ねちっこい王子
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「ヴェル君!重篤な患者様には雑菌の感染を防ぎたいので防御障壁と防腐魔法と時間停止を使って下さい!」
ヴェル君は私の指示通りに魔法をかけています。そしてあちらこちらから呼ばれて、施術に動き回ってくれています。正直助かりますね!私は側に立たれていたヴェル君の伯母様に叫びました。
「伯母様!清潔な包帯などはありますか?無ければ綺麗な布で、治療ドームから出てきたデリト君の左腕を包んであげて下さいませ。欠損部位の再生は時間がかかります、剥き身状態の皮膚に雑菌が入っては再生が阻害されますから!」
「わ、分かりましたわ!」
伯母様直ぐに走り出されました。そして、残ったオランジェル伯父様がオロオロしながら私に聞いてこられました。
「カデリーナ、私は…」
「他に使用人の方はいないのですか?」
オランジェル伯父様は悔しそうに俯かれました。
「皆…私が行き場を無くした怪我人を住まわせ始めたら、逃げ出した。今は私達夫婦と怪我人だけだ…」
な、なんですってぇ!?使用人と言えば、ラブランカ王女の手先の使用人達ですねっ!全くっ使えないし頭にきますねっ!こんな状態の皆様を置いて逃げ出すなんてっ!
「分かりました。当面、私達だけでなんとかしましょう!大丈夫ですよ伯父様。私、料理全般出来ますし、ここに居る皆様に精のつく食事を作って差し上げられますから!ですがまずは治療ですね!」
私は意識の無い男の子の横に座った。頭がぐちゃぐちゃだわ…こんな状態で生きてるなんて、奇跡だわ。神様って絶対いますよね…
「よく頑張りましたね、もう大丈夫ですよ。治療を始めます!」
私は治療ドームを展開しました。この子の顔や身体が元に戻って元気になります様に…身体が瞬く間に再生していきます。よしよし、綺麗な銀髪のカワイイ男の子ね。
やがて銀髪の男の子は目を開けました。
「身体は障りないですか?問題なく動きますか?」
銀髪の男の子は中々の美形です。暫く体を触ってましたが、コクンと頷きました。私は彼に回復魔法をかけてあげました。
「暫くお腹は空きますが、ちょっと我慢して下さいね。まず重篤な方を治療させて下さいね」
彼は頷いて直ぐに立ち上がると、デリト君の所へ駆けて行った。良かった…問題なく走れていますね。その彼の姿を見ていた、怪我人の方々は口々に叫び始めました。
「助かる…助かるんだっ!俺達はまだ見捨てられてはいない…ああ…」
皆様口々にコーデリナ神に祈りを捧げています。私は神様に祈っている時間はありませんので、治療を続けます。
すると玄関先にギリデ様達の魔力を感じました。
「どなたか…私達の仲間が来たようですわ!」
銀髪の男の子が玄関先に走って行ってくれました。あの子は良く動いてくれますね、助かります!
「カデリーナ!ここ大変じゃない!?私達で手は足りる?どうかしら…」
すぐさま広間に飛び込んで来て、治療を始めたリア姉様に私はチラリと目を向けてから思案しました。
そうですね…正直私と姉様二人では手が足りません。シュテイントハラルのお力を借りられないでしょうか?そうです、国を通して正式に入れないなら、コッソリお手伝いして頂く訳にいかないでしょうか?
そうと決まれば…
「ヴェル君かナッシュルアン皇子殿下かどちらかっ!この屋敷全体に頑丈な障壁を張って頂けませんか?」
私が広間に入って来たギリデ様達にそう声を掛けた途端、広間に居た怪我人の方々にざわめきが起こりました。しまった…皇子殿下と叫んでしまいました。
「私が張ろう」
そう言ってナッシュルアン皇子殿下は、一瞬でオランジェル伯父様邸に三重魔物理防御障壁を張って下さいました。やっぱりナッシュルアン皇子殿下は凄い!流石トリプルスター様!
