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次の日。
エリカは女王との約束通り、城にある謁見の間へと向かった。
この日の為に新調した淡い桃色の豪華なドレスや、数々の装飾品を身にまとい、化粧をほどこして。
エリカが謁見の間に入ると、中には既に絆がおり、彼は普段のような簡素な稽古着ではなく貴族のように正装をしている。
慣れない格好をしているせいか、この広く威厳溢れる空間に一人でいたせいか…おそらく両方だろう。
絆は不安げな表情を浮かべ、キョロキョロソワソワと落ち着かない様子をしている。
しかし扉の方に立つエリカを見つけると、パアッと満面の笑みを浮かべて彼女に向かって駆け出した。
自分に笑顔を向け走ってくる絆を見て、エリカも嬉しそうに笑う。
「エリカ!」
「絆様。ご機嫌麗しゅう」
「良かった~。エリカも陛下に呼ばれたの?」
「左様でございますわ。本日は…大切な話がある、と」
その大切な話の内容を知っているエリカは、頬を染め嬉しそうに笑う。
が、絆の方は今の言葉を聞いてあからさまに落ち込んだ。
「大切な話か~…そうだよな。やっぱり」
「絆様?どうかなさいました?」
何故か酷く肩を落とす絆にエリカは心配そうに尋ねる。
もしや…絆も話の内容を知っており…それをよく思っていないのでは?
エリカは自分の悪い想像に顔を青くするが、顔を上げた絆は必死な顔をエリカに向ける。
「エリカ!俺達友達だよね!?」
「え!?え、えぇ。わたくしは絆様の事…とてもお慕いしておりますわ」
それはエリカにとって告白でもある。
だが絆はその言葉を聞きガシッとエリカの手を握りしめると、口を開いて矢継ぎ早にまくし立てた。
「そうだよね!俺達仲良しだもんな!だからさ!頼みがあるんだよ!俺の味方して!」
「み、味方でございますか?」
絆が一体何を言いたいのか?
意味が分からないエリカだったが、それは直ぐ絆によって説明される。
「きっと陛下は俺に怒ってるんだよ!勉強全然出来てないとか!剣も全然上達してないとかさ!実際そうだし!こんな正装までさせられて、一人で呼び出しなんて初めてなんだ!今日は絶対怒られる!だから俺の味方して!ね!頼むよ!」
「…………え?」
つまり絆は女王が彼を叱りつける為に呼んだと思っているらしい。
おそらく絆にとって今回の女王からの呼び出しは、教師からの呼び出しと同じもの。
何かしら注意を受けるなり説教されるなり思っているのだろう。
そんな絆の心中を知り、エリカは安心しつつも少し呆れた。
(絆様ったら…まるで親に怒られる前の子供みたいですわね。本当に…仕方のない方。……いいですわ。そんな絆様をしっかりと支えるのが未来の王妃たるわたくしの役目。絆様が王位継承者として相応しい方となるよう、わたくしがきっちり再教育させて頂きますわ!)
