黄金の王冠と、それぞれの休息
進の目覚めから数日後。
鉄殻都市改め、光を取り戻したこの国に、驚天動地の大事実がもたらされた。
あの純白へと変わった玉座。それは、消滅した【皇帝】が力ずくで奪い取る前、この国を正しく穏やかに治めていた「真の王族」だけを受け入れるための、世界の防衛システムだったのだ。そして、その玉座に認められ、国の新たな統御権を与えられたのは――他ならぬニコだった。
ニコは、かつて滅ぼされたはずの正統なる王族の、唯一の血を引く『子孫』だったのだ。
「僕が……、王子……?」
お城の拝謁の間。頭には黄金に輝く王冠とまだ少しサイズの大きな、けれど気品溢れる純白の礼服に身を包んだニコは、自身の小さな手を見つめながら、信じられないといった様子で呟いていた。
かつては恐怖に怯え、進の後ろに隠れて涙を流し、あの地獄のゲームでは尊厳を失うほどの無様な姿を晒した少年。しかし、その身に流れる血の宿命と、仲間たちのために命を賭けたあの1分間の覚悟が、彼を本当の王として覚醒させたのだ。
ニコは、この国に残って『王子』として人々を導き、荒廃した街を本当の意味で再生させる役割を担うこととなった。その顔にはまだ幼さが残るものの、かつての弱虫な影はなく、国を背負う立派な覚悟の光が宿り始めていた。
「大丈夫だよ、ニコ。ニコなら、きっと素敵な王様になれるよ」
その姿を、進は優しく微笑みながら見つめていた。あの夜の記憶は、今でも二人の胸に深く刻まれている。けれど、あの無惨で泥臭い地獄を共に超えたからこそ、二人の間には、世界中の誰にも引き裂けない絶対的な絆が結ばれていた。
「うん……。僕、頑張るよ。進やみんなが命がけで守ってくれたこの命だもん。……それにね、みんながここにいる間は、僕の『初めてのわがまま』を聞いてもらうからね!」
ニコはそう言って、王子らしくない、いつもの無邪気な笑顔を弾けさせた。
王子の「わがまま」――それは、心身ともに極限まで削られ、満身創痍のまま戦い続けてきた進たち一行に、この城で最高の、そして最上の『休息』をとってもらうことだった。
それからの数週間、進たちはこれまでの旅の疲れを癒すように、城の至る所で思い思いの穏やかな時間を過ごした。
キースは、かつての門番戦での重圧を忘れたかのように、城の中庭の特等席で、昼間から最高級の酒を片手に寝転がっていた。
「いやぁ、最高だな。何もしなくていい、誰も襲ってこない。しかも飯は美味いし、奢りときた。小便小僧の進と、王子様のニコサマサマだぜ」
時折、通りかかる進を捕まえては、相変わらず「よっ、未来の副王!」などとからかって笑っているが、その表情からは、長年彼を縛っていた張り詰めた殺気はすっかり消え失せていた。
ガルードは、包帯だらけの満身創痍な身体のまま、城の兵士たちに囲まれていた。
「おいおい、そんな腰の入ってない剣の振り方じゃ、俺の肉体はピクリとも動かせんぞ! ほら、もっとかかってこい!」
まだ傷が癒えきっていないというのに、自分を救ってくれたこの国を警護するため、そして自身の鈍った勘を取り戻すために、嬉々として若手たちの指導にあたっている。その豪快な笑い声は、城中に響き渡るほど元気なものだった。
ルナは、城の広大な図書室に引きこもり、お茶を嗜みながら静かに本を読んでいた。
「……何よ、進。珍しい本がたくさんあるから、少し調べているだけよ」
本当は進の精神的な回復具合が心配で、時折チラチラと様子を伺いにくるのだが、目が合うとフイッとツンな態度でそっぽを向いてしまう。しかし、彼女が淹れてくれるハーブティーには、進の脳の疲れを癒す特別な配合が施されており、その不器用な優しさに進はいつも救われていた。
そしてハクは、いつも城の厨房の裏や、陽の当たるテラスで、進やニコをその大きな身体で静かに包み込んでいた。
言葉は多くない。けれど、進がふとした瞬間にフラッシュバック(恐怖の記憶)で身体を震わせるたび、ハクは何も言わず、大きな手で進の背中を優しく、トントンと宥めるように叩き続けてくれた。ハクの大きく温かい胸の中にいる時だけは、進もすべての恐怖を忘れ、ただの小さな子供に戻って深い眠りにつくことができた。
溢れるほどの美味しい食事。
ふかふかのベッド。
何より、誰も傷つかない、誰も死なない、穏やかで優しい時間。
国が本来の美しい姿へと呼吸を始める中で、進たち一行は、心と身体の傷をゆっくりと、けれど確かに癒していく。それは、命を賭けて地獄を生き残った者たちだけに許された、何よりも愛おしい、奇跡のような休息の日々だった――。




