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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
二人目~不要の存在~
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1


成海(なるみ)さんっ!」


(きずな)は少女の名を叫びながら彼女へと駆け寄る。


その顔には驚きと喜びが満ちていた。


「成海さんもこの世界に来たんですか!?」


絆は少女の前に行くと彼女の手を取り、嬉しそうに話す。


「………え?…絆君?何言って…え?この世界って…どういうこと?」


友の双子の弟の言葉にただ困惑する絆と同郷(どうきょう)の少女…成海。


成海にはこの場所も、絆の言っている事も理解出来ない。


何故自分はこんな所にいるのか?


ここは何処なのか?


絆の奥に見える者達は一体何者なのか?


「成海さん!俺達は別の世界に来たんですよ!ここは俺達の世界じゃないんです!」


「だから何言って」


バンッ!!


絆の言葉の意味を聞こうとした成海だが、それは大きな音により(さえぎ)られた。


全員が一斉(いっせい)に音のした方へと目を向ける。


その視線の先には片手で頭を抑えて俯き、片手を(こぶし)にし肘置きに置いている女…女王。


(こぶし)は今も少し震えている。


先程の音は彼女が肘置きを強く叩いたものだと全員が理解した。


女王は(うつむ)いたまま、静かにこの場にいる者達に告げる。


「…絆、そしてエリカ。今すぐ部屋を出ろ。宰相(さいしょう)達や将軍もだ」


「陛下っ!?」


女王の発言にヴィクターは声を上げる。


しかしそんなヴィクターを手で制し、宰相はいつも通り静かに女王へと問いかけた。


「陛下…よろしいのですか?」


「あぁ。さっさと全員…この場から去れ。そこの娘以外な」


女王は今度こそ頭を上げると、(するど)い眼光で成海を見つめる。


いや、(にら)みつける。


好意などなく…敵意が込められているような視線。


だが何処か警戒しているような…そんな自分を見つめる目に(ひる)む成海。


そんな成海の様子にいち早く気づいた絆は女王へと声を()らげた。


「陛下っ!なんで俺達全員が出ていって成海さんだけ残るんですか!?」


「黙れ絆。いいからさっさとこの場から出て行け」


「でも成海さんは!」


バンッ!!


「私の言葉が聞こえないのかっ!?いいからさっさと出て行けっ!」


女王は再び肘置きを強く叩くと、怒りのこもった形相(ぎょうそう)でわめく。


そのあまりの形相に成海だけでなく、絆やエリカまでビクリと体を震わせた。


猛虎(もうこ)将軍はそんな絆の肩にそっと手を置く。


「絆様。参りましょう。陛下にはお考えがあるのです」


「でも将軍!」


「ご心配なさいますな。陛下は…この方と少し話されたいだけなのです。この世界について。それを説明なさるおつもりなのです。王位継承者として…ご理解下さい」


優しく(さと)すように話す将軍に、絆は不服そうな顔を浮かべる。


しかし結局は将軍の言葉に頷いた。


「…将軍………はい。わかりました」


「えっ!?」


あまりにもアッサリ引き下がる絆に、成海は目を丸くする。


自分が置かれている状況もいまいち分かっていない成海にとって、それはあまりにも軽薄(けいはく)な判断だった。


成海は話の流れで、あの自分を射抜(いぬ)くように見つめる女性が女王だとは理解した。


理解したからといって、そんな怖い女王様と二人きりになどなりたくない。


しかし将軍と呼ばれた男は絆の背を押し、共に扉へと向かう。


エリカもまた、女王に一礼すると駆け足で絆の元へと向かった。


成海とすれ違う際、エリカと成海は一瞬だけ目が合う。


成海の方は黄緑色の髪をした美しい少女に見惚(みほ)れているだけだったが…エリカは違った。


困惑(こんわく)とも…怒りとも…悲しみともとれる瞳。


しかしエリカが成海を見たのは一瞬だけ。


直ぐに視線を絆へ戻すと、絆の隣に並び彼と共に出ていってしまった。


扉が閉まると成海は女王達へと視線を移す。


女王の側で(ひか)えていた男達も、エリカのように一礼すると脇にある小さな扉へと向かった。


宰相は別段(べつだん)動揺する事もなく、落ち着いた表情だったが…ヴィクターは違う。


彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


それもそうだろう。


今日この日…この瞬間は、エリカと絆の婚約が女王から告げられるはずだった。


言い方を変えれば、娘が王妃となる未来が約束されるはずだった。


それを…たった一人の少女の登場で台無しにされたのだ。


ヴィクターは自分の思惑(おもわく)通りに事が進まなかった事の怒りを悟られまいと、ただ女王のように震える拳を握りしめ、宰相と共に謁見(えっけん)の間を出て行った。



残されたのは…女王と成海のみ。



成海はただならぬ緊張感で手が震え、冷や汗をかく。


ゴクリと生唾(なまつば)を飲み込んだ音が耳に響くだけで…他には何の音もしない。


他の者を全員この場から出したはずなのに…女王は再び(うつむ)いて額に手を当てるだけ。


何一つ言葉を発しようとはせず、また成海の方を見ようともしない。


あまりの静寂(せいじゃく)やこの空気に耐えられず、成海は意を決したように女王へと声をかけた。


「あ、あの…女王…様…でいいんですよね?」


「………そうだ。だが人にそのような事を(たず)ねる前に、自分から名乗ったらどうなのだ?」


何処か怒りや呆れのこもった声で指摘(してき)され、成海は(あわ)てて背筋を正す。


「す、すみません。あの…私の名前は…成海」


「成海だな。わかった」


(ま、まだ苗字しか言ってないのに…)


成海が下の名前を言い切る前に、女王は成海の言葉を(さえぎ)る。


しかしこのタイミングで、改めて名前を言う度胸は成海にはない。


「よ、よろしくお願いします」


結果、彼女は名前を告げるのをやめた。


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