③
それは死王にとって、とても面白くない。
本音を言えば、今直ぐ王都に行って姫を嬲り殺しにしたい死王。
しかし本当にソレをしてしまえば…きっと覇王は死王を許さない。
覇王の命が尽きるその時まで…彼は死王を嫌い、恨み、拒み続けるだろう。
とても面白くないが、覇王に拒絶されるのはもっと面白くない…それだけは嫌だった。
長い長い時間の中で、初めて出来た友達。
あんな女の為にせっかく出来た友を失いたくない。
仕方ないと思いつつも、死王は渋々と覇王の提案を受け入れた。
「…わかったよ。ハオ君がそうしたいなら…あの女はハオ君に任せるね。でも…絶対に殺してよ?あの女に情けをかけたり、手加減しちゃダメだよ?そうしたら、さすがの僕もブチ切れて…ハオ君を殺しちゃうから」
「…ふっ。あぁ、わかったよ。約束してやる」
覇王は死王の言葉に笑みを浮かべ、グラスを持ち上げた。
死王も覇王と同じようにグラスを上げ、二人は同時に酒を飲む。
グラスの酒を飲み干すと、覇王は酒を注ぎ直すが、死王は面倒になったらしく直接瓶に口をつけて飲み始めた。
「…お前な…子供がジュース飲んでるんじゃないんだぞ。酒飲んでる時くらいは、姿変えるか前のに戻すかしたらどうだ?」
「…んく……プハッ。ハオ君に言われたくないな。想造世界じゃ『20年は生きないとお酒飲んじゃダメ』って昔聞いたよ。いいの?」
「いいんだよ。どうせ向こうでも、学校や親に隠れて酒飲んでる奴は腐るほどいたし」
「僕だって、こう見えて1000年と……300…500…?……とりあえず!いっぱい生きてるからいいんですー」
「俺だってもうこの世界に来たからいいんですー。覇王様だからお酒飲んでいいんですー」
子供のように答える死王に合わせて、覇王もまた子供のように口を尖らせた。
しばしそのまま見つめ合う二人だったが…それは長く続かずに二人同時に吹き出す。
「…プッ!」
「フッ…フフ…ハハッ」
「アハッ!アハハハハハッ!ハオ君似合わなーい!」
「お、お前だって!年寄りのクセに若作りしすぎだろ!」
何故かツボに入り二人揃って声を上げて笑う。
とてもくだらない内容なのに、とても楽しく感じるのは…それは相手が大切な友だから。
友達と一緒なら…どんなに小さなことでも…楽しく感じるから。
「そういえば…お前も名前捨てたって言ってたな」
「うん。なになに?名前無いと呼びづらい?ハオ君が名前付けてくれるの?」
「そうだな………ん~…俺とお揃いで『シオ』」
「なにそれ!却下っ!ハオ君とお揃いは嬉しいけど『シオ』は無い!シオってお塩みたいじやん!」
「じゃあ『ソルト』」
「結局塩じゃん!やだよ!死王でソルトとかもうギャグじゃんか!」
「覚えやすいだろ。名乗る時はカッコつければいい。『我が名はソルト。死王なり』……プッ!ハハハッ!ただのダジャレだな!カッコつけたら余計にバカっぽい!アハハハハッ!」
「んもうっ!ハオ君のおバカっ!いじわるー!」
本当に話の内容はくだらないものばかり。
それでも二人は、言葉を交わし、笑みを交わし、酒を交わしていく。
それからも二人だけの酒宴は続いた。
だがいつの間にか、朝日が窓から差し込んでいる。
「…あれ?もう朝?よし、飲み直そっか」
「アホ。お前と違って俺は酔ってるし、眠いんだよ。お前、これだけ飲んで本当に酔ってないのか?」
「ほろ酔いはしてるよ~。ハオ君と飲むお酒は美味しいもん」
「ほろ酔い…ねぇ」
覇王はテーブルに所狭しと積まれ、そしてテーブルの下にも転がる酒瓶を見る。
これだけの量のほとんどを死王が飲み干したのだ。
「あ~、ハオ君疑ってるでしよ?ダメだよ。友達を疑うなんて」
「むしろ疑わずにいられないだろ、この状況。さて、俺はそろそろ本気で寝る」
「仕方ないな。じゃあ僕も今日は帰るよ。でも次来た時は…遊んでね!」
「まぁ…考えとく」
本音を言えば嫌だし、いっそ無視してやろうかと思ったが…その方が面倒だと知る覇王は仕方なくそう答える。
覇王の言葉に満足した死王は、余程嬉しかったのかスキップしながら部屋を出て行った。
「…魔王とか死王より……台風みたいだな、あいつ」
フッ…と笑いながら覇王も寝室へと向かう。
一人になると…頭の中を過ぎるのはいつも彼女の姿。
「……未練…か。確かにそうさ。…まだ…俺はあいつを…」
自分で言いかけた言葉に、覇王は首を振った。
「今更だ。俺と彼女の生きる意味も…道も…もう正反対なんだから。それでも…彼女を殺してでも…俺はこんな世界…壊してやりたいんだよ」
誰に語るでもなく呟く言葉。
誰に向けた訳でも無い言葉。
それは自分に向けた言葉。
「だから…その時が来たら本気で…全力で戦う。姫や女王がいたら…この世界はいつまでも変わらない。俺が…最後になる。俺が終わらせるんだ。俺もこの世界を作った…想造世界の人間だから」
強い決意を胸に覇王は眠りについた。
起きたらまた死王が遊びに来ていて、仕方なくそれに付き合った。
次の日はある魔王が傘下にしてくれと、部下を引き連れ訪ねて来た。
また別の日には、魔族達が目障りな人間の国を滅ぼしてほしいと頼みに来た。
それが終わるとまた死王が『今日こそ全力で遊ぼう!』と乗り込んできた。
覇王はそれなりに忙しくも、充実した毎日を過ごした。
姫と戦うその日まで。
覇王が竜王族を滅ぼした年から三年後。
この世界の命運をかけた姫と覇王の戦いが行われた。




