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「『覇王』もこの世界に来たばかりの頃は、魔力も少なく、陛下より劣る存在だったそうです。しかし彼は王都を離れ……数多の魔族を吸収し、膨大な魔力を手に入れました」
「魔族を……吸収?どうしてそんな事を?」
「陛下がおっしゃるには、覇王が王都を、そして陛下の元を去ったのは魔族達に唆されたからだそうです」
「魔族が唆したって……でも覇王は魔族を吸収したんだろ?だから覇王は力をつけて……あれ?でも結局、覇王は魔族の味方で魔族も覇王の部下だったんだよな?」
今回ばかりは絆の疑問に成海も同意見だった。
女王に劣るとはいえ、女王と同じ力を持つ者に『自分達の仲間になれ』と誘うのはまだ分かる。
しかし仲間を吸収して力をつけた者を王にし、服従したのは何故か。
それほどまでに力をつけた覇王が、魔族達は恐ろしかったのだろうか?
その疑問の答えもエリカは今の女王から聞いていた。
「魔族はずっと昔……古の王が栄えた時代から、この世界を滅ぼそうと目論んでいました。しかしそれが成就する事は無かった。魔族の計画は全て当時の女王陛下や、力のある竜族にことごとく阻まれたからです。自分達だけでは世界を滅ぼせないと悟った魔族達は……自分達の身を…命を犠牲にしてでも、世界を滅ぼせる存在を創り出そうとした。それが『覇王』だったのです」
長いエリカの説明に成海が感じた先程の疑問は解消された。
しかしまた新たな疑問が浮かぶ。
「そこまでして……どうして魔族は世界を滅ぼそうとしてるの?」
「それは………考えた事もありませんわ」
エリカの予想外の発言に成海は目を丸くする。
いくらエリカが自分にとって大切な友人とはいえ、彼女のその答えが、思考が、成海には理解出来なかったからだ。
「考えた事がないって……自分の世界を滅ぼそうとしてる相手のことなのに?」
「魔族は世界を滅ぼそうとしているもの……世界の滅びを望む者達が魔族……というのは、この世界の常識ですから。『鳥は空を飛ぶ』と同じ事ですわ」
「そんな……」
エリカの説明に成海は納得がいかなかった。
それは成海個人の意思も勿論あるが、それだけではない。
しかしどれだけ成海が疑問を感じても、それに共感してくれる者はいない。
エリカも絆も、成海の持つ魔族への疑問など抱いたことすらないのだから。
その証拠に、絆はまたしても悪気なく成海へ余計な事を言う。
「エリカの言う通りだよ成海さん。あっちの世界でも魔王は世界を滅ぼす悪役だったじゃん」
「それはあくまで漫画やゲーム……作り話の中でしょ。でもこの世界は現実。作り話じゃない」
「でもあっちの世界の想像がこの世界を作ったんだろ?あっちの世界でそうだから、この世界でもそうなんじゃないかな?」
絆の言葉はエリカの説明以上に、成海にとって納得がいかないものだったが……何処か一理あるとも思った。
想造世界にとって魔族や魔王が出てくる話は、誰かの想像の産物だ。
魔王が世界を救う主人公だったり、勇者の味方になる話もあるが……『魔王』と聞いて『世界を救うヒーロー』と頭に浮かぶ人間はほとんどいないだろう。
そんな想造世界のイメージがこの世界を、そして魔族を作り出したのだとしたら………。
だとしても、成海には手放しでその常識とやらを受け止める気にはなれなかった。
『魔族は世界を滅ぼそうとする。何故なら魔族だから』
そう言われて『なるほど』とは頷けない成海。
彼女がここまでこの話に興味を持ち、その話を受け入れられなかったのは彼女の境遇が原因だった。
成海が今の話に納得出来なかった一番の理由は……彼女が二人目だから。
