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翌日。
成海は朝から女王に呼ばれ、謁見の間に訪れていた。
何故か女王は成海が来た時から、機嫌良さげに笑顔を浮かべている。
自分が女王に笑顔を向けられることなど初めてだった為、驚きを隠せず、また戸惑う成海。
ひと月ほどこの世界で過ごした成海だが、女王からの呼び出しなど一度も無かった。
この謁見の間に来たのも、初めてこの世界に来た時と合わせて二度目。
女王に会うことすら、成海にはひと月ぶりだった。
自分を見ても笑顔を浮かべる女王に、成海は僅かな期待を…希望を抱いた。
やっと…やっと認めてもらえたのでは?と。
自分の想像で胸が熱くなり、女王同様笑顔を浮かべた成海だったが…その笑顔は女王のある言葉によって打ち消されることとなる。
「っ!!?……陛下?…今…なんて?」
突然発せられた女王の命令。
しっかりと耳に届いたその言葉は、成海の頭の中で繰り返し響く。
それでも…聞かずにはいられなかった。
自分の聞き間違いであってほしいと願った。
だがそれは、成海の聞き間違いなどではなく、女王は再度、成海に向けて同じ言葉を告げる。
「絆と婚約しろ。絆が王位についた際、王妃となり王を支えるのだ」
「…婚…約?…私と……の絆君が?」
成海はふらつきそうになるのをなんとか堪えながら、震える唇で呟く。
「そうだと言っているだろう。あぁ、安心しろ。エリカを絆の第二妃とするからな。王妃としての職務は全てエリカに任せるのだ。お前は王妃の座にいるだけで良い」
それはつまり『ただのお飾りの王妃でいろ』ということ。
成海個人としては勿論、王妃としてすら必要としていない、と言われているようだ。
女王は笑顔を崩すことなく、更に言葉を続ける。
「私はお前に、女として最上の地位と待遇を約束しよう。その代わり今後は回復と結界以外に想造力を使う事を禁ずる。それも私か絆の命令があった時のみ。攻撃魔法など以ての外。良いな?お前はただ、絆の隣で笑っていればいいのだ」
「ま、待って下さい!私の意見も聞かずに勝手に何もかも決められたくありません!」
つらつらと並べられる女王の言葉に、成海はついに黙っていられず反論した。
その言葉を聞いた瞬間、女王から笑顔が消える。
「………なんだと?」
女王は怒りの形相を浮かべると、ダンッ!と玉座の手すりに拳を叩きつけ、勢いよくその場に立ち上がる。
そして成海を睨みつけながら大声で怒鳴った。
「私の命令に背くというのかっ!私を誰だと思っている!?この世界を救った女王!この世界を愛し、この世界に愛された女王だ!二番目風情が偉そうに!私の温情に感謝するならいざ知らず楯突こうと言うのか!」
「そ、そんなこと言ってません!ただ!私の話も聞いて下さい!」
「二番目の言葉だと!?そんなもの聞いてなんになる!貴様は黙って命令を聞いていればいいのだ!!」
「っ!!」
あまりの横暴な言葉に成海は息を呑む。
(二番目……二番目二番目って!どうして皆!私を見てくれないの!?どうして……どうしてこんな目に合わなきゃいけないの!二番目ってだけで!)
「………たら…もう…………ですか…」
成海は女王から視線を外し、俯いて震えながら小さな声で呟く。
「何?」
女王が成海の言葉を聞き返すと、成海は俯いていた顔を上げ、力の限り叫んだ。
「だったら!私なんかもう!想造世界に帰せばいいじゃないですか!」
「なんだと?」
「皆が二番目をいらないって思ってるの!私知ってます!私だって!もうこんな世界にいたくない!女王陛下なら!貴女なら私を帰せるんでしょう!だったら私を元の世界に帰して下さい!今すぐ!」
涙を目に溜めて、必死に告げる成海。
そんな成海の姿を見ても、必死な言葉を聞いても…女王の心には怒りしか湧いてこない。
「偉そうに喚くなっ!やかましい!帰せるものならとっくに!貴様が現れたその日に送り帰しておるわ!二番目など誰も望んでいない!だが異世界間の転移魔法など女王とて一度しか使えぬ!そうでなくば…誰が貴様などこの世界に置いておくものか!」
「っ!?それが……陛下の本音ですか?」
「そう言っているだろう!要らぬ存在だとわかっているなら、せめて黙って命令を受け入れろ!絆との婚約は決定事項だ!」
「陛下っ!!」
「ええい!黙らぬか!貴様の存在は本当に気分が悪い!さっさと私の前から消え失せろ!誰か!誰かいないか!ヴィクターを呼べ!いつもの薬を持って来させろ!!」
ヒステリックに叫ぶ女王を見て、成海は気づいた。
この女王にはどんな言葉も届かない。
この女王には決して自分など受け入れてもらえない、と。
(ほんの少しでも……聞いてもらおうとした私が……馬鹿だった。認めてもらえたなんて…そんなこと思った私が………馬鹿だった!)
成海は最低限の礼儀として女王に一礼すると、足早にこの場を去って行った。
流れる涙を拭うこともせず。
そんな成海の姿を見ても、誰一人として声をかける事も心配することもない。
使用人達は遠目でヒソヒソと呟いているだけ。
中には気づいているのに、わざと目を背ける者までいた。
誰からも見向きもされない現状にまた傷つきながら、成海はあてもなく一人で城内を歩く。
誰もいない所に行きたい。
このまま想造世界に帰りたいと願いながら。
フラフラとした足取りで成海はある場内にある庭園の一つへたどり着く。
小さなベンチに腰掛けると、成海はそのまま声を殺して泣き続けた。
どれくらいそうしていたのか?
数分か……はたまた一時間か?
泣き続けた成海の目が真っ赤に染まった頃、この庭園に成海もよく知る一人の少女が現れた。
「姫様?」
「っ!誰っ!?………あ」
「っ!?どうなさったのですか!」
「………エリカちゃん?」
それは成海と絆の友であり、絆を恋い慕う少女……エリカだった。
初めは『エリカさん』と呼び敬語だった成海も、このひと月でエリカと仲良くなり彼女を『エリカちゃん』と呼び親しくなっていた。
使用人達の話でエリカが絆を恋い慕っていること、自分よりエリカの方が人気がある事も成海は知っている。
それでも成海は、いつも笑顔を浮かべ自分達の傍にいてくれるエリカを友として好きになっていた。
エリカは成海が泣いていると知ると、成海に駆け寄り彼女の隣に腰掛ける。
「姫様……そんなに泣かれて。……何かあったのですか?」
「…エリカちゃん。…ごめん……なんでもないの」
「なんでもないことはないのでしょう?わたくしで良ければ……お話願えませんか?」
エリカは優しく成海の背を撫でながら成海へと話しかける。
成海がこうなった原因はエリカにもある。
しかし成海は……友であるエリカを信じ、全てを話すことにした。
その結果……エリカとの友情に亀裂が入るとは知らずに。




