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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
一人目~王位継承者~
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ここは王都、【アイリーン】



この世界を治める女王が住まう都であり、貴族も多く住まう土地。


かつて…200年ほど前まで王都は違う名で呼ばれていたが、今の女王が即位して改名された。


王都の中心にそびえ立つ豪華な城。


その広大な敷地内にある庭の一つでは、一人の少年が軍人と剣の稽古を行っていた。


焦げ茶色の髪と黒い瞳をした少年は、流れる汗も気にせず全力で稽古(けいこ)に撃ち込む。


「ハッ!ヤァッ!」


「まだまだ!踏み込みが甘いですぞっ!」


「くそっ……これなら…どうだっ!」


バシッ!バシッ!と木刀同士がぶつかる音が庭に響き、少年は手はビリビリと痺れる。


それでも少年は休むこと無く、軍人の指導の元、剣を振り続けている。


そんな少年の姿を、庭を見下ろせる二階の渡り廊下から眺める者がいた。


黄緑の長い巻き毛に、深緑の瞳をした美しい少女。


少女は数冊の本を抱えたままその場に立ち止まると、少年を見つめてため息をつく。


「はぁ…。また剣の稽古ですの?」


呆れた顔で呟くが、その目は少年から逸らされる事は無い。


自分を見ている者がいるとは気づかず、少年は一心に剣を振るい続ける。


「今日はここまでに致しましょう」


「はぁ…はぁ……お、お疲れ様でした」


「いえ。しかし、(きずな)様は筋が良いですな。体力もありますし覚えも早い。指導者としては嬉しい限りです」


「マジ!?あ、本当ですか?猛虎(もうこ)将軍」


『絆』と呼ばれた少年はタオルで汗を拭きながら、嬉しそうに軍人…将軍へと聞き返した。


嬉しさのあまり素で返したが、慌てて敬語に直す。


相手は自分の父親ほどの歳であり、しかも将軍なのだから。


将軍は少年…絆の言葉に微笑むと、水筒を彼に渡した。


「軍人は嘘など申しません。さぁ、喉が渇いたでしょう。どうぞお飲み下さい」


「ありがとうございます。頂きます」


「絆様、何度も申し上げますが、私に敬語は不要でございます。絆様は将来、私がお仕えする方なのですから」


「あはは。自分の父親くらいの人にタメ口って…なかなか慣れなくて」


絆は水筒を受け取ると、その場に座り込む。


渡された水を勢いよく飲むと、ぷはぁ~!と一息(ひといき)つき、そのまま絆は空を見上げて呟いた。


「この世界に来て…今日で10日ですけど…まだまだ慣れない事ばっかりです」


「…絆様…」


「だって俺は普通の…本当に何処にでもいる高校生ですよ。勉強はダメダメだし…部活だってレギュラーじゃないし…イケメンでもないし………はぁ…なんか(むな)しくなってきた」


自分で自分の言葉に落ち込む絆。


この少年の名は新堂(しんどう) (きずな)


10日前に想造世界からやって来た、この世界の次代の王…王位継承者である。


そんな絆を見て、言葉の意味は分からずとも苦笑する将軍。


「それでも…絆様が想造世界から来られたのは事実。絆様は女王陛下の跡を継がれ、この世界を治める方。それがこの世界の掟であり、女王陛下と絆様の背負われている運命(さだめ)なのです」


その話は絆とて聞いている。


この世界に来てから今日までの10日間で、色々な人間から…それこそ何十回と同じ話を聞いた。


自分は別の世界に来てしまった。


ここは自分のいた世界ではない。


この世界は魔法もあれば、竜も人魚も魔族もいる…ファンタジーな世界。


自分の世界は『想造世界』と呼ばれ、この世界にとっては異世界であり、創造主でもある世界。


この世界の王は、自分のように想造世界から来た者がなり、現在の女王陛下も自分と同じ想造世界から来た。


そして自分は、女王陛下の跡を継いで次の王とならねばならない。


その話は絆とて理解している。


当然、初めの頃は混乱していたし、そんな現実など受け入れられず元の世界に帰りたいとも思っていた。


しかし今では『帰りたい』という気持ちが薄れ、親の顔すら上手く思い出せない。


それは想造世界の人間なら誰でもそうらしく、この世界を愛する為に故郷の世界を忘れてしまうという。


何度も説明され、10日もこの世界で過ごした。


城の豪華な一室に住まわせてもらい、豪華な食事に豪華な服。


そして自分を王位継承者として(あが)める、多くの使用人に貴族や軍人達。


会う人は皆、自分に向けて深々と頭を下げ、敬語を使ってくる。


この世界の王に相応(ふさわ)しいよう、帝王学を学び、剣術を学び、魔法を学ぶ毎日。


今までの……想造世界での暮らしとは、まるで違う。


「別の世界に来ただけでもビックリなのに……次期王様ってのが……イマイチ実感なくて。…さっきも言ったけど……普通の高校生なんですよ、俺。だから…王様とか言われても……正直、自信ないです」


段々と小声になる絆。


将軍は座っている絆の目線に合わせるよう、少し腰をかがめるとその肩をポンと叩く。


「絆様は……この世界がお嫌いですか?」


「っ!?いえっ!この世界は好きですよ!皆優しいし!漫画やゲームみたいだし!魔法だって使えるようになったし!まだ驚く事も沢山あるけど……でも、毎日楽しいです!」


将軍の言葉に絆はまた慌てたように、しかし力強く自分の思いを語った。


「ありがとうございます、絆様。今はそれで十分です。絆様がこの世界を好いて下さるのでしたら、それだけで」


「…将軍……すみません。俺……失礼だし…無神経な事、言いましたね」


「何をおっしゃいます。悩むのは当然のことでしょう。運命も世界も関係ありません。若いうちに悩むからこそ、人は成長出来るのですから」


「ありがとうございます。……よしっ!じゃあ、もっと成長出来るように!この後は魔法の稽古でもしようかな!あ!聞いて下さいよ将軍!昨日ファイヤーボールがやっと出せたんです!ちっちゃいけど…見てて下さいね!」


絆はピョンッ!と飛ぶように立ち上がると、意気揚々と手のひらから小さい炎の球を出した。


それを見て褒める将軍に、絆もまた笑顔になる。


そんな二人……絆を見ていた少女は、再び呆れたように呟いた。


「…ファイヤーボール?あれが?あんなに小さい火を出しただけで喜ぶなんて……王位継承者様は随分と…お子様ですこと」


誰にも……絆本人にも聞かれていない事をわかっていながら、少女は一人悪態をつく。


誰かに聞かれていたら、それこそ次期王への不敬罪で捕らわれるかもしれない。


いかに自分が、父が……そして一族が力を持っていようとも…この世界では女王、そして王位継承者は絶対なる存在だから。


それでも…この少女は、何故かこの少年を次代の王として認められなかった。


自分と同じ歳の……それも自分とは違い男なのに…全てにおいて自分より(おと)る少年を、彼女は好きになれなかった。


目を()らせないのは、意識が向いてしまう原因は、なにも好意だけではない。


嫌っている相手だからこそ、文字通り嫌でも目で追ってしまうのだ。


そんな少女の背後から近づく人物。


親しい者の足音や気配に気が付かない程、少女の意識は絆に集中していた。


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