この世界に来てから成海は、二人目という扱いを受け続けていたから。
だからこそ、自分が二人目だからという理由で嫌われるのと同じくらい……それは理不尽な理由に思えたのだ。
しかしどんなに理不尽であろうと、その理由がこの世界にとって大きな意味を持つ。
そして絆が軽く口にした言葉……彼が考え無しで呟いた言葉が、実は核心に迫るものだということ。
今の成海には知る由もないことだった。
「想造世界がそうだから……この世界も同じ?エリカちゃん、他には何か知ってることは無い?」
「残念ですが姫様。わたくしも陛下に聞かせて頂いただけですので………詳しくは何も。それに陛下にとって『覇王』の話は、本来禁忌とされています。陛下自らがお話になるのでしたら何も問題ございませんが……他者から陛下に聞く事は許されません 」
「………そうなんだ」
考えてみれば、いくら裏切り者とはいえ『覇王』は女王にとって、唯一の仲間であり同士だったはず。
そんな者に女王は自ら手を下した。
怒りや恨みは当然ある。
思い出したくもない過去かもしれない。
女王はただでさえヒステリックに怒鳴り散らす女だ。
気に入らない話をこちらから聞いてしまえば、それを理由に罰せられる可能性も十分ある。
エリカが女王から話を聞けたのは深く信頼されているから。
それか余程、女王の機嫌が良かったかのどちらか。
あるいはその両方だろう。
女王なら魔族や覇王について、この世界の誰よりも詳しいかもしれない。
しかし成海に女王に直接聞くという選択肢は無い。
そんな事を自分が聞けば女王が怒り狂うのは目に見えている。
何より成海は、もう女王とはなるべく関わりたくないとすら思っているからだ。
もう魔族の話はやめようかと成海が思った矢先、思い出したように絆が騒ぎ出す。
「あ、魔族といえばさ!明日は魔族討伐だよね」
「そういえば……陛下がそんな事言ってたね。私達だけで魔族討伐………出来るのかな?」
不安げに顔を歪める成海だったが、そんな成海の手をエリカは優しく握り締める。
「大丈夫ですわ、姫様。絆様は王位継承者。なので護衛に将軍や多くの兵士がつきます。魔族討伐の際は多くの心強い味方がおります。ご安心下さいませ」
「……エリカちゃん」
「絆様も……自信をお持ち下さいませ」
エリカは絆にも手を伸ばし、二人の手を優しく包み込むと笑顔を浮かべる。
美しく優しいエリカのその微笑みは、まるで天使のように映った。
「絆様。絆様はこの世界の王位継承者。きっと軍と共に魔族を討伐なさると、わたくしは信じていますわ。絆様なら、絶対に大丈夫です」
「……エリカ」
「姫様。わたくもこのような大役、不安で仕方ありません。ですが姫様と御一緒なら、必ず乗り越えられると思うのです。姫様と御一緒なら……わたくしはいくらでも頑張れますわ」
「エリカちゃん……うん!頑張ろうね!一緒に!」
エリカの言葉で成海は自然と勇気が湧き上がった。
エリカの笑顔で不安など一気に吹き飛んだ。
そしてそれは絆も同じ。
「おう!皆で魔族をぶっ倒してやろう!成海さん!エリカ!サポートよろしくね!」
「うん!しっかりとサポートするからね!だから絆君は安心して戦って!いくらでも守るし、怪我も治すから!」
「まぁ!姫様ばかりずるいですわ!絆様!わたくしも誠心誠意、絆様をお支え致しますわよ」
「あはっ!ありがとう二人とも!俺!絶対に魔族を倒すよ!俺は王位継承者だもんな!次の王様だもんな!よし!やってやるー!!」
調子よく意気込む絆に成海とエリカがクスクスと笑うと、猛虎将軍が中庭へと現れた。
将軍は明日の為にも三人に早く自室に戻るよう促し、三人は素直にそれに従った。
だが部屋に戻る前……エリカと別れる前に、成海は彼女にもう一度感謝の言葉を告げた。




