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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
『覇王と死王』
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死王が覇王の死に悲しんでいる間に、周りの山々や上空から魔族や人間達が集まってくる。


人間達は歓喜(かんき)の声をあげ姫の元へ駆け寄るが、魔族達は死王と覇王の亡骸(なきがら)を遠くから(なが)めるだけ。


自分達の頂点に立っていた男が死に、自分達は今後どうすればいいのか?


困惑していた魔族達だが、覇王が死んだ今、彼等が(すが)るのは一人。


死王(しおう)様!覇王様亡き今!我等は死王様に忠誠を誓います!覇王様の盟友(めいゆう)たる死王様が意志を継いで下さりませ!」


「そうです!覇王様は決闘後も手出し無用と仰られたが……覇王様が死んだ今!その言葉を律儀に守る義理もない!」


「このまま姫を含め人間達を皆殺しにしてやりましょう!」


武器を構え血気(けっき)(はや)る魔族達に人間達も武器を構える。


「ふざけるな!勝ったのは姫様だ!この世界を()べるは姫様のみ!」


「薄汚い魔族共め!返り討ちにしてくれる!」


人間達も魔族達も殺気を(たぎ)らせ睨み合い…今にも襲い掛かる勢いだ。



そんな中…ある者が動く。



死王は覇王の亡骸(なきがら)を抱きかかえたまま、ゆっくりと立ち上がった。



「ハオ君…行こう」



その目には覇王しか映らず『死王様!』と呼ぶ魔族の声すら聞こえない。


いや、聞こうとしていない。


本気でこの場から覇王の亡骸(なきがら)を抱えて去る気だとわかる。


だがそれを、誰よりも黙って見送れない者がいた。


「…返せ」


それは姫だった。


ボロボロの体をなんとか奮い立たせると、怒りのまま魔族達…死王を睨みつけて怒鳴る。


優貴(ゆうき)を返せっ!返せよっ!優貴(ゆうき)は私の……っ、返せ魔族!」


「…返せ?何言ってんの?ハオ君を殺したくせに」


「お前ら魔族のせいだ!お前らが!お前らが優貴を(たぶら)かしたんだ!お前らのせいで!優貴は死ななきゃいけなかったんだ!」


泣きながら叫ぶ姫だが、その言葉に死王も黙っていられず怒鳴り返す。


「っ!ハオ君をそんな風に呼ぶなっ!ハオ君は覇王だ!人間の仲間じゃない!僕の……僕の友達だっ!!」


覇王の亡骸を強く抱きしめ、泣きそうな顔で叫ぶ死王。


その言葉に怯んだ姫に、死王は悲痛な顔のまま自分の思いをぶちまける。


「お前達っ!想造世界の人間はなんなんだよっ!勝手に僕を作ったクセにっ!勝手に僕の友達まで奪って!返せ?お前こそハオ君を返せよっ!」


ハァハァと息切れする程に怒鳴る死王だが、息が(ととの)うと再び覇王へと視線を戻す。


「ハオ君は……渡さない。僕の友達だ。誰にも渡さない。……想造世界の女になんか絶対……渡さない」


吐き捨てるように呟くと、死王はそのまま覇王の亡骸を抱えて飛び立った。


死王が去った後、この平原では人間達と魔族達が殺気を抑え切れずに争ったが、当時の女王が仲介に現れ、両者共に小数の被害が出ただけで、この場は治まった。






平原を去った死王は覇王の城に戻り、目障(めざわ)りでうるさい覇王の部下達を皆殺しにした。


そしてよく二人で酒を飲んでいた部屋に行くと、覇王の亡骸を抱えたまま椅子に腰掛ける。


「ハオ君……(ひど)い。僕を置いていくのは………わかってたよ。……わかってたけど……こんなに早く逝くなんて……酷いよ」


覇王の顔を()でながら呟く死王の目に、転がった酒瓶が映る。


もう二人で酒を飲む事が出来ない。


もう二度と……あんなに楽しい時間は戻ってこない


ただそれだけの事が……とても悲しく……()(がた)く……死王は涙を流しながら覇王の亡骸へと語りかける。


「ハオ君と一緒じゃなきゃ……お酒……美味しくないよ。……何やっても……楽しくないよ」


ポロポロと流れる死王の涙は覇王の頬を()らしていく。


まるで覇王も泣いているかのように。


死王の脳裏には、覇王と過ごした日々が走馬灯(そうまとう)のように駆け巡る。


そして、かつて覇王がこの部屋で告げた……ある言葉が脳内に響いた。



『一匹だけ逃がした。竜王族の子供をな』



死王はハッ!となり覇王の亡骸を見つめる。


「竜王族の……生き残り。……この世界を憎む……世界を混乱させる……火種」


死王は覇王の亡骸を凝視して呟く。


だが次の瞬間…死王は笑顔を浮かべた。


「…凄い……凄いよ、ハオ君。こうなる事まで予想してたの?」


死王は楽しげに、そして嬉しそうに覇王の亡骸を抱きしめた。


「ハハッ!そうだよ!まだ終わってない!ハオ君がちゃんと残してくれたもんね!この世界を憎む存在をさ!アハハハッ!」


何も答えない覇王の亡骸に語り続ける死王。


その姿は無邪気な子供を連想させつつ、何処か狂気じみている。


「彼……彼女かな?どっちでもいいけど……きっとその子は動く。ハオ君みたいに……世界を滅ぼそうとする。ハオ君がそうなるように仕向けたもん。きっとそうなるよね。竜族の寿命は1000年……それに竜王族は……この世界最強。フフフ……遊んだら楽しそう」


まだ見ぬ幼い竜に思いを()せる死王。


その竜がどのように世界へ争いを起こすのか、どのように暴れるのか……どのように自分と遊ぶのか……考えるだけで楽しくなる。


そしてふとある事に気づくと……再び覇王へ視線を下ろすと、死王は覇王の頬をまた愛しげに触った。


「…そうか。火種もあるけど……それだけじゃない。ハオ君は……僕が寂しくないように……その子を助けたんだね。ハオ君が死んだ後も……僕が遊べる相手を残してくれたんだね。…ありがとう……ハオ君」


死王は覇王の額に、自分の額をつけて感謝の意を告げる。


「そういえば……これで相手の過去や思考を覗き見れる魔法あったっけ。ハオ君の過去………やめとこ。人間の真似なんて嫌だし……ハオ君の頭から、あの女出てきたら最悪だもん。それに死んだ……後でも効果あるか知らないし」


自分で『死んだ』と言いながら、その事実に再び落ち込む死王。


彼は霊魂(れいこん)をこの世に縛り付ける事も、亡骸をゾンビとして傍に置くことも出来る。


しかし……覇王に対しては出来ないし、出来ても意味がない。


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