ナッシュルアン皇子殿下はざわめく人々に微笑みを向けながら、広間の少し高台になっている所へ立たれました。普段、夜会などを開催された時は、楽団などが設置される場所だと思われます。
自然と広間の方々がナッシュルアン皇子殿下を注視します。やっぱり皇子殿下ですよね〜王気みたいな空気を感じます。ナッシュルアン皇子殿下は静かに話しを始められました。
「皆、苦境の中…良く耐えてくれている。助けの手が回らず悔しい思いも、悲しい思いも沢山してきたことだろう。今、私達が出来ることは数少ない。全ての安寧を約束出来ないのが現状だ。だが、忘れないで欲しい。ここに居るガンドレアの市民は決して忘れられている訳では無いことを…世界の民が、ガンドレア帝国民の安否を気遣っている事を。今ここにナッシュルアン=ゾーデ=ナジャガルが宣言しよう。ナジャガル皇国はガンドレア帝国民の味方であることを。国や王族の味方では無い。国民の味方で有り続けるとここに誓おう。私の手は今はまだ力足らずだ…だからこそ手を貸して欲しい。ここを拠点にガンドレア帝国を一から再建して行こう。その為には皆の力が必要だ、共に頑張ろう!」
物凄い歓声です。地鳴りの様な震動すら感じます。
ガンドレアの皆様の心からの切なる声が魔力波形に乗って広間が震えるほどです。
「まだ重篤な状態の方はいらっしゃるか?」
ナッシュルアン皇子殿下は私に近付いて来られました。私はオランジェル伯父様とナッシュルアン皇子殿下、お二人を交互に見ながら
「ここを拠点に活動をされるなら、ご提案があります。私の祖国シュテイントハラルの助力を得られないかと考えております。私と姉様だけでは治療が間に合わないのです、早くしないと…」
と、伝えました。オランジェル伯父様は何度も大きく頷かれています。
「私は勿論構いません。逆に此方からお願いしたいくらいです」
ナッシュルアン皇子殿下も深く頷かれました。
「治療術士はここを離れられんな…分かった、姫達は治療に専念してくれ。私は先日訪問したばかりだし、王族の方々に面識がある。余り事を荒立てないように…治療術士を連れて来るように要請してみよう」
すると、防腐と時間停止魔法の施術をされていた、ダヴルッティ様がヴェル君と一緒にこちらにいらっしゃいました。
「殿下、シュテイントハラルに参られるのでしたら、私達もお供致します。お一人は危のう御座います」
ダヴルッティ様がマトモな意見を述べられていますわっ!?…失礼しました。
「お、お待ち下さいませ!えっとヴェル君、私のポッケの中から『タクハイハコ試作品』を出して下さい。あ、3種類ありますので…え〜と、シュテイントハラルって貼り紙を貼ってある…ああ、それです」
私は意識が戻った妊婦さんに治療ドームをかけてから
「お腹の子は無事ですよ〜」
と、話しかけた後に、ヴェル君の出してくれたタクハイハコ試作品の前に行きました。周りに元怪我人のガンドレア市民やら、皆がワチャワチャ集まって来ます。つい、声が大きくなりますね。
「これ、ユタカンテ商会の試作品なのですが、このハコをお互いに所持していて、共に送り先を魔術指定していればハコの中に入るモノなら何でも送り合いが出来るのです」
「ええ!?すごい魔道具じゃない!やるわねカデリーナ!」
リオ姉様がすごく褒めてくれます。ナッシュルアン皇子殿下がハコを見詰めていらっしゃいます。
私はシュテイントハラルのお父様、国王陛下に急ぎの手紙を書きました。メモ紙の走り書きになっていますが、今は緊急事態ですしね。私は書いたメモ紙をハコに入れると蓋を閉めて、上蓋に設置している魔石に手を触れました。
「これで中の手紙はお父様に、シュテイントハラル国王陛下のお手元に届きます。ただ…国王陛下ですし、お忙しいと思いますので、すぐ見て頂けるかは…」
と、言いかけた時にピカッと上蓋の魔石が光りました。
ん?ええ!?もう返事が来たのぉ!?
私は急いでタクハイハコを開けました。そこには私が送ったのと似たようなメモ紙が入っています。メモを読みました。
「レミィ兄様だわ!救助要請が来るのを予想して術士と待機していた…ああ!流石兄様!何処に行けばいい…て…転移で来られるのですか!?どうしましょう…」
「シュテイントハラルの冒険者ギルド前でお待ちしていますと伝えてくれ、3人で転移すれば行ける」
ヴェル君の言葉に私は頷いて、レミィ兄様にお返事を書いてまたタクハイハコに入れました。するとすぐ返事が来て「了解」と書いてありました。
「姫ちゃん~これ便利だね!ユタカンテで発売するの?」
ヴェル君、ダヴルッティ様、ナッシュルアン皇子殿下の3人が転移でいなくなった後、再び治療をしている私の所にギリデ様がいらしてそう、聞かれました。
「はい、来年の一の季には発売出来ればな~という感じです。実は個人宅に置くのではなく、公所などに設置して頂いて『オニモツ』つまり手紙と同じく所在宛で送り合い出来ないかな~とか考えております」
「す、すごいねぇ!姫ちゃんはこじんまりしているけど、天才だね!」
ギリデ様もこじんまりは余計です…あ、それはそうと…
「あの、冒険者ギルドはどうでしたか?」
ギリデ様はダンディなお顔を曇らせました。どうやら聞かなくても…な感じでしょうか?
