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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
二人の婚約
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4


それからも絆は一時間ほど成海の部屋に滞在し、彼女との会話を楽しんだ。


正確には、絆が一方的に話すだけで成海は(あい)づちを打つだけだったが。


それでも、絆は何も気づかず、成海も楽しんでいると疑わなかった。


ただ自分のこと、この世界のことを楽しそうに話す絆。


成海にとって絆の話は楽しいものではなく、むしろ自分とは違いすぎる境遇(きょうぐう)や他人の対応の話ばかりで辛くなる。


それでも成海は、感情を表に出さず絆を部屋から追い出したりはしなかった。


そんなことを考える自分すら…嫌だと思いながら。


チラリと成海が時計に目を向けると、ようやく絆もその意図(いと)に気づく。


「あ、もうこんな時間?そろそろ魔法の授業始まるね。行こっか」


さも一緒に行くのが当然のように、絆は椅子から立ち上がり成海を誘う。


しかし成海は絆のカップと自分のカップを持つと、絆の言葉をやんわりと断った。


「絆君は先に行ってて。私はカップ片付けてから行くよ」


「そう?じゃあ後でね!」


絆は成海の言葉に頷くと、そのまま部屋を出て行った。


残された成海は宣言通りカップを片付ける。


その時、なんとなく紅茶缶の(ふた)を開けて中身を確認すると、茶葉が残り(わず)かだった。


成海は茶葉を補充してもらおうと、紅茶缶を持ち、そのまま部屋を出る。


扉を開けると、丁度近くにメイドが二人、(ほうき)を持って談笑していた。


彼女達は成海がよく知っているメイド達。


この城には女王の命令で、姫である成海専属のメイドとなった者達が数人いる。


彼女達は主に成海の身の回りの世話や掃除洗濯等の雑事が仕事だ。


当然彼女達もそうなのだが…成海がこのメイド達をよく知るのは別の理由。


それも良くない理由で、だ。


メイド達の後ろ姿や話し声で、それが誰かを認識すると、成海は一瞬気が引けた。


だが、意を決して話しかける。


「あ、あの…」


しかしメイド達は成海に気づかず、お喋りに夢中だった。


「それでさ…聞いてよ」


「うんうん。……えぇ?それ本当?」


時にクスクスと笑い、楽しげに話すメイド達。


成海は声が小さかったかと思い、今度は大きな声でメイド達に話しかけた。


「あのっ!すみませんっ!」


成海が大声を出した事で、メイド二人は一瞬ビクリと肩を震わせる。


しかし成海の方を振り向いた彼女達は、あからさまに顔をしかめた。


「…はい?」


「なんですか?姫様」


メイド達は姫に対してとは思えないほど、ふてぶてしい態度で成海に聞き返す。


成海はメイド達の態度に一瞬怯みながらも、おずおずと紅茶缶を差し出して要件を口にした。


「あの……茶葉が無くなりそうなので…」


「あぁ、はいはい。後で入れときますよ」


メイドの一人は姫から差し出された茶缶を、まるで奪い取るように乱暴に受け取った。


もう一人のメイドも嫌そうに、わざと大きくため息をつく。


「はぁ……御用はそれだけですか?私達忙しいんで」


今まで掃除をサボって喋っていたくせに、どの口がほざくのか。


しかし成海はメイド達を窘めることはせず、グッと唇を噛むだけ。


「………はい。…それだけです。お仕事中に失礼しました」


成海は一度メイド達に頭を下げると、その場を離れようとする。


しかし…メイド達は成海に聞こえるように、わざと大きな声で陰口を言い始めた。


「姫だからって偉そうに」


「お茶くらい自分で厨房に取りに行けばいいじゃんね?」


「ホントホント。それに今朝も朝食はパンとスープだけだったってさ」


「はぁ?またなの?わざわざ豪勢な食事用意して貰ってるのに食べないとか…いつまでも庶民気取りでいるなっての。姫なんだから黙って食べりゃいいじゃん」


「それはそれでムカつくけどね。二人目のくせに、食べるのだけはいっちょ前って感じでさ」


「あはは!それもそうか!」


成海は(うつむ)いたまま奥歯を強く噛み締める。


成海が彼女達についてよく知っていること。


それは自分を毛嫌いしている、ということだった。


彼女達は成海と自分達だけの時、わざと成海に聞こえるように悪口を言う。


他のメイド達やメイド長がいる時は、礼儀正しく振舞ってはいるが…彼女達だけになると態度が急変するのだ。


昨夜だって二人に嫌味を言われながら入浴をした。


成海もこんな状況や彼女達の態度、言動には腹が立つし、何度も傷ついてきた。


それでも…彼女達が言っていたように、自分は二人目。


このメイド達が分かりやすいだけで、城の中では同じように自分をよく思っていない者が何人もいることを成海は知っている。


メイドだけではない。


この世界の女王でさえ、自分を毛嫌いして遠ざけているのだから。


成海も初めはメイド達に好かれようと努力もした。


自分から話を振ったり、仕事を手伝おうとした事もある。


しかし全てが無駄だった。


『二人目』である成海の評価は何一つ変わらなかった。


成海が何を言おうと、何をしようと、何も変わらない。


他人は…この世界の人間達は、成海を『二人目』という肩書きでしか見てくれない。


(なんで……私ばっかり…)


成海は痛む胸を抑え、涙が出そうになるのを堪えながら前へ前へと歩いた。


(あぁもう!やめよやめよ!これから大好きな魔法の授業だし!気持ち切り替えて頑張ろう!もうファイアーボール連発してストレス発散してやろう!)


成海はヨシっ!と意気込むと早足で教室へと向かう。


魔法とは想造世界では決して有り得ないモノであり、存在しないモノ。


想造世界の魔法とは、あくまでファンタジーな作品の演出の一つでしかない。


それでも……想造世界の人間なら、誰しも一度は思ったことがあるだろう。


魔法を使えたら、と。


その有り得ない夢が、この世界では叶った。


魔法の授業は成海にとって唯一の楽しみでもあった。


最近ファイアーボールを覚えた事で、更に楽しくなり、もっともっと色んな魔法を使えるようになりたいとも思っていた。


そんな成海の楽しみは、翌日女王によって奪われることになる。

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