⑤
死王が覇王の死に悲しんでいる間に、周りの山々や上空から魔族や人間達が集まってくる。
人間達は歓喜の声をあげ姫の元へ駆け寄るが、魔族達は死王と覇王の亡骸を遠くから眺めるだけ。
自分達の頂点に立っていた男が死に、自分達は今後どうすればいいのか?
困惑していた魔族達だが、覇王が死んだ今、彼等が縋るのは一人。
「死王様!覇王様亡き今!我等は死王様に忠誠を誓います!覇王様の盟友たる死王様が意志を継いで下さりませ!」
「そうです!覇王様は決闘後も手出し無用と仰られたが……覇王様が死んだ今!その言葉を律儀に守る義理もない!」
「このまま姫を含め人間達を皆殺しにしてやりましょう!」
武器を構え血気に逸る魔族達に人間達も武器を構える。
「ふざけるな!勝ったのは姫様だ!この世界を統べるは姫様のみ!」
「薄汚い魔族共め!返り討ちにしてくれる!」
人間達も魔族達も殺気を滾らせ睨み合い…今にも襲い掛かる勢いだ。
そんな中…ある者が動く。
死王は覇王の亡骸を抱きかかえたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「ハオ君…行こう」
その目には覇王しか映らず『死王様!』と呼ぶ魔族の声すら聞こえない。
いや、聞こうとしていない。
本気でこの場から覇王の亡骸を抱えて去る気だとわかる。
だがそれを、誰よりも黙って見送れない者がいた。
「…返せ」
それは姫だった。
ボロボロの体をなんとか奮い立たせると、怒りのまま魔族達…死王を睨みつけて怒鳴る。
「優貴を返せっ!返せよっ!優貴は私の……っ、返せ魔族!」
「…返せ?何言ってんの?ハオ君を殺したくせに」
「お前ら魔族のせいだ!お前らが!お前らが優貴を誑かしたんだ!お前らのせいで!優貴は死ななきゃいけなかったんだ!」
泣きながら叫ぶ姫だが、その言葉に死王も黙っていられず怒鳴り返す。
「っ!ハオ君をそんな風に呼ぶなっ!ハオ君は覇王だ!人間の仲間じゃない!僕の……僕の友達だっ!!」
覇王の亡骸を強く抱きしめ、泣きそうな顔で叫ぶ死王。
その言葉に怯んだ姫に、死王は悲痛な顔のまま自分の思いをぶちまける。
「お前達っ!想造世界の人間はなんなんだよっ!勝手に僕を作ったクセにっ!勝手に僕の友達まで奪って!返せ?お前こそハオ君を返せよっ!」
ハァハァと息切れする程に怒鳴る死王だが、息が整うと再び覇王へと視線を戻す。
「ハオ君は……渡さない。僕の友達だ。誰にも渡さない。……想造世界の女になんか絶対……渡さない」
吐き捨てるように呟くと、死王はそのまま覇王の亡骸を抱えて飛び立った。
死王が去った後、この平原では人間達と魔族達が殺気を抑え切れずに争ったが、当時の女王が仲介に現れ、両者共に小数の被害が出ただけで、この場は治まった。
平原を去った死王は覇王の城に戻り、目障りでうるさい覇王の部下達を皆殺しにした。
そしてよく二人で酒を飲んでいた部屋に行くと、覇王の亡骸を抱えたまま椅子に腰掛ける。
「ハオ君……酷い。僕を置いていくのは………わかってたよ。……わかってたけど……こんなに早く逝くなんて……酷いよ」
覇王の顔を撫でながら呟く死王の目に、転がった酒瓶が映る。
もう二人で酒を飲む事が出来ない。
もう二度と……あんなに楽しい時間は戻ってこない
ただそれだけの事が……とても悲しく……耐え難く……死王は涙を流しながら覇王の亡骸へと語りかける。
「ハオ君と一緒じゃなきゃ……お酒……美味しくないよ。……何やっても……楽しくないよ」
ポロポロと流れる死王の涙は覇王の頬を濡らしていく。
まるで覇王も泣いているかのように。
死王の脳裏には、覇王と過ごした日々が走馬灯のように駆け巡る。
そして、かつて覇王がこの部屋で告げた……ある言葉が脳内に響いた。
『一匹だけ逃がした。竜王族の子供をな』
死王はハッ!となり覇王の亡骸を見つめる。
「竜王族の……生き残り。……この世界を憎む……世界を混乱させる……火種」
死王は覇王の亡骸を凝視して呟く。
だが次の瞬間…死王は笑顔を浮かべた。
「…凄い……凄いよ、ハオ君。こうなる事まで予想してたの?」
死王は楽しげに、そして嬉しそうに覇王の亡骸を抱きしめた。
「ハハッ!そうだよ!まだ終わってない!ハオ君がちゃんと残してくれたもんね!この世界を憎む存在をさ!アハハハッ!」
何も答えない覇王の亡骸に語り続ける死王。
その姿は無邪気な子供を連想させつつ、何処か狂気じみている。
「彼……彼女かな?どっちでもいいけど……きっとその子は動く。ハオ君みたいに……世界を滅ぼそうとする。ハオ君がそうなるように仕向けたもん。きっとそうなるよね。竜族の寿命は1000年……それに竜王族は……この世界最強。フフフ……遊んだら楽しそう」
まだ見ぬ幼い竜に思いを馳せる死王。
その竜がどのように世界へ争いを起こすのか、どのように暴れるのか……どのように自分と遊ぶのか……考えるだけで楽しくなる。
そしてふとある事に気づくと……再び覇王へ視線を下ろすと、死王は覇王の頬をまた愛しげに触った。
「…そうか。火種もあるけど……それだけじゃない。ハオ君は……僕が寂しくないように……その子を助けたんだね。ハオ君が死んだ後も……僕が遊べる相手を残してくれたんだね。…ありがとう……ハオ君」
死王は覇王の額に、自分の額をつけて感謝の意を告げる。
「そういえば……これで相手の過去や思考を覗き見れる魔法あったっけ。ハオ君の過去………やめとこ。人間の真似なんて嫌だし……ハオ君の頭から、あの女出てきたら最悪だもん。それに死んだ……後でも効果あるか知らないし」
自分で『死んだ』と言いながら、その事実に再び落ち込む死王。
彼は霊魂をこの世に縛り付ける事も、亡骸をゾンビとして傍に置くことも出来る。
しかし……覇王に対しては出来ないし、出来ても意味がない。




