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愚者の行進  作者: 苔氏
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漆黒の玉座、非力な少年達

開かれた緑の門の向こう。そこに広がっていたのは、世界のすべてを拒絶し、見下ろすかのようにそびえ立つ、天井の見えない漆黒の玉座の間だった。

冷徹な静寂が支配するその空間の奥。豪華絢爛な、しかし血のように深い赤のマントを羽織り、退屈そうに頬杖をついている男が一人。ただそこに佇んでいるだけで、周囲の空気が物理的に凍りつき、重力が数倍になったかのような錯覚さえ覚えさせる圧倒的な覇気――この鉄殻都市の絶対権力者、【皇帝】がそこにいた。

パチ……パチ……パチ……。

静寂を引き裂くように、皇帝の冷徹な拍手の音がゆっくりと響き渡る。その音は広い玉座の間に不気味に木霊し、進とニコの心臓を直接掴みにくるかのような悍ましさがあった。

皇帝の切れ長の瞳は、床に転がる消し炭や、血の海に倒れ伏すキースたちには一瞥もくれない。彼にとって番人たちの死など、ただの消耗品が消えたに過ぎないのだ。その冷酷な視線は、お互いの手を壊れそうなほど強く握りしめ、ガタガタと震えている進とニコの二人だけを、まるで興味深い玩具でも見るかのように捉えていた。

「実に見事な道化の踊りだった。まさか中層が誇る我が番人どもが、すべて屠られるとはな。……だが、それもここまでだ」

皇帝がゆっくりと頬杖を外し、玉座から立ち上がる。

その瞬間、玉座の間全体の空気が一変した。言葉にできないほどの狂暴な圧迫感が、進とニコの全身の肌に突き刺さる。本能が「あれに逆らってはならない」と絶叫し、肺から酸素が奪われ、立っていることさえ奇跡のような恐怖が二人を支配した。皇帝の瞳にあるのは、怒りや警戒ですらない。ただ地を這う虫ケラを眺めるかのような、底なしの、圧倒的な「侮蔑」だった。

「残ったのが、そのような力も知識もない、ただ怯えて震えることしかできぬ無価値な子供二匹とはな。片腹痛いとはこのことだ。お前たちでは、余に力で挑もうが、知恵で挑もうが、万に一つも勝つ要素など存在せぬ。余の前に並ぶことすら、本来であればお前たちの命の価値では足りんのだ」

皇帝は冷酷に言い放ち、靴音を響かせながら二人に歩み寄る。その一歩一歩が、進とニコの精神をじわじわと追い詰めていく。守ってくれる盾だった大人たちは、すぐ後ろで誰も動かない。キースは意識を失い、ガルードは血に染まり、ルナは怯えるように蹲り、ハクはすべての力を使い果たして倒れている。頼れるものは、今握りしめている、お互いの小さな手の温もりだけだった。

「ゆえに、余が慈悲を与えてやろう。お前たちの性質に相応しい、弱者でも運が良ければ余に勝てるかもしれない、とある『ゲーム』を提案してやる」

皇帝が不敵に笑い、傲慢に指を鳴らす。その瞬間、進とニコの足元の床に禍々しい魔法陣が展開され、二人の自由を完全に奪うように、半透明の魔力の鎖が足元から這い上がって身体を強固に縛り付けた。身動きが取れない。

「ルールは至極単純だ。お前たちのために命を削り、壊れていったあの4人の大罪人ども……彼らが先ほどの戦いで味わった【すべての苦痛】を、今からこの場で、お前たち二人に同時に『追体験』してもらう」

皇帝の言葉とともに、二人の頭上に、血のように赤いデジタル文字で【 01:00 】というタイマーが浮かび上がる。

「光も音も、触覚すらも奪われ、肺の機能が完全に停止する五感の喪失。肉体を無慈悲に切り刻む凄惨な負傷。脳を直接焼き焦がす高電圧の電撃。そして、全身の骨を粉々に圧殺する圧倒的な質量。……4つの地獄を同時に発動させる。制限時間は、わずか『1分間』。二匹合わせて、意識を保ったまま1分間耐え切ってみせよ。もし途中で心が折れ、死を望むなら、いつでもシステムにギブアップを告げて途中で止めることも許そう。……もっとも、その時はすべてが消滅するがな」

進が恐怖に息を呑むなか、皇帝は冷たく付け足した。

「安心せよ。これは余のシステムが脳の神経へ直接送り込む『仮想のダメージ』だ。現実の肉体に傷がつくことも、本物の骨が折れることもない。……つまり、どれほどの地獄を味わおうとも、途中でショック死して逃げることすら許されんということだ。心ゆくまで、その脳髄で恐怖と激痛を貪るがいい」

