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15.

 白都総合技術研究科敷地内で、もっとも西にある校舎の廊下を一人の少年があるいていた。


 講義時間内であるがために、人通りはほとんどない。

 それでも幾人かがすれ違い、振り返った。確かに彼は、振り返ってみるに値する容姿を持っていた。だが、すれ違った人間がふりかえったのは、それ故ではない。

 初等部の制服を着ている。ここまではいい。そして帯剣している。すなはち、軍属もしくは軍属候補だ。


 ここ白都総合技術研究所といえば、若年軍属の少年少女たちが学ぶ場所として有名だ。だが、実際のところは、すべての人間がその制度のもとにあるというわけではない。むしろ通常の学生の方が多いくらいだ。

 そしてここ――第二図書館を擁する通称西翼は、帯剣している人間をまずみかけない場所の一つであった。


 彼は、とある講義室の前まで来ると立ち止まった。中からはゆったりとした老齢の教師の声が聞こえてくる。彼は、教室の壁に背をあずけ目を閉じた。


 遠く鐘の音が響く。講義が終了したらしい。近くの教室から、放課後の開放感をまとった学生が次々と出てくる。だが、長引いているのか、彼が背をあずけている講義室の扉は閉まったままだ。


 しばし後、老齢の教師が今日はここまでと廊下に出てきた。彼は姿勢を正し、そちらに軽く黙礼する。一拍おいて、他の講義室同様、学生がばらばらと外に出てきた。


 他の講義室に比べると、受けている人数は少な目だった。それでも、うち何人かが異物とも言える軍属候補の少年の姿に目を留める。


 その中の一人が立ち止まった。ぱさぱさとしたかろうじて金髪の域にとどまる髪を一つにまとめ、ごくごく平均的に制服を着崩した少年だ。うっとおしく落ちる前髪のあいだから見える目は、思いの外澄んだ色をしている。


 少年の――いや、少年たちの口の端がゆっくりと形を変える。教室から出てきた少年は、連れたちに軽く断ると、軍属候補の少年へと足を進めた。

 連れの少年少女たちは、顔を見合わせている。だが、彼らなりに放課後の予定もあるのだろう。足早にその場を立ち去った。


 流体力学でよく示されるとおりの動きで、学生たちが移動している。彼らは、その中で流れを邪魔する杭そのものだった。


「――人探しとは、存外難しいものだな」


 先に口を開いたのは、軍属候補の少年だった。


「僕の時は、わりと簡単だった」


「あれから、どうだった」

「三日間寝込んだ」


「ずいぶんと適正がある」

「えええ、マジすか」


 顔をしかめる少年に対し、彼は目を細め穏やかな笑みを向ける。


「それで。軍属候補期待の星が、忙しい中わざわざ何かご用かな」


 警戒心と皮肉を感じさせる言葉に、軍属候補の少年は、首を傾げた。予想外の反応とでもいった表情だった。


「こたえあわせ」


 しばし後に、放り出すように示された答えはそれだった。自らの言葉に納得したかのようにうなずくと、そうだと彼は言葉を続ける。


「そう、こたえあわせをしたくて探した」


 それに、と。口調を力強くして言葉を継ぐ。


「後でするという説明も聞いていない」


「まあ」


 教室から出てきた方の少年は、かりかりと頭をかく。そして、確かにと頷いた。


「もしよければ、今から」

「さて」


 どうしようかな、と。彼はわざとらしく鞄を見下ろした。そして、廊下の向こうを見やり、再度視線を戻す。


 軍属候補の少年は、ほんの少し首を傾げ、ただ彼の言葉を待つ。少年にも関わらず、威風堂々たるといった形容の似合う彼なのに、その姿はどこか頼りない。


 不意に、少年は笑う。そして、歩き出した。一拍遅れ、彼もまたそれについて歩き出す。

 すっかり人通りの少なくなった廊下を、彼らは並んで歩き出した。

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