2
説教でないのなら、女王が自分に何の話があるのか……絆には検討もつかない。
女王陛下の御前だというのに、絆はポカンとした表情で女王を見つめる。
女王もそんな絆を咎めるばかりか、むしろ絆を注意しようとした宰相の方を止めた。
珍しく笑顔を浮かべ、誰の目にも機嫌が良いのが分かる女王。
絆の目を見つめ返すと、女王は微笑みながら口を開いた。
「ふむ。では絆、お前に問おう。まずは……エリカのことをどう思う?」
「エリカですか?エリカは友達です。凄くいい子ですよ。優しいしお菓子もよく作ってくれるし。いつも応援してくれて、勉強も助けてくれます」
「エリカは友……か。私もお前達は大変仲が良いと報告を受けている。そこに…恋愛感情は無いのか?」
「れ、恋愛感情っ!?」
女王の発言が意外だったのか、絆は弾かれたように驚きの表情を浮かべる。
そして次の瞬間、両手を前に出し、それを首と同時に左右に振り出した。
「無いですよ!全っ然ありません!エリカは友達ですから!確かに俺はエリカが好きですけど!それは友達として好きって意味です!」
「うむ。その様子を見る限り……本心のようだな」
「そうですよ!俺の本心です!変な事言わないで下さい」
「ゥオッホン!!」
世界の女王の発言を変な事呼ばわりまでする絆に、宰相は大袈裟に咳払いをする。
本当は注意するつもりだったが、一度女王に止められている為に咳払いだけで済ませたのだ。
『今の発言は不敬だ』と絆に知らせる為に。
勿論、絆はそんな事ちっとも気づかない。
ただ不思議そうに、宰相へ向けて首を傾げただけ。
「変な事…か。私にとっては大事な事だ。そう。これはとても重要なのだ。それでは……もう一つ聞こう」
「今度はなんですか?」
「成海のことはどう思っている?」
「っ!!な、成海さんは……その…」
今度は頬を赤らめ、少し言葉を濁す絆。
そんな絆の様子を見て女王は口の端をニヤリと上げる。
「成海とは……なんなのだ?」
「…成海さんとは……同じ学校に通ってて。…クラスは違うんですけど…その……友達で。…まさかこっちでも会えるなんて……思わなかったけど」
「そうかそうか。それで?こちらで再会した時はどう思った?」
「………嬉しかったです」
そう呟く絆は本当に嬉しそうで…頬を赤く染めて照れたようにはにかむ。
その絆の様子を見て、女王は満足気に笑みを深くした。
ここまで正直…いや、素直な反応をすれば誰だって気づくだろう。
絆が成海をどう思っているか。
成海にどのような感情を抱いているかを。
「…成海の事が好きなのか?」
「ぅえっ!?え、えと!その!お、俺は!成海さんとは!と、友達で!」
女王の言葉に今度は火が出そうな勢いで、ボッ!と顔全体を真っ赤に染めてどもる絆。
なんとか誤魔化そうとしているようだが、その顔と口調では全く誤魔化せてはいない。
「好きなのだろう?それも友達としてなどではなく、異性として。正直に話せ。たとえ王位継承者だろうと、この女王に偽りの報告など許さん」
口調は厳しいが、やはり楽しげに話す女王。
絆の方も観念したのか、少し下を向きポツリと呟く。
「………はい」
「なるほど。エリカを好きにならない理由がわかった気がするな」
「エリカを?」
ふと告げられた友の名で、絆は頭を上げる。
まだ少し顔が赤い絆を見て、女王はまた微笑んだ。
「絆。お前の気持ちはよくわかった。もう下がってよい」
「え?は、はい。わかりました」
結局なんのために自分が呼ばれたのか、絆には意味がわからなかった。
それでも女王が『下がれ』と言うのなら、下がるしかない。
絆は一度頭を下げると扉に向かって歩き出す。
そして扉に手をかけるとピタリとその動きを止め、女王に向けて勢いよく振り返り、大声で女王へ呼びかけた。
「あの……陛下っ!」
「なんだ?」
「お願いがあるんですけど…」
「だからなんだ?」
「今の話…成海さんには内緒にして下さい。成海さんにだけは絶対、言わないで下さいね!」
絆の言葉に一度目を丸くする女王だったが、直ぐに笑顔を浮かべて絆に向け頷いた。
「あぁ。わかった。約束しよう」
「はい!ありがとうございます!それじゃあ陛下!失礼しますね!」
女王の返答に安心したのか、絆はそのまま扉を開けて出て行く。
残された女王は楽しげに宰相へと声をかけた。
「聞いたか宰相。絆はエリカではなく、あの成海を好いているらしい。あの様子じゃ、本気で成海に恋をしているのだろうな」
「はい。実に初々しい反応でございました」
「あぁ。まるで恋する乙女だ。しかしエリカを友としてしか見ていないのも、成海に恋しているのも事実。疑うべくもない」
女王は玉座の背もたれに寄りかかると、ふぅ…と息を吐く。
「エリカは私の目から…いや、誰の目から見ても美しい。それに王族としての気品や教養を持ち、非の打ち所のない素晴らしい娘だ」
「左様にございます」
「そんな娘が側にいて少しも心がなびかないのは……心に別の誰かがいるから。絆の場合は成海がいる。成海の存在が心を満たしているのだ」
女王は楽しげに笑うと宰相にとんでもない提案…いや、彼女の中での決定事項を口にする。
「絆と成海。二人を婚約させよう。成海を絆の王妃に。そうすれば争いは起こらず、世界もこのまま安定する。絆が成海を好いているのなら何も問題無い」
「ですが陛下……姫様のお気持ちは?姫様のお気持ちを確認せずに良いのですか?」
宰相が恐る恐る問いかけた言葉に、女王は不思議そうに、まるで不可解なものを見るような目を宰相に向けた。
「成海の気持ち?そんなもの何故確かめる?必要ないだろう」
そう話す女王は、本気で宰相の言葉の意味がわからないようだった。
女王は…彼女は本気で、成海の心など考えてはいなかった。
「成海の気持ちなどどうでもよい。大事なのはこの世界の平和を保つことだ。宰相。直ぐに二人の婚約を手配せよ」
「………かしこまりました」




