目覚めと、白銀の朝
「……っ」
かすかな光の眩しさに、進はゆっくりと瞼を持ち上げた。
脳の奥がズキズキと重く痛み、身体を少し動かそうとするだけで、全身の筋肉が鉛のように強張って悲鳴を上げる。
(ここは……?)
視界に飛び込んできたのは、見慣れた鉄殻都市の禍々しい黒鉄の天井ではなかった。
高くそびえ立つ、柔らかな白石の壁。窓からは、不気味なネオンではない、本物の、穏やかな太陽の光が差し込み、白いレースのカーテンを透かして床に柔らかな模様を描いている。
進が横たわっていたのは、信じられないほど柔らかく、清潔な匂いのする大きなベッドの上だった。服は新しいものに着替えさせられており、あの地獄のような1分間で味わった、すべてを汚された恥辱と不快な冷たさはどこにもない。けれど、目を閉じれば今でも、脳を直接灼かれるような高電圧の電撃や、肺がロックされる窒息の恐怖が鮮明に蘇り、進の小さな心臓をドクンと大きく跳ね上がらせた。
「……あ、進! 目が覚めたの!?」
枕元から、聞き慣れた、けれどいつもより少し掠れた声が響いた。
ハッと横を向くと、そこにはパイプ椅子に座り、進の手を両手で握りしめていたニコの姿があった。ニコも進と同じく綺麗な服に着替えさせられており、その顔にはまだ隠しきれない疲労と恐怖の影が残っていたが、進が目を開けたのを見た瞬間、その瞳から大粒の涙がぽろぽろと溢れ出した。
「ニコ……。僕は、どれくらい……」
「3日間だよ……。進、あのあと、まる3日間もずっと眠ったままだったんだよ……っ。全然目を覚まさないから、僕、本当に心配で……!」
ニコは進の胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。
3日間。それだけの時間、進の脳と精神は、あの1分間の仮想ダメージのショックを癒すために、深い眠りを必要としていたのだ。ニコもまた、自分が先に気絶して進にすべての地獄を背負わせてしまったという強い罪悪感に苛まれ、満身創痍の心のまま、進のベッドの横を片時も離れずに祈り続けていたのだった。
「ごめんね、ニコ。……みんなは? ガルードさんたちは……?」
進が掠れた声で尋ねた、まさにその時だった。
ドタバタと廊下を走る騒がしい足音が聞こえ、部屋の白い扉が、勢いよく左右に跳ね開けられた。
「進ーーーッ!!! 起きたのかっ!?」
息を切らせて真っ先に飛び込んできたのは、ガルードだった。大剣を振るう普段の勇ましさはどこへやら、まだ痛々しく包帯を巻いた満身創痍の体で、大粒の汗を流しながら進のベッドへとがむしゃらに駆け寄ってくる。
そのガルードの横を静かに、しかし素早い足取りで通り抜けた巨影があった。
「……進」
ハクだった。彼はいつも通り寡黙だったが、その大きな瞳には今にも溢れそうなほどの涙がたまっていた。ハクはベッドの横に膝をつくと、壊れ物を扱うかのような手つきで、けれど溢れる感情を抑えきれない様子で、進の小さな身体をその大きな両腕でぎゅっと、優しく力強く抱きしめた。
その腕の温もりと、ハクの身体がまだ小刻みに震えているのを感じて、進の胸がじわっと熱くなる。大人たちもまだ、あの戦いの恐怖から完全に立ち直れていない満身創痍の身なのだ。
「おいおいハク、主役をそんなに締め上げるなよ。また3日寝込んじまうだろ?」
ハクの後ろから、軽薄な、けれどどこかホッとしたような声で入ってきたのはキースだった。彼はあえて部屋の暗い雰囲気を吹き飛ばすように、からからと笑いながら進の頭を乱暴に撫で回す。
「いやあ、お前が漏らしながら這いつくばってた時はどうなるかと思ったぜ? 伝説の『小便小僧・進』の誕生だな。おかげで俺たち全員、命拾いしちゃったよ。ありがとな、ヒーロー」
「ちょ、キースさん……! そのことは言わないでって……!」
進は顔を一気に真っ赤にし、恥ずかしさで布団に顔を埋めようとする。そんな進の様子を見て、キースは「元気があってよろしい」と悪戯っぽくウインクした。
「ふん、本当に人騒がせなガキね」
最後に部屋に入ってきたルナが、腕を組んでフッと鼻を鳴らした。その目は明らかに赤く腫れており、この3日間どれほど心配して泣いていたかが一目で分かったが、彼女の口から出たのは相変わらずの辛口だった。
「1分間耐えるだけで3日も寝込むなんて、随分とヤワな身体をしてるのね。おかげでこっちの調子が狂うわ。……まぁ、あんたが起きないと、あの皇帝が消えて白くなった玉座の片付けを誰がやるかって話だし、さっさと動けるようになりなさいよ」
ツンと横を向くルナだったが、その声は微かに震えていた。心配でたまらなかった本心が、辛辣な言葉の裏から隠しきれずに漏れ出している。
進は、顔を赤くしたり苦笑いしたりしながらも、自分を囲む仲間たちの姿を見て、涙が溢れそうになるのを必死に堪えていた。
誰もが心に深い傷を負い、まだ満身創痍の状態だ。それでも、こうしてまた全員で集まり、笑い合えている。
「みんな……、ただいま……っ」
進のその言葉に、部屋にいる全員が、心の底からの優しい笑顔を返すのだった。




