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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
一人目~王位継承者~
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2


「…………カ?…エリカ?どうしたエリカ?ぼーっとして」


「っ!?お父様っ!」


突如現れた父親に、少女は慌てて頭を下げる。


その拍子で本が一冊落ちそうになるが、父親がそれを受け止めた。


「ははっ。私の声に気づかぬとは、そんなに熱い目で…一体誰を見ておったのだ?」


「もうっ!お父様!そんなんじゃありませんわ!からかわないで下さい!」


「はははっ!すまんすまん。しかし…絆様は毎日のように剣の稽古に励んでおられるようだな」


父親もまた娘と同じように眼下にいる王位継承者…絆を見つめる。



この男の名はヴィクター=リスク。



リスクとは…ある王族にのみ許された名。


この世界では女王の次に力を持つ人間の王族達…七つの王族が存在する。


七つの王族は、かつて想造世界の者が女王として君臨(くんりん)する前…この世界を統べていた(いにしえ)の王と盟約を交わした者達。


その中でもリスクの一族は驚異的な能力を持つ一族。


リスクの一族は少数だが彼等が統べる土地は国として認められている。


それは他の誰にも代わらない、代えられない彼等の特性が原因。


彼等の血はありとあらゆる毒となり、また万病を治す薬ともなるのだ。


恐ろしい能力だが、(いにしえ)の王が廃位(はいい)されてからも女王に深く忠誠を誓う彼等は、歴代女王にも重宝された一族。


ヴィクターはリスクの一族を治める王を兄に持つ、王弟だった。


彼は10年前、一族と国を王である兄に任せ、この王都に妻と娘と共に移り住んだ。


元々聡明であり女王からの信頼も厚いリスクの一族。


その王弟という事もあり、ヴィクターは宰相補佐官という高い地位を女王から授かった。


そしてヴィクターの娘であり、この美しい少女。



彼女の名はエリカ=メイ=リスク。



宰相補佐官である父親以上に勤勉であり、国一番の美人として有名だった母親譲りの美貌(びぼう)を持つ少女だ。


しかしそんな美しい少女はむぅ…と口を(とが)らせている。


「毎日毎日、剣や魔法にばかり時間を費やしているそうですわ」


「ん?それはきっと…剣や魔法を覚え、この世界に慣れようとしているのだろう。良い事ではないか」


「そうでしょうか?体を動かす事ばかり一生懸命で、先日の帝王学の授業では居眠りしていたとか。王位継承者が聞いて呆れます」


珍しくプリプリと怒る娘を見て、父親は『ふむ…』と(あご)に手を当てながら何かを考える。


「エリカは…絆様が気になるのかい?」


「…失礼を承知で申し上げますが…気になるのではなく、わたくしは絆様が気に入りません」


今度は父親の方を見て強い口調で話すエリカ。


「確かに…別の世界に来て、いきなり『王位継承者』と言われて戸惑うのも無理はありませんわ。それでも、与えられた役目はしっかりとこなすべきです。王という大役なら尚のこと」


「そうか」


「本来なら相応(ふさわ)しい地位につけるはずなのに…相応(ふさわ)しい力を持っているのに……その役を与えられない者もおります。それなのに…与えられた大役の上にあぐらをかき、遊び呆けるなど。…許せません」


エリカのソレは父親…そしてエリカ自身の事だとヴィクターは気づいた。


兄以上の剣の腕、知識、能力の高さを持っていながら、次男というだけでリスクの王になれなかったヴィクター。


王都に来て宰相補佐官という役目にはついたが、家族がいる事、また(いにしえ)の王族の者である事から女王のヴァルにはなれなかった。


ヴァルとは女王が最も信頼し、女王の為に全てを捧げる従者のこと。


女王から深く信頼されていても、祖国の王弟という立場からこれ以上の地位には上れないヴィクター。


そしてエリカ……彼女は勉強が好きであり、今彼女が持っている本は全て、難解なものばかり。


しかしどれだけ勉強しても、彼女もまたリスクの王族。


彼女自身が出世できるほどの知識を手に入れても、それは許されない。


彼女は将来、リスクの王族の一人として何処か高位や爵位のある家…またはどこかの王族に嫁がなくてはならない。


それこそが王族の女の運命なのだから。


だとしても…彼女は自分の運命を全て受け入れていた。


勉強は続けているが、いずれ嫁ぐ誰かの為、そして一族や家族、女王陛下の為に一生を尽くそうと。


そんなエリカが、ここまで怒りを見せるのは本当に珍しい。


「エリカが本心を語るなど…珍しいな」


「っ、申し訳ありません、お父様。淑女として有るまじき」


「ははっ!いいんだよ。さぁ、いつまでもここで長話をしてもしょうがない」


自分を叱らずに笑って流してくれる父に、エリカも微笑んだ。


「…お父様…そうですわね。わたくしは図書室に本を返して参りますわ。ではお父様、夜にまた」


「あぁ」


エリカは父親に一礼すると、そのまま目的地の図書室へと向かった。


歩きながらまた、チラリと絆の方を見て。


そんな娘の仕草を父親は見逃さなかった。


「ふむ…なるほど。どのような理由であれ…エリカは絆様が気になるのだな。絆様がこの世界に来た時…王位継承者が男だった事で皆が驚いた。…顔に出さずとも…民は少なからず困惑した。民だけではなく…陛下も」


今まで想造世界から来て王となったのは女性ばかり。


現在の女王が姫だった時も男は来たが…彼は二番目だった上に魔族に魂を売った。


それゆえに、女王は絆が現れた時から彼を警戒している。


ヴィクターは宰相と共に、女王から本音を聞いた事がある。


それは絆を…『自分の後継者として認めていいか迷っている』というものだった。


だが飾らない性格で誰にも明るく接する絆に、今では城の者も彼に対して好意的な印象を持っている。


女王とて、きっかけがあれば…絆を認めるかもしれない。


そしてヴィクターは…ある一つの策を思いついた。


女王にとって、絆にとって…何より…自分にとって最良の策を。



「絆様が男であるなら…それこそ丁度いいではないか。陛下…そして絆様…両者にとっても悪くない」


一度それを想像してしまえば、笑みは深くなる一方。


その策が…願いが叶えば…宰相補佐官……いや、リスクの王族以上の栄華を極められる。


王位を諦めて、国を出た時に一度捨てたはずの野心が…ヴィクターの中でムクムクと膨れ出した。


「我が娘ながら…エリカはとても美しい。リスクの一族の力は高く、淑女として何たるかを心得ておる。絆様とて拒む理由はあるまい。…陛下に進言してみるか」


ヴィクターはニヤリと微笑むと、来た道を戻り女王のいる謁見の間へと向かった。

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