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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
二人目~不要の存在~
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4


「絆君…ここは私達の世界じゃない。そうなんだよね?」


不安げに表情を(くも)らせる成海。


その顔は自分の身に起きたこの状況を『信じたくない』とでも言いたげだった。


そんな成海の心情に全く気づいていない絆は満面の笑みで…それも楽しそうに成海へ答える。


「うん。ここは俺達の世界じゃないよ。魔法とか騎士とか…魔族とかがいる、ゲームみたいな世界なんだ!」


ニコニコと笑顔を浮かべる絆だが、そんな彼とは逆に成海の方は心も顔も晴れることはなかった。


「……そっか。でも…急にそんなこと言われても…信じられない」


「え?陛下からも説明あったんじゃないの?何も聞いてない?」


「説明はされたけど……だからって『あ、そうですか。わかりました』って、納得は出来ないよ」


「………そっか…そうだよね。…俺も最初は信じられなかったし。でも大丈夫だよ!直ぐにこの世界に慣れるって!皆、()い人達だから」


()い人達」…と絆は簡単に言うが、成海はその言葉を素直に信じることが出来なかった。


女王を初め、この世界の人間に対しては不信感しか抱けていない。


いきなり連行され、理不尽(りふじん)に怒鳴られ、話も聞いてもらえないのなら当然だろう。


何より成海が納得出来なかったのは、この世界特有の異世界人へのルール。


(いきなり現れた別の世界の人間を王位継承者…未来の王様にしようなんて…そんなの……おかしいでしょ)


成海は女王から説明を聞いた時から、この世界の王位継承のルールに疑問を抱いていた。


しかし絆の方は自分の置かれている状況を…王位継承者という立場を受け入れている。


彼の格好や口調…様子から成海はそう感じていた。


「絆君は…いつこの世界に来たの?」


「俺?え~と…五週間は過ぎたから…ひと月くらい前かな?あ、俺の事って想造世界…元の世界でニュースとかになってない?」


「ニュース………ううん。なってない。普通に……あれ?」


絆に(たず)ねられ、成海はある事に気づいた。


自分は昨日も今日も、いつも通り学校に行っていたのだ。


当然、絆の姉でもありクラスメイトでもある友人にも学校で会っている。


それなのに…彼女から「絆がいなくなった」という話は聞いていない。


それどころか…先日、期末対策として彼女と勉強していた時…友人は弟の話もしていた。


『絆も少しは頑張ってほしいよ。私達くらいとは言わないからさ…学年100位…ううん。せめて150位には入って欲しいわ』


そうボヤいていた友人の姿がハッキリと脳裏に浮かび、成海の疑問は大きくなる。


「本当に……この世界に来て、ひと月も経ってるの?」


「間違いないよ!本当に俺はこの世界にそれだけいたから!なんなら城の人や…そうだ!陛下にも聞いてみてよ!」


「………ごめん。絆君の話を疑うわけじゃないんだけど…」


絆の様子からして彼の言葉も嘘では無いだろう。


だからこそ…成海は余計に混乱していた。


(この世界と私達の世界じゃ…時間の流れが違うのかな?)


首を(ひね)り考え込む成海に、絆は「あ!」と何かを思い出したようにテーブルから身を乗り出す。


「なんか俺達、元の世界についてよく思い出せないらしいよ!」


「え?…それ…誰から聞いたの?」


「陛下から。陛下も俺達と同じだからね。それに将軍も同じ事言ってたし…この世界じゃ有名な話なのかも。俺もよく思い出せないし」


「なに…それ…」


また新たに知ったこの世界の常識に頭を悩ませる成海。


絆は嘘をついている訳では無いだろう。


それはわかるが…だとしても信じられない。


現にたった今、成海は元の世界の事をしっかりと思い出していたのだから。


難しい顔をして黙り込む成海に、絆は彼女を安心させようと優しく言葉をかける。


「成海さん。大丈夫だよ。さっきも言ったけど…この世界の人は皆良い人だから。直ぐに慣れる。俺だって慣れたんだからさ!」


「………絆君」


「そんなに心配しないで!成海さんは一人じゃないよ!俺がいる!この世界に先に来た先輩として、俺のこと頼ってくれていいからさ!それを言いたかったんだ!」


ニコッ!と自分に向ける絆の笑顔を見て、彼がこの部屋に来たのは自分を励ます為だったと成海は気づいた。


一人ではない。


同じ境遇の仲間がいる。


それは成海にとって嬉しい事実だったが…それだけで彼女は安心など出来なかった。


女王から理不尽に怒鳴られたばかりだから余計に…。


「ありがとう…でも…本当に信じられなくて…」


「う~ん。でも…ここが俺達の世界じゃないのも本当だし。信じられなくても…これが現実なんだよ。受け止めなきゃ」


眉を寄せ、困ったように告げる絆。


そんな彼の視線から逃れるように成海は俯いた。


正確には…不快感で(ゆが)む自分の顔を見せないようにした成海。


(なんで…なんで絆君はそんな事が言えるの?なんで絆君はこんな現実…受け入れられるの?…私は………私も受け入れなきゃいけないの?)


「成海さん?」


いつまでも下を向いたままの成海を心配して、絆が声をかけたその時。


コンコン…と扉をノックする音が二人の耳に届く。


二人が同時に開いている扉の方を見ると、そこには二人のメイドの姿。


奥のメイドは成海を部屋に案内したメイドであり、その手にトレイを持っていた。


手前のメイドは一度頭を下げてから中にいる二人へと声をかけた。


「姫様。お食事をお持ち致しました」


「あ、ありがとうございます」


「そっか。晩ご飯だっけ?じゃあ俺も部屋に戻ろうかな。成海さん!明日、朝ご飯食べたら迎えに来るね!」


椅子から立ち上がった絆の言葉で、成海は女王から言われた事を思い出す。


女王は確かに「絆と共にこの世界について学べ」と言っていた。


一人納得する成海は絆を見送ろうと、一緒に扉の前まで歩く。


「今日はありがとう絆君。また明日ね」


「うん!……あのさ…成海さん!」


絆は急に成海の手をギュッと自分の両手で握りしめた。


そして真剣な表情を成海へと向ける。


「俺はさ…俺がこの世界に来たのは運命だと思ってる。きっと成海さんがこの世界に来たのも…運命だよ。だからさ!二人で頑張ろうよ!」


「絆君?」


「ね!」


少し頬を赤く染めながらも、キラキラとした目で『運命』と熱く語る絆。


そんな絆の圧を感じたのか、成海は無言でコクコクと頷くことしか出来なかった。


成海が頷くのを見ると、絆はパアッ!と嬉しそうに笑顔になる。


「大丈夫だよ!成海さん!俺がついてるから!」


「う、うん。ありがとう」


「へへ。じゃあ!また明日ね!」


やっと手を離したかと思うと、絆は駆け足で部屋を出て行った。


そんな絆の後ろ姿を(なが)めながら首を傾げ、成海はメイドの待つ部屋へと戻る。


(明日…か。明日になれば夢だった…ってオチならいいんだけど)


少し…ほんの少しだけ期待をして、成海は用意された豪華な食事を食べ終わると、早々にベッドに横になった。

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