「建物内は無人だったよ。ギルド内も荒らされててね、魔物とかじゃないよ?ん…人間に、ね。イヤだね…環境が荒むとさ~人が人を蹂躙するんだよね。とりあえず、ガンドレア支部長の姿も無いし、ギルド内に不審な血痕も無かったから。でもマジーに魔物討伐に出たままだとなると、安否が気になるね」
ここが落ち着きましたら、支部長様の捜索に一刻も早く出た方がよさそうですね。
さてその後…黙々と重症者の方を治療しております。姉様の助手には銀髪の男の子。私の横には伯母様とデリト君です。
ギリデ様とギル様は外の巡回に出ていらっしゃいます。伯父様には『タクハイハコ』をユタカンテ商会と繋いだものに入用の商品を注文しようと今、必要備品のリストアップを頼んでおります。食べ物や洋服、寝具など…色々ありますよね。
「デリト君はまだ左腕は使ってはダメですよ?怪我の縫合と肉体の再生は同じ治療魔術系列ではありますが、似て非なる術式ですから」
デリト君は伯母様に作って頂いた包帯と三角巾を腕にとおしています。聞けば伯母様は時々医院の助手をされていたとか…貴族の女性でしょう?と思ったら…な、なんと元ナジャガルの神殿の巫女をされていたとかでした。一応、神殿内で医療行為も行われていたとかで、簡単な医療補助と魔術治療は出来るとか…素晴らしい。
「カデリーナ様のお使いの再生術は通常の治療術と構成術が少し、違いますものね」
はい、何故この伯爵家で怪我人を収容されていたかというと、元巫女の伯母様のご尽力のお蔭だということが、分かってまいりました。医院や術院が次々閉まっていくのを見て、これでは住民が困るはずだ!と伯父様にご相談された…という訳だったそうです。
「私、若い頃に巫女はしていましたが、それほど治療術が使える訳ではなかったので、怪我人の方を屋敷にお連れしても…手の施しようが無くて、本当にカデリーナ様に来て頂けて助かりました…うぅ…」
いえいえ、お気持ちだけでも立派でございますよっ!
「お待たせしました!」
ブワワッと懐かしい魔力の気配が広間に満ちてきました。
ヴェル君達と一緒にレミオリーダお兄様、アルクリーダお兄様、そしてシュテイントハラルの女官長のマルマリーテさんとメイド長のシモンヌだわ。懐かしいっ。それにっ!
「レモネア伯母様っ!違った…レモネア院長様!」
レモネア=カレシーネ伯母様。シュテイントハラル治療術院の院長様です!私の父方の姉、伯母様です。ああ、後ろでニコニコしている従兄弟のクリシアネの姿も見えます。2人共、優秀な治療術院のツートップです。
「まあまあ!カデリーナもフォリアリーナもご苦労だったわね!後はクリシアネと連れて来ている術士とでやっておくからあなた達は休んでなさいな!」
伯母様がふくよかなボディに私をギュウと包んでから、ポンポンと頭を撫でられました。それから術士皆様(6人)に声をかけて治療を始められました。むむ…良く見ると治療をしながらカルテ?を作成されているようです。流石プロ…ですね。
「カデリーナ姫様っ!お元気でしたか?」
マルマリーテ女官長とシモンヌが私に走り寄ってきました。後ろに4人若いメイドの女の子がいます。あ、1人は知っていますね!え~と…
「エレンデラ!」
「はい!姫様!今日はこき使って下さいませ」
お兄様達について来ていた護衛の6人プラス侍従?な方かな…は素早く動き出すと、廊下に飛び出しました。
「この周りの巡回と魔物退治は任せてくれ」
レミオリーダ兄様は開口一番、そうおっしゃいました。
あわあわしながら慌てて走ってこられたオランジェル伯父様と伯母様は、カチカチになりながらシュテイントハラル王太子殿下と第二王子殿下…どちらも私の愚兄ですが、に挨拶をされていました。先程かる~く挨拶して伯父様達を戦かせていた某元王子と某皇子殿下とは王子圧が違うのでしょうか?そんなに緊張するような愚兄ではないですよーただのキラキラ一族ですからー
「そうだわ、グズグズしていられませんわ…すぐにお食事の準備をしないと!」
私はメイドの子達とポッケから出して来た食材で、野菜スープを作りました…100人前以上なんて初めてです。そして必死でロールパンを捏ねて生地を焼き…なんとかその日のうちに一食分はお配り出来ました。
私達ギルドチーム(勝手に命名)とシュテイントハラルチームは、少し遅い夕食を頂いております。治療も疲れましたがロールパンを捏ねるのがこれほど疲れるとは!
