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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
二人目~不要の存在~
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3


女王が一人、謁見(えっけん)()で怒りや恐怖に震えている頃、成海は城の一室へとメイドに案内された。


「ここが姫様のお部屋となります」


「あ、は、はい。ありがとうございます」


通された部屋は一人分とは思えぬ程に広く、家具一つ一つが豪華で繊細(せんさい)な造りのもの。


部屋を見回しながら成海は呆気(あっけ)にとられたように、口を開けたまま呆然(ぼうぜん)としている。


只今(ただいま)夕食をお持ち致します。何かご用がありましたら、テーブルの上のベルをお鳴らし下さい」


「は、はい。ありがとうございます」


「では姫様。失礼致します」


メイドが去り扉が閉まる。


成海は直ぐに扉へ近づき外の会話に耳をすませる。


『私は姫様の夕食を持って参ります。姫様からのお呼び出しがあれば直ぐに伺いなさい』


『かしこまりました』


小さく聞こえる声で、成海は部屋の外には常に誰かがいるのだと知る。


小さなベルを鳴らせ、とはそういう事だったのだろう。


成海は重い足取りで天蓋(てんがい)付きの大きなベッドへと近づくと、勢いよくそこへとダイブした。


「はぁ~~~…別の世界とか…姫とか…女王様とか王位継承者とか……なんなの?」


一人になった事で成海はうつ伏せのままベッドに向けて本音を()らした。


その顔は困惑(こんわく)に満ちており、ため息まで出てしまう。


「……夢…じゃないのかな?昨日寝る前にアニメも漫画も見てたし。…全然こんな話じゃないけど」


グルッと体を仰向(あおむ)けにすると、頭上には天蓋(てんがい)


こんなベッドはテレビや本で見た事があるだけで、実際に見た事はない。


「凄いベッド。凄い派手で綺麗な部屋。お城にいて女王様もいて……ホントにお姫様になった気分」


『お姫様』と自分で言った言葉に成海は眉を寄せる。


なんて自分に不釣り合いな言葉だろう、と。


「そんなの…私には全然似合わないけど。むしろ絆君と一緒にいた……あの黄緑の髪の子の方が、よっぽどお姫様っぽかったし。……でも…」


成海はほんの一瞬目のあった美しい少女…エリカを思い出す。


正確には彼女に向けられた目を。


たった一瞬…ほんの一瞬だったが、彼女は確かに自分を(にら)んでいた、と。


「あの子…なんで私を(にら)んでたんだろ?綺麗だけど…ちょっと怖い子だったな…」


エリカが自分を(にら)んでいた理由など知らない…想像もつかない成海。


それだけではない。


成海はこの世界について、まだ何も知らないのだ。


「…ここは別の世界で…女王陛下がいて……別の世界から来た私は……姫様?…ホントに…訳わかんない」


いきなり綺麗な庭園に迷い込んだと思ったら、武装した男達に取り押さえられた。


ジタバタと暴れていると将軍と呼ばれる男が現れ、そのまま女王の元へと連行された。


連行された先には何故か友人の弟までいる。


それも燕尾服(えんびふく)のような正装を身にまとって。


「絆君は王位継承者……なら…私は何なの?お姫様になって何をしろってのよ」


いきなり『別の世界に来た』と言われて納得など出来るはずもない。


成海はふと起き上がると自分のほっぺたを、思いっきり(つね)る。


「痛ぁっ!!もう!夢じゃないの!?夢でいいよこんなの!」


自分で(つね)ったとはいえ痛む頬を抑えながら(わめ)く成海。


一度不満を口にするとそれはもう自分でも止められなかった。


「だいたいなんなの!?あの女王様は!人の名前も話も全然聞かないで!勝手に自分の話して!ちょっと質問したら怒鳴ってさ!」


成海は自分に向けた女王の態度を思い出すと、後ろにあった枕をボスっと叩いた。


「なんでそんなに怒られなきゃいけないのよ!私そんなに悪いこと聞いた!?気になったから聞いただけなのに!もう~~~!ムカつくっ!!」


ボスボスと枕を叩き続けた成海だが、あまりにムカついたらしく、ついには枕を壁に向け全力で投げつけた。


壁に当たった枕はまたボスッ!と音を立ててズルッと落ちる。


怒りのまま早口で言いたいことをまくしたて、さらに全力で枕を叩き続けた成海はゼーゼーと息を切らしていた。


そしてゆっくりと深呼吸するとまたベッドに横になる。


今度はうつ伏せで顔だけ横に向けて。


「……なんか…一人で怒って…私バカみたい。…早く元の世界に帰りたいな。…期末も近かったし。…でも…こっちでも勉強しろって言われたし……帰れないし」


女王から言われた事を思い出す成海。


成海を元の世界に戻せるのは女王だけ。


それも絆が次期王となり、女王から王位を受け継いた時だけだとも言われた。


成海自身にはどうすることも出来ない。


「…なんで…私はこの世界に来たんだろ?…王位継承者でもないみたいだし……いる意味あるのかな?」


この世界における自分の存在意義について考えていると、扉からコンコンとノックする音が聞こえた。


先程のメイドが夕食を持ってきたのかと思ったが、扉から聞こえてきたのは成海もよく知る声。


成海が返事をする前に、その人物は中にいる成海へと声をかけた。


「成海さん。俺だけど」


「絆君?」


「そう。入ってもいいかな」


「ちょっと待ってて」


この世界で唯一の知人でもあり、同じ境遇(きょうぐう)ともいえる絆の来訪(らいほう)に、成海はベッドから立ち上がる。


一応投げ飛ばした枕をベッドに戻し部屋の中を確認してから、成海は扉を開けた。


カチャ


「絆君。どうしたの?」


「ちょっと話したい事があってさ」


「わかった。どうぞ」


成海は絆の訪問を(こころよ)く受け入れ、部屋へと招く。


絆が部屋へと入り、成海が扉を閉めようとすると外にいたメイドがそれを止めた。


「姫様。年頃の男女が部屋で二人きりなど、あってはなりません。どうぞ、扉は開けたままになさって下さい」


「え?で、でも」


「絆様は王位継承者。姫様も同じく(とうと)い身分であらせられます。どうかご理解下さいませ」


上流階級の者なら年頃の男女が部屋に二人きりなど、あってはならない。


女王の住まう城で、高い身分の者ならなおのこと。


この世界では知人と気軽に話す事すら許されない。


成海はため息をつきたいのを我慢し、そのまま扉から手を離す。


その時、メイドから冷たい声が響く。


「それと陛下に対する不敬なお言葉もお(つつし)み下さい。反逆罪に問われる危険がございます。姫たる者、二度とさような言葉を口にしてはなりません」


苦言を(てい)すメイドだが、成海は何も答えずに先に座っていた絆の元へ向かった。


絆の向かい…テーブルを挟んだ正面にある椅子に腰掛けると、成海は小声で絆へと問いかけた。

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