26 信玄との記憶
連絡先を交換した後、幸村は家康と別れ、信玄と一緒に道を歩いていた。
「信玄さん、あの、信玄さんとか他の武将の皆さんには、前世の記憶があるんですか?」
学生寮に向かう最中、信玄に問う。記憶がない幸村にとっては、少々気がかりなことだったのだ。
「ああ。残っておる者もおれば、そうでない者もおるよ」
「じゃあ、なんで俺には残ってないんでしょうか? 俺だって、信玄さんと昔のことを色々と話したいのに……」
一番あってもいいはずの信玄との大切な記憶さえ、忘却している。そんな自分を、幸村を責めたくなった。信玄に失望されるのが、怖くて。
「それは、お前が浄化人だからかもしれんのう」
信玄は言いづらそうな様子だったが、答えてくれた。
「浄化人は特別な存在じゃ。だから、他の武将にはない苦労をした。たくさんした。それこそ、死にたいと思いたくなるほどにな」
「そんなに、大変なんですか?」
言われてみれば、スーパーの邪炎を浄化したときの痛みが計り知れなかったのを、体はまだ覚えている。
「そうじゃ。だから、わしはむしろ、お前が記憶をなくしてよかったと思うておる。思い出せなんて、そんな酷なことは言わんよ」
それを聞いて、幸村は安心した。記憶がないのを責めるどころか、思い出せと急き立てることもしない信玄に、心から感謝する。
「あ……」
見えてきた学生寮の門前で、学生寮仲間が何やら集まって話をしていた。その中で、ミズナとゴウが幸村の姿を認めて、歓喜の声を上げる。
「聖君!」
「聖!」
ミズナに飛びつかれて、幸村は「わっ!」と頬を少し染めた。
「何してるの? こんなところで……」
疑問を投げかける幸村に、ミズナがちょっとむっとして説明した。
「何してるって、みんなで聖君のことを心配してたのよ! 今朝、管理人さんから、聖君が入院したって聞いたから、みんなで放課後にお見舞いに行ったの。でも、もう退院したって言われて、けど、寮にも戻ってないし、どこで道草食ってるのかと思って、今からみんなで探しに行こうとしてたのよ!」
「そ、そうなんだ。ごめん、心配かけて……」
謝る幸村に、ミズナの詰問が飛ぶ。
「で、一人で何してたのよ?」
「ひ、一人じゃないよ。ほら……」
幸村は信玄を、現世名の山那として皆に紹介しようと振り返るも、信玄の姿は消えていた。
「あ、れ……?」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない……」
きっとどこかで見守ってくれていると思い、幸村はあまり気にしなかった。
それから、雨が降りそうな空を見上げて思う。
……嫌な空だな。
まるで、これからの戦いを予期しているかのように。




