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ぎこちなく頭を下げる成海を、女王はジロジロと見つめる。
その目つきは…まるで成海を品定めしているよう。
「成海。先程、絆が言っていたように、この世界はお前達の世界ではない」
「あ、あの…それってどういう」
「私達のいた世界は、この世界で『想造世界』と呼ばれている。私達の世界の想像によって造り出されたのがこの世界だからだ」
「え?私達って女王様も」
「この世界に来た想造世界の人間は、王となる運命にある。よって絆は、この世界の王位継承者。私の次に王座につく者だ」
「絆君が?そもそもなんで私達はこの」
「それ故に絆は、この世界で私の次に尊い存在として、民から慕われ、敬われている」
(ぜ、全然話を聞いてくれない…)
成海が何か聞こうとしても、女王は聞く耳を持たず自分の話を進めるだけ。
成海はもうこの時点で、この女王に対して苦手意識が芽生えていた。
しかし女王の方が成海に向ける感情は、苦手意識などという生易しいものではない。
女王は成海が現れたその瞬間から…成海を警戒している。
「お前は元の世界には戻れない。戻せるのは私のみ。それも新たな王が王座に着いた時だけだ」
「そんな!?」
「お前の身柄は私が保証する。この城にて滞在せよ。絆と共にこの世界について学ぶのだ」
「…………はい」
女王からの命令に、成海は渋々頷く。
本当は言いたい事、聞きたい事が山ほどあった。
しかしこの女王様は自分の話などまるで聞いてくれない。
聞こうとすらしてくれない。
ならば早々に話を切り上げ、彼女から早く解放されたかった。
「よかろう。部屋はメイドに案内させる」
「…ありがとう…ございます。女王様」
「私のことは『陛下』と呼べ。…それと……一つ聞かせよ」
「…なんでしょうか…陛下」
今度は何の話だ?と成海が女王を見つめ返すと、女王はやはりジロジロと成海を見つめて口を開く。
「絆とは親しいようだったな。知り合いか?」
「え?は、はい。同じ学校に通ってて…絆君の双子のお姉ちゃんが…クラスメイトで友達なんです。だから話した事も何度かあって」
「…絆とは…恋人同士ではないのだな?」
「えっ!?ち、違いますよ!」
女王から発せられたとんでもない質問に、成海は両手と首をブンブン振りながら否定した。
その時…ほんの少し……女王は安堵する表情を浮かべていた。
「そうか。それなら良い」
「あの…私からも一ついいですか?」
「なんだ」
女王は今の会話で少し安心したのか、今度は成海の話を聞く余裕が出来たらしい。
しかし…成海の質問はまた女王を警戒させることになる。
「この世界に来た異世界の…想造世界から来た人が王位につく運命で、絆君が王位継承者なのはわかりました。それなら………私は?」
「っ!?」
「さっき陛下は私に『元の世界に帰るまで過ごせ』じゃなくて、『この世界について学べ』と言いました。私も王位継承者の一人になるんですか?」
それは成海からすれば純粋な興味と疑問。
別に王位継承者とやらになりたい訳でも、それこそ女王様になりたい訳でもない。
それでも…この質問は女王の逆鱗に触れた。
女王はまた顔を怒りに歪めると、再び肘置きをドンッ!と強く叩く。
そして玉座から立ち上がると、成海へ向け怒鳴った。
「お前はそのようなこと考えなくてもよいっ!二人目の小娘が!王位継承者だと!?思い上がるな!」
そのあまりの形相と怒鳴り声に、成海はビクリと体を震わせた。
「…す、すみません」
「二度とそのようなこと口にするな!誰かっ!誰かいないかっ!この小娘を早く部屋へ連れて行けっ!」
女王が叫ぶと成海の後方にある大きな扉が開かれ、二人のメイドが中に入ってくる。
「さぁ、姫様。お部屋にご案内致します。参りましょう」
「え?姫様って…私ですか?」
「勿論でございます。さぁ、姫様。陛下にご挨拶を」
メイドに促され、成海はまたチラリと女王へと視線を向ける。
女王の方はもう成海を見たくもないのか、顔を逸らしていた。
「…失礼…致します。…陛下」
成海は頭を下げ女王に退室の挨拶を告げると、メイド達と共にこの謁見の間を出て行った。
残された女王はドサリと玉座に座り込み、頭を手で抑える。
「…二人目。……二人目が来てしまった」
その表情は先程までの激しい怒りの形相から、まるで何かに怯えるような…恐怖のそれへと変わっていた。
「史実によれば…先代女王が即位する前…王位継承者は二人だった。壱の姫だった先代女王と、後から来た妹の弐の姫。二人は王位を争い……貴族が…民衆が…世界中が二つに割れ…争いが起こったという。その時……争いに乗じて魔族共も力を増していった」
それは女王が…彼女が最も恐れていた事態。
二人目の王位継承者は、この世界にとって争いの元となる。
そして彼女がかつて愛した彼も…。
「優貴も…二人目だった。二人目だったから…あいつは……この世界をっ!」
だからこそ…女王は初めて会った時から絆を警戒していた。
絆が男という理由だけで。
だが今は…その警戒心は全て成海に向けられている。
彼女が…成海が二人目という…それだけの理由で。
そしてそれは成海が先程言った「自分も王位継承者か?」という疑問で、更に強くなる。
女王があえて隠そうとした事実。
無意識にもそこに触れた成海に、女王の警戒心は増すばかり。
成海がどんな少女かなど…成海について何も知らないのに…女王の心は『二人目が世界を乱すのでは?』という疑惑でいっぱいだった。
「そんなことは許さんっ!私はこの世界を守ったのだ!この世界は私の世界!私が守った世界だ!今更この世界を争いの地になどしないっ!魔族にも!二人目にも!滅ぼさせはしないっ!」




