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成海が髪にリボンをつけてもらい、支度を整えて部屋を出ると、そこには絆だけではなくもう一人……彼女を待つ人物がいた。
それは昨日、絆と共にいた黄緑色の髪をした美しい少女。
「あなたは……確か昨日」
「はい。昨日はご挨拶が出来ず申し訳ございません。わたくしの名はエリカ。エリカ=メイ=リスクと申します。どうぞお見知り置きを、姫様」
エリカはドレスの裾をつまむと、令嬢らしく成海へと頭を下げた。
「あ、ど、どうも。これはご丁寧に。私は成海」
「成海さん!エリカは俺の友達なんだ!すっごく優しくて料理上手で、頭もいいんだよ!」
成海が自己紹介している最中に、絆は嬉しそうにエリカの紹介をする。
絆に褒められたのが嬉しかったのか、エリカは頬を染めながら絆へと微笑んだ。
「ふふ。絆様ったらお世辞がお上手ですこと」
「何言ってるんだよ!全部本当のことだし!いつもエリカにはお世話になってばっかりでさ。俺凄く感謝してるんだ!」
「…絆様。そのように絆様に思われて、わたくしとても光栄ですわ」
まるで成海などいないように二人の世界に入っている絆とエリカ。
そんな二人を見つめながら、成海は小さくため息をついた。
(また名前言い損ねた。…もういいや。絆君も『成海さん』って呼んでるし……このままいこう)
「じゃあ皆揃ったし、いつもの部屋に行こうか!勉強しないとね」
そう言って歩き出した絆だったが、成海は後ろから彼を呼び止める。
「待って絆君。皆揃ったって…エリカさんも一緒に勉強するの?」
「うん。エリカはいつも俺の勉強に付き合ってくれるんだ」
「付き合ってくれるって…」
それはいいのだろうか?と成海は心配そうにエリカへ視線を移すと、エリカは悲しげに目を伏せていた。
「姫様……わたくしがお二人とご一緒するのは…お嫌ですか?」
「え!?ち、違います!ただ迷惑じゃないのかなって!」
「まぁ!そのような事はございませんわ。わたくしがお二人とご一緒したいのです」
ニコリと微笑むエリカは本当に美しく、今度は成海が頬を染めてしまう。
「そ、それならご一緒しましょう。エリカさん」
「ありがとうございます、姫様」
「よし!じゃあ行きましょうよ成海さん!」
話がまとまった所で絆が成海の手を引いて先に歩き出した。
エリカはその後ろをついていく。
ただ…エリカが手を繋ぐ二人を……特に成海を睨みつけていたことには絆は勿論、成海も気づかなかった。
「っ!?なんと…姫様。十問全て正解…満点にございます」
家庭教師は驚きつつも赤丸がたくさんついたプリントを成海に渡す。
成海も満足気にそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「成海さん…凄い。初日なのに」
「素晴らしいですわ、姫様」
「いえ。さっき教えてもらった問題ばかりでしたし」
あれから成海と絆、そしてエリカは家庭教師の待つ部屋に行き、共にこの世界の基礎知識や歴史について学んでいた。
一時間ほど勉強した後、家庭教師は二人に小テストのような物を出す。
絆は「う~」だの「え?これ習ったっけ?」だの一人騒がしかったが、成海は絆とは真逆に黙々と、そしてスラスラと全ての問題を解いてしまった。
ちなみに内容は『王都の名前を答えよ』や『古の王族は全部で何人か』『ロゼリアの傍にある人魚の王国の名は』などの本当に簡単なものばかり。
だというのに、絆は半分しか解けていなかった。
そんな絆に挽回させるよう、あえて家庭教師は絆に向けて問題を出す。
「では絆様。陛下が王位につかれる前、姫であられた頃の覇王との一騎打ち。期間はどれくらいでしたかな?」
「えと…あれですよね?なんとか戦争ですよね?」
「はい。ではその答えは?」
「……確か……そう!100年戦争!」
自信満々に答えた絆だが、家庭教師の方は苦笑いを浮かべていた。
その顔は『またか』と言っているようだったが、相手は王位継承者ということもあり家庭教師が怒ることはなかった。
多少、呆れてはいたが。
「……違います」
「違うよ絆君。100日戦争」
「え?あ、そうか。それです!」
「っ、姫様のおっしゃる通りにございます」
絆が見ていられなくて成海が答える始末。
家庭教師は成海の学習能力の高さや吸収力に驚きつつも、ニコリと微笑んだ。
「姫様は賢い方ですな。一度聞いただけでもう覚えられるとは」
「い、いえ。授業がわかりやすかったからですよ」
自分を褒める家庭教師に対して、顔の前で手を振り謙遜する成海。
確かに、初めての授業ということもあり家庭教師はこの世界の歴史についてなど、分かりやすく説明してくれた。
小テストも簡単なものばかりであり、授業をちゃんと聞いていれば初めてとはいえ解ける問題ばかり。
それに元々成海は学校での成績が良い方だった。
反対に絆は学校の成績もあまり良くない。
体育の授業や剣術や魔術など体を動かす事は大好きでも、机に座っての授業は苦手。
むしろ長時間座っていると眠くなるタイプだ。
「わかりやすい授業で、わからない俺って…」
ガッカリと肩を落とす絆だったが、後ろからエリカがその肩にそっと手を置いた。
「絆様。次に頑張ればよいのですわ。わたくしも誠心誠意お手伝いさせて頂きます」
「エリカ嬢のおっしゃる通りです。それでは、本日はこれまでに致しましょう」
家庭教師が教材の本を片付けだすと、先程までの落ち込みは何処に行ったのか…絆は嬉嬉として立ち上がった。
「ありがとうございました!じゃあ成海さん!次は剣と魔法の授業なんだ!将軍が中庭で教えてくれるから早く行こうよ!」
「え!?ちょ、ちょっと絆君!?」
絆は家庭教師に軽く挨拶を済ませると、ここに来た時と同じように成海の手を掴む。
そしてそのままの勢いで、成海を部屋の外へと連れ出してしまった。
エリカも家庭教師に深くお辞儀をしてから二人を追いかける。
残された家庭教師は成海の解いたプリントを見つめ、一人呟いた。
「姫様は…賢い方のようだ。絆様よりも賢く勉強熱心な方。…陛下になんとご報告を…」
そう言いかけ、家庭教師は深くため息をついた。
なんと報告を…と言うが、ありのままを報告するしかないだろう。
それが女王の望まぬ報告だろうと。
「せめて絆様がもう少し…いや、絆様と姫様…お二人の成績が逆ならば……陛下にもご安心頂けただろうに…」