新たな決意を胸に、エリカもまた絆の手を握り返した。
「絆様。大丈夫ですわ。陛下は絆様を叱ったりなどしません。今日陛下は、とても大切で…良いお話をしてくれるのです。ですから、わたくしも呼ばれたのですわ」
「そうなのかな?…エリカがそう言うなら…そうか。でも…いい話ってなんだろ?」
「ふふ。それは聞いてからのお楽しみですわ」
そう言いながら誰よりも楽しみにしているエリカ。
あと少し…女王はこの場に来て、二人の婚約を高らかに宣言するはず。
そうなれば…結婚は決まったも同然。
自分が王妃となる未来は自他ともに認められる。
そうすれば、今まで宰相補佐で収まっていた父の位も評価も上がるだろう。
小国でしかない祖国も王妃の国となれば今よりきっと栄える。
楽しい想像ばかり膨らみ、楽しそうに微笑むエリカを絆は不思議そうに眺めていた。
そんな時、玉座の右奥にある女王専用の小さな…しかし豪華な装飾を施された扉が開かれる。
そこから宰相と宰相補佐であるヴィクターが現れ二人を見つめた。
エリカは慌てて絆の手を離し、玉座まで敷かれた赤い絨毯を凛とした姿勢で早足で歩くと玉座の前で跪く。
礼儀作法などよく知らない絆もエリカの真似をして跪いた。
それを合図に宰相達も玉座の両隣へと足を進める。
全員が定位置に着くと、小さな扉から女王が現れた。
コツコツとヒールの音を響かせながら、彼女は玉座へと腰掛ける。
「絆。エリカ。よう参った。面をあげよ」
「はい」
「は、はい」
ゆっくりと二人が頭を上げると、そこには玉座に腰掛け微笑む女王の姿。
女王が微笑んでいたことで、本当に怒られる訳ではないと悟った絆は、安心したように息を吐いた。
「二人を呼んだのは他でもない。そなた達の未来についてだ」
「俺達の未来…ですか?」
キョトンとする絆にエリカは慌てて小声で絆へと注意する。
「絆様。陛下の許しなく勝手に喋ってはなりません」
「あ、す、すみません」
「よい。楽に致せ。ここには私達しかいないが…今日は大切な話を二人にする為に呼んだのだ。正式な発表は後日、王侯貴族や重役達を招き改めて行う」
女王の言葉が進む度にエリカの心拍数は早まる。
早く…早く……と。
そして女王は一度深呼吸をすると、二人を見据えて口を開いた。
「王位継承者、新堂 絆。そして宰相補佐が娘、エリカ=メイ=リスクよ。本日をもってそなた達を」
バンッ!
女王が二人の婚約宣言をする直前、謁見の間の扉が大きく開かれた。
そこにいたのはあの猛虎将軍。
「陛下!謁見中失礼致します!」
それに誰よりも早く反応したのは、娘の婚約宣言を邪魔されたヴィクターだった。
「将軍!控えよ!今日は誰もこの場に来ないよう陛下からの勅命があったはずだ!」
「ヴィクター殿!お咎めはなんなりとお受け致します。ですが!陛下に至急話さねばならぬ事…いえ!私の予想通りなら…会って頂きたい方が!」
「私に会わせるだと?誰だ?」
「陛下っ!?」
将軍の話に興味を持った女王にヴィクターは声を上げる。
今はそんな事より、さっさと娘に婚約宣言をしてもらいたいのが彼の本音だ。
しかしヴィクターのそれを宰相が制する。
「控えよヴィクター。陛下…忠誠心厚い将軍が勅命を破るなど、余程の緊急事態かと。その者とお会いになりますか?」
「うむ。至急連れて参れ」
「はっ!実は部下に、この場にお連れするよう申し付けております」
「そうか。どのような者なのだ?」
女王に尋ねられ…将軍は一度口ごもるが…直ぐにまた意を決したように女王を見つめ口を開いた。
「女性……いえ、少女です。その方は…以前、絆様がこの世界に来られた際に着ていた…紺色の服と似た服を着ており…胸には同じ紋章がございました」
その言葉に全員が息を呑む。
絆だけはまたキョトンと首を傾げていた。
「俺の着てた紺色の……それって制服のブレザー?え?胸の紋章って…うちの学校の校章?」
「校章……っ!?まさかっ!?」
ガタッ!と椅子から立ち上がり驚く女王。
女王の脳裏には…彼女が考える、この世界にとって最悪の事態がよぎる。
固まる女王だが、遠くから段々と近づく少女の声で我に返る。
「離して下さいってば!自分で歩けます!ちょっと!聞いてますっ!?」
扉の向こうから響く少女の声。
全員が扉に注目し…彼女は現れた。
黒い髪と瞳をした少女。
紺色のブレザーとスカートという…想造世界ではありふれた制服に身を包んでいる。
そんな彼女を…自分のよく知る少女の登場に…絆は目を丸くした。
「…え?……成海さん?」
「え?…絆君?」
現れた少女は…絆と同じ高校に通う…絆の姉の親友だった。




