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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
『覇王と死王』
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自分の言葉に(ひど)く落ち込んでしまった死王(しおう)を見て、覇王(はおう)も苦笑いを浮かべた。


死王は(うつむ)いたまま、嫌悪感(けんおかん)丸出しの声で言葉を(つむ)ぐ。


「僕ね…人間って大っ嫌い。馬鹿で弱いくせに…数だけ多くて、直ぐに心とか愛とか語ってさ。特に想造世界の人間は大大大っっっ嫌い!何が世界の王様だよ。世界を滅ぼせる力持ってるクセに…人間なんか守る為に使ったり…勝手に不死身の存在を作り出したり………」


最後の言葉で、ある人間の姿を思い出した死王は、膝の上でギュッと拳を握りしめた。


「僕を創り出したあの女も嫌い。今の女王…ううん、今までもこれからも、想造世界から来る人間は皆嫌い。でも…ハオ君は違う」


死王は顔を上げると、覇王に満面の笑顔を見せた。


「ハオ君は馬鹿じゃないし、その力を正しく使おうとしてるからね。だから僕、ハオ君のことだけは好きだよ。この世界の何より……ハオ君、愛してる」


「やめろ。気色悪い。そもそもお前、さっき『すぐに愛とか語る人間は嫌い』とか言ってただろ」


「うん。でも僕は人間じゃないから言っていいの。でもでもハオ君は人間だし、人間にとって好意を伝える最上級の言葉が『愛してる』なんでしょ。だから僕は、ハオ君を愛してるの」


満面の笑み、そして真っ直ぐな目を向けて自分に言い放つ死王に覇王は、その純粋な目から逃れるように視線を泳がせる。


「…好意は嬉しいが…あまりその言葉を使わないでくれると助かる。俺だってお前を…その…嫌いじゃないが…そっちの趣味は無いんでね」


「そっち?そっちって何?ハオ君何を想像したの?や~らし~」


「決めた。お前と絶交する。たった今、俺はお前の事大っ嫌いになった」


「アハハッ!ハオ君たら、ひっど~い!」


キャッキャと子供のように楽しげに笑う死王。


覇王はブスッとした顔で酒を飲むが、今の言葉が本気でないことくらい、死王にもわかっている。


もし仮に覇王が本気で死王を『嫌い』になっても、死王には関係ない。


それくらい死王は覇王を気に入っているし、本気で好きなのだから。


この世界で唯一、好ましいと、愛しいと思える存在なのだから。


だからこそ…覇王と同じ存在であり、どんな理由であれ、覇王の心を占める…一人の女が許せない。


「ねぇ、ハオ君。魔族も竜族もハオ君の味方になった。面倒になるかもしれない竜王族は一匹の子供以外滅ぼした。僕達の計画に邪魔な存在はあと…あの女だけだね」


「…それはどっちの事だ?」


「勿論、年寄りじゃなくて若い方。年寄りはあと数年で力を失うもん。でも若い方は、これから力をつけちゃう。厄介(やっかい)なのはそっち」


「…そうだな」


死王の言葉に覇王も頷く。


あの女とは、自分達の計画……世界を滅ぼすという計画に、一番邪魔な存在。


恐るべき力を持つ、この覇王と同じ力を持った存在。


この世界を…そのうち治める存在。


次代の女王であり、現在は姫として王都に滞在している少女。


そして覇王とも顔馴染み…いや、それ以上の存在。


「でしょ。だから早いうちに殺さないと。ハオ君は今までいっぱい働いたからさ、あの女は僕に」


「ダメだ」


『任せて』と、続くはずだった死王の言葉を遮り覇王は告げる。


それは死王にも予測できていたが、実際されると多少の苛立ちを感じた。


「どうしてさ?」


「あいつは…俺が殺す」


「はぁ?どうせ殺すんなら誰がやっても同じじゃん。だったら僕にやらせてよ。生まれてきた事…この世界に来た事を後悔するくらい、徹底的に苦しめて殺してあげる」


「ダメだ。いくらお前でも…許さない」


二人の間にあった、今までの和やかで楽しげな雰囲気は(すで)に無い。


お互い鋭い眼光で相手を睨みつけている。


「ハオ君…まだあの女に未練あるの?」


「…未練じゃない」


「未練だよ。他の男に殺させたくない。自分の手でトドメを刺したい。そんなの、惚れた弱みにしか聞こえないよ」


「…お前…そんなに俺と殺し合いがしたいのか?」


覇王は椅子から立ち上がると、右手に魔力を集め、禍々しい光を放つ弾を作り出す。


覇王の強い魔力の余波なのか、椅子やテーブルはガタガタと揺れ、覇王や死王の髪も暴風に(あお)られたようになびいている。


死王は覇王から向けられるビリビリとした殺気を受けながらも、眉一つ動かさない。


ただ酒の入ったグラスを眺めていた。


「したいよ。ハオ君とはいつだって本気で遊びたい。でもさ……あの女が原因の遊びなんて嫌だ。そんなの全然楽しくない」


「………そうか」


死王の言葉に、覇王は魔力の弾を消すと再び椅子に腰掛ける。


覇王は本気で死王を殺してやろうかと、思っていた。


殺せないのはわかっているが、魔王や竜族でも即死の超級攻撃魔法を食らわせてやろうと。


それでも…やはり彼は…死王は自分にとって、この世界唯一の友人だ。


死王が何故姫に…彼女に執着しているのかも、わかっている。


「ハオ君…どうしても自分で殺したいの?」


「あぁ。誰の邪魔も無く…あいつとはサシでやりたい」


「じゃあ、さっさと殺しに行けば?」


「今じゃ意味が無いんだよ。今なら絶対に俺が勝てる。そんな勝負じゃ意味が無い」


覇王も自分のグラス…正確には中に入った酒を眺める。


一瞬水面に彼女の姿が見えた。


まるで自分の心を映したかのように。


フッと口元だけで笑うと、覇王はそれを飲み干して死王に告げる。


「俺と姫の戦いは意味のあるものじゃなきゃいけない。俺か?あいつか?生き残った方にこそ、この世界を統べる権利が生まれる。世界の命運をかけた戦い。ソレがあるからこそ、戦いの後で世界は勝者につく。自然とな」


「…回りくどいやり方」


「そう言うな。人間は何に対しても意味を求める生き物だ。この世界に来てわかったが、それは人間だけじゃない。心のある、感情のある生き物は大抵そうさ。自分を肯定する意味を求めてる」


大層な理屈をこねる覇王だが、死王はソレがただの屁理屈だと見破っている。


本音もあるだろうが…どうあっても、覇王は姫を、自分の手で殺したいのだ。


それこそ覇王が語ったように、正当な理由をこぎつけてでも。

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