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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
二人目~不要の存在~
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6


とはいえ、出されたご馳走(ちそう)やメイド達に文句は言えない。


好きな物を好きなだけ…というからには、残しても文句は言われないのだろう。


しかし成海は元の世界で、朝食は基本、食パン一枚と牛乳だけだった女子高生。


テーブルに並ぶ豪華な食事は見るだけで胸やけと満腹感に襲われる。


結局、別の世界に来て初めての朝食は普段と変わらずパン一つとミルクで終わった。




成海が朝食を食べ終え、メイドが用意した食後の紅茶を断りきれず飲んでいると、絆が勢いよく部屋へと入って来た。


「成海さん!おはよう!」


「絆君。おはよう」


「絆様!淑女(しゅくじょ)のお部屋に入る際は必ずノックをし、中からの返答を」


「あ、メイド長さんも!おはようございます!」


メイドの小言すらろくに聞かず、絆はメイドに挨拶すると成海の向かいの席へ勝手に座る。


メイドは苦笑すると、ため息をつくだけでそれ以上は何も言わずに、絆の分の紅茶を準備しだした。


(メイド長だったのか、この人。それにしても…絆君は自由だなぁ。メイド長さんも諦めてるみたいだし……いつもこうなんだろうな)


絆やメイド長について一人分析しつつ、成海は紅茶をまた一口飲む。


「ねぇ成海さん!ご飯は食べた?ここのご飯は美味しいよね!あ、夜はしっかり眠れた?ベッドはふかふかだし広いし!さすが城だって思わない?そういえばさ!俺、初めてここに来た時あんまり寝心地良かったから昼過ぎまで寝てて」


「ちょ、ちょっと絆君。一つづつ聞くから」


矢継(やつ)(ばや)に話立てる絆を成海は途中で口を挟み中断させる。


そうでなくてはいつまでも一人で話し続けるだろうと思ったからだ。


そしてそれは間違いではない。


「あ、ごめんごめん。なんか…成海さんがいるって思うと……嬉しくてさ」


そう言うと絆は頬を少し染めながら成海を見つめた。


「私が?」


「あ!いや!あの!ふ、深い意味は無いんだよ!ただ…そう!同じ運命を背負った人同士っていうのかな!そういう人がいるのが嬉しくて!ホント!変な意味とかないからさ!」


今度は頬だけでなく顔を真っ赤に染める絆。


そんな絆を見てメイド長は何故か微笑んでいる。


「…そっか。ありがとう。私も知り合いがいるのは心強いよ」


「…成海さん。うん!俺もすっごい嬉しいよ!」


成海に微笑まれ絆も嬉しそうに笑った。


二人の会話は微妙に噛み合っていないが、それをつっこむような無粋(ぶすい)な事はせず、メイド長は絆にも紅茶を出す。


「お茶ありがとうございます!でね!成海さん!今日の予定はこれから勉強なんだ!成海さんも一緒に!」


「そういえば………昨日そんなこと言われたかも。絆君はここで毎日勉強してるの?その…次期王様…王位継承者として」


「そうなんだ!へへっ!なんか照れるよね!俺が王様なんてさ!」


成海に『次期王様』と言われ照れたように笑う絆だったが、成海は冷静に言葉を続けた。


「どうして絆君が次の王様になるの?この世界の人間でもないのに」


「え?それは…そういう決まりだからだよ。陛下も俺達と同じだし」


「決まりって…そんなのおか」


「コホンっ!絆様、姫様。家庭教師達が待っております。そろそろご準備を」


成海が「おかしい」と言葉を言い終わる前に、メイド長が咳払いをして話を無理矢理中断させた。


紅茶を出したばかりなのにまるで「早く行け」と言わんばかりの行動に成海は眉をしかめる。


メイド長はチラリと、しかし冷ややかで強い眼差しで成海を見つめていた。


メイド長からの視線を受けた成海は黙り込むと、言いたい言葉を紅茶と一緒に一気に飲み干した。


絆は今のメイド長の態度も成海の様子も全く気にしていないのか、成海同様一気に紅茶を飲み干して立ち上がる。


「よしっ!じゃあ行こう!成海さん!」


「お待ち下さい絆様。姫様は少々お支度がございます」


「え?」


「あ、そうなんですか?やっぱり女子って色々と準備あるんですね。じゃあ俺は部屋の外で待ってます」


絆はメイド長の言葉を受けると、成海にウィンクをして部屋を出て行った。


残されたメイド長は鏡台の前に行くと成海へと声をかける。


「さぁ姫様。お勉強の前に御髪(おぐし)を整えます。こちらへ」


「髪なんて…別にこのままで大丈夫です」


「そうは参りません。姫として下々の前に出る前は、きちんと身なりを整えなくては。さぁ、どうぞこちらへ」


成海の意見は聞く気がないのか、メイド長は鏡台の椅子を引き成海を促す。


そんなメイド長の態度に不快感を覚えながらも、成海は渋々立ち上がり鏡台の前…メイド長の元へと向かった。


成海が鏡台の椅子に座ると、メイド長は彼女の髪を優しく(くし)()かしながら厳しい口調で成海へと話しかける。


「姫様。昨日この世界に来られたばかりで、戸惑(とまど)われるのも無理はございません。しかし姫となられた以上、ご自分のお立場を」


長々と説教を始めようとしたメイド長だったが、今度は成海が彼女の言葉を遮る。


「でも私は普通の高校生で…本当に普通の人間なんです。いきなり姫だなんて言われても……困ります」


「…姫様。この世界に来たからには、ご自分の運命を受け入れて下さいませ。姫様はこの世界に来た瞬間から女王陛下…そして絆様の次に、(とうと)い身分となられたのです。この世界の誰もが(うやま)う存在の一人。それが姫様なのですよ」


悲しげに目を伏せながらも、メイド長は静かに成海へと告げた。


「姫様。どうか姫としての振る舞いと教養を身につけ、姫としての日々をお過ごし下さい。絆様と共に…女王陛下のお望みのまま、この世界で姫として生きて下さいませ」


「姫として…生きる…」


「はい。そして先程のようにこの世界…女王陛下に対する疑問や不敬(ふけい)なお言葉はお(つつし)み下さい。陛下への不敬(ふけい)は反逆罪に問われる事もございます」


自分の髪をリボンで(まと)めるメイド長に、成海は再び不快感を持つ。


それは女王に対して感じたものと同じ。


何も言わない成海を見てメイド長はそれを肯定と受け取ったのか、鏡越(かがみご)しで成海へと微笑んだ。


(ごう)()っては(ごう)に従え、と申します。姫様が心穏やかに過ごせますよう、わたくしも誠心誠意お仕えさせて頂きます。きっと姫様も、陛下や絆様のように、この世界を好きになられるでしょう」


微笑むメイド長にはやはり何も答えず、成海はただ鏡の中に映る着飾った自分を、他人を見るような目で見つめていた。

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