「こんな人数のお食事作るの初めてです~はぁ~お城の料理長ってすごいですね~」
「料理長というより、城の大食堂担当料理番の方々のほうが大変よ~お昼に3000食らしいわよ?王子様達のなんてパパっと出せるもの~」
パパッと出されている物を食べさせられているらしい、レミオリーダ兄様とアルクリーダ兄様は何とも言えない酸っぱい顔をしています。言葉を選んで下さいませ…レモネア伯母様。
ナッシュルアン皇子殿下とダヴルッティ様、ギル様、ヴェル君とギリデ様のギルドメンバーはおつまみに~と揚げたモルチップを食べながら打合せをされています。私は手持ちの食材をレシピと照らし合わせて、何を作ろうか考えていました。100人分作るとは思わなかったですしね…早く追加の食材を頼まなくては、ですね。
「そう言えば、先程討伐しましたコンコレド…焼いたら美味しいですよね」
デリト君の発言に私はカッと目を見開きました。なんだとっ!?
すると私の横でお茶を飲んでいたリア姉様が
「なんだっけ…え~とホラ…カデリーナがよく作ってくれた揚げたの…アレにしたら美味しいかもね」
とおっしゃいました。から揚げですかっ!おおっ確かにコンコレドの肉は大量にありますからね。
「よしっ、じゃあコンコレド揚げを明日に作るとして…私は明日用のパンの生地作ってきますね」
よいしょ…と立ち上がると、メイド長のシモンヌとメイドのエレンデラも立ち上がった。
「姫様、お手伝いしますよ。今日はガンドレアまで歩いてお疲れでしょう?」
シモンヌの言葉にギクンとしました。いえ、全然歩いていませんことよ…ヴェル君の背中でヌクヌクでございましたよ。
すると、リア姉様がそれはそれは腹黒い微笑みを浮かべて私を見ました。
「あ~この子ね。ずーっとヴェルヘイム様におんぶされてぇ、ずーーーっと楽々移動だったのよ?おまけにこっちは魔獣と戦闘してるってのに…背中でグーグー寝ちゃっててぇ~」
げげっ!?リア姉様ぁぁ!た、確かに…ヌクヌクで寝落ちしていましたが~今ここで言う?ひょえっ!?レミィ兄様が鋭い目で睨んで来ますよ!?
「カデ…お前、皆様が戦っているのになんたることだっ!よいか?人の上に立つという事は……普段から……だから……と心がけて……しているのだぞ…おいっ聞いているのか?」
「…はぁい…」
もぅぅ…レミィ兄様ねちっこく怒るタイプなのよぅ…パン生地作りがありますから~と逃げて来たのに…キッチンまで付いて来るねちっこさなのよっ!恨むわっリア姉様っ!ご自分はダヴルッティ様とお酒飲んでるみたいだしっ~くうぅぅ…
「カデ…それでな…」
「はぁい…なんでしょ…」
作業テーブルでバーンと音を立てながら生地を捏ねている私の横に立っていた小言魔王は、少し溜め息をついてから話し出しました。
「実は…先程な、シュテイントハラルにナッシュルアン皇子殿下達がお迎えに来て頂いた時に父上達もギルド前に見送りにきておってな…その…ヴェルヘイム殿に会ったのだよ」
なななっ!?なんでそれをパン生地捏ねている時に言うのですかっ!
しかもこんな時間まで黙っているのですかぁ!?
しかも妙に言い淀んでいて…何かあったのですかーー!?
たくさんのお気に入り登録ありがとうございます^^




