を掴み全力で揺する成海だったが、エリカが成海の手に触れ優しく咎める。


エリカに止められた事で成海も冷静になり、絆から手を離した。


「ご、ごめん。絆君」


「あ、うん。大丈夫」


「でも…本当に忘れちゃってたの?どうして?家族の事なのに」


悲しげな表情を浮かべる成海を見て、絆も申し訳なさそうに眉を下げる。


なんとか記憶を辿ろうとするが、記憶の中の家族の声はぼんやりとモヤがかかっており、声すら思い出せなかった。


成海も絆も何も話さず、お互いの顔を見ることも出来ず、その場には沈黙が流れる。


そんな二人に助け舟を出したのはエリカだった。


「絆様。お気になさる事はありません。姫様も…こればかりは仕方のない事ですから」


「仕方ないって…エリカちゃん。何か知ってるの?」


「姫様。そして絆様。想造世界から来られた方は、この世界の王となられる宿命にあります。なので、想造世界の事は忘れ、この世界のみを愛せるようにと、想造世界の記憶が薄れていくのですわ。ですから、絆様の中にあるご両親やお姉様の記憶が薄れているのです。姫様も聞いたことがありませんか?」


「それは…聞いたけど。でも私は両親の事も結ちゃんの事も覚えてるよ。なんで絆君だけ?」


「それはきっと……絆様が『一人目』であり、姫様が『二人目』だからです」


また『二人目』という単語に少しだけ眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せる成海だったが、エリカが真剣な表情をしていた事、そして自分を友だと言ってくれたエリカを信じ、黙って次の言葉を待つ。


「以前、陛下に聞いたことがありますわ。『同じ想造世界から来た人間でも、一人目と二人目では大きな差がある』と。特に記憶の喪失と魔力の成長にその差が現れるのだ、と」


「記憶の喪失と…魔力の成長?」


「はい。まず、記憶の喪失ですが、二人目より一人目の方が記憶を失うスピードも量も多いそうですわ。姫様と絆様の場合、これは絆様に当てはまります」


「そっか。だから俺の方が忘れてて、俺が忘れた事を成海さんは覚えてる」


「その通りですわ。そして魔力の成長ですが、著しい速度で成長するのが一人目。そして二人目は緩(ゆる)やかな速度で成長するとのこと。また元々ある魔力の量も一人目の方が多いそうです」


エリカの言葉に、成海はこの世界に来てからの魔法の授業を思い出していた。


確かに、今や絆は様々な魔法を使いこなしているが、自分はまだファイアーボールと簡単な回復魔法や結界くらいしか使えていない。


使えるようになったのもつい最近であり、その魔法の威力も絆に比べると小さく弱いものだった。


エリカの説明に納得しかけた成海だったが、ふとある人物が成海の脳裏に浮かぶ。


「ちょっと待って、エリカちゃん。陛下と戦った『覇王(はおう)』も二人目だよね?二人目なのに…その人は世界を滅ぼそうとするくらい強かったの?」


二人目でありながら、この世界の女王と人間を裏切り、魔族を従え、今の女王と戦い破れた男……覇王。


彼が二人目であったこと、そして世界を滅ぼそうとしていたことも、この世界の歴史には強く残っている。


それ程までに強く、この世界にとって脅威だった二人目。


何故彼は…彼だけは例外だったのか?


その答えもまた、エリカは知っている。


何故ならそれも、女王が信頼するエリカに話していたからだ。

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