27 戦の直前
次の日は、幸か不幸か土曜の休日で、幸村は危険と考え外には出ず、部屋で一人自主勉をしながら、家康が言っていた、甲斐谷かSASUKEからの呼び出しを待った。
「甲斐谷先生……」
思えば、この机で甲斐谷と勉強をしたのだ。追試になった自分に優しく問題の解説をしてくれた。それも演技だったと考えると、胸が痛む。
それだけではない。二人がかけてくれた温かい言葉の数々。それも、全部……。
シャーペンを持つ手が中々動かず、勉強に集中できない。そんな幸村の耳に、足音が届く。
ふと玄関の方を見た。足音は玄関の向こう側で止まり、郵便受けの穴から一通の手紙が投げ込まれた。
その後、足音は離れていき、幸村は手紙を拾って中に目を通す。
『今日の夜八時、学校の校庭で待っています』
甲斐谷だと直感し、幸村は考えるより先に体が動き、玄関を開けた。
「甲斐谷先生!」
だが、誰もいない。幸村は肩を落として玄関を閉め、手紙を握り締める。それからスマホを手に取り、電話をかけた。
「もしもし、家康さんですか? あの……」
刻々と近づく戦のとき。
『お前は、わしが護る』
甦る信玄の言葉。
今更になって思うのだが、院長先生が信玄でよかった。だとすると、小さい頃から自分を見守ってくれていたということなのだから。中学に上がるときに、養護施設を出ようと決断した自分を何度も止めた理由も、今ならわかる。浄化人としていつかは覚醒する自分を護ろうと、ずっとそばにいようとしてくれたのだ。
……大丈夫。俺には、あの人がついてる。
そう、何度も言い聞かせているのに。
自分の声がわずかに震えているのは、なぜだろうか。