皇帝は残酷な愉悦を瞳に宿し、再び優雅に玉座へと戻り、深く腰掛けた。

4人が死に物狂いでバラバラに受けてきたあの絶望が、一分の猶予もなく、すべて同時に二人の小さな精神へと襲いかかろうとしていた。進とニコは、これから訪れる想像を絶する脳内への衝撃に備え、お互いの手をさらに強く、血が止まるほどに握りしめ合った。

「さあ、始めよう。運命の1分間だ――余を楽しませてみせよ」

システムが無慈悲な重低音を鳴らし、タイマーの数字が動き出す。

【 00:59 】

「ガ、あ……ッ、ひ、ぎぃぃぃぃぃぃぃっッ!!!!」

一秒目。同時に脳内へと叩き込まれた4つの仮想地獄が、まずはニコの精神を完全に破壊しにいった。

ニコの口から、およそ人間が搾り出せるものとは思えない、喉を裂くような絶叫が迸る。肉体は無傷のままなのに、脳の錯覚によって、五感が一瞬で消え去る暗闇の窒息、全身の皮膚を刃で切り刻まれる激痛、心臓を直接高電圧の電流が駆け抜ける衝撃、そして頭上から大山が降ってきたかのような圧倒的な質量感が、一気に神経を狂わせる。

「ニコ!! ニコッ!!lll」

進が必死に叫ぶが、隣のニコにはもう進の声すら聞こえていない。

【 00:57 】

【 00:55 】

ニコの肉体自体に傷は増えない。しかし、脳が「本物の致命傷」だと誤認したことで、自律神経のコントロールが完全に崩壊していく。ニコの目からは大量の涙が溢れ、鼻からは鼻水が締まりなく垂れ、口からはだらしなくよだれが滴る。全身からは文字通り滝のような冷や汗が吹き出し、さらには恐怖と圧倒的な圧力の錯覚に括約筋の制御を失い、股間からは温かい小便が床に激しく漏れ出していった。

穴という穴から、ありとあらゆる液体を文字通りドロドロと垂れ流したまま、精神の許容量を遥かに超えた地獄の痛みに、ニコの意識は呆気なく消し飛んだ。ニコは白目を剥き、すべての分泌物を流し尽くしたまま、糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちて完全に気絶した。

システム音が冷酷に鳴り響く。

『警告。プレイヤー2、意識喪失。これより、残りの苦痛負荷をすべてプレイヤー1へと移譲します』

タイマーの数字は、まだ【 00:51 】。

残された時間は、50秒近く。

「……あ」

ニコの意識が途切れ、握り合っていた手が力なく離れた瞬間、それまでニコが受けていたすべての地獄の負荷が、倍加して進の脳内へと一気に流れ込んできた。

視界が、完全に消えた。音も、自分の身体の感覚すらも一瞬で喪失し、無限の暗闇に取り残される。それなのに、脳が感じる「痛み」だけが、異常なほど鮮明に拡大されて突き刺さる。

呼吸ができない。実際に肺が止まっているわけではないのに、脳が強烈な窒息を錯覚し、酸素を求めて喉がヒィヒィと引き攣る。それと同時に、全身の肉が爆発したかのような激痛のシグナル、脳みそを直接沸騰させるような電撃の錯覚、さらに背骨がすべて圧し折れるかのような超重量の負荷が、進の精神を執拗に蹂躙した。

「――っ、ーーーーーーーッッッ!!!!」

声にならない悲鳴が進の喉に詰まる。

肉体は傷一つない綺麗なままなのに、あまりの激痛のパニックと、脳を直接マッサージされるような狂気的な恐怖の前に、進の自律神経も瞬時に崩壊した。

大粒の涙と鼻水、よだれが顔中に溢れ出し、さらには凄まじい仮想の圧力に耐えかねて、進の股間からも、堰を切ったように熱い小便が激しく噴き出し、ズボンを濡らして床へと盛大に漏れ出していった。

ニコの小便と、進の小便が、床のくぼみで無惨に混ざり合っていく。

尊厳もプライドもすべて剥ぎ取られ、あらゆる分泌物を垂れ流しながらガタガタと激しく痙攣する二人の少年の姿は、皇帝の目には最高に無様で、滑稽な道化そのものに映っていた。

(痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……ッ!!!!!)

脳内を狂気的な激痛の電気信号が埋め尽くす。一秒が一時間、いや、一年にさえ感じられる無限の地獄。

玉座の上から、皇帝の冷徹な、そして甘い誘いの声が、進の壊れかけた脳内に直接響いてくる。

「どうした? 苦しければ途中で止めてもよいのだぞ? ギブアップと一言念じれば、その悍ましい痛みからは今すぐに解放してやる。さあ、どうする?」

システムを途中で止めれば、この狂いそうな痛みや失禁の恥辱からは今すぐ逃げられる。

しかし、途中で止めれば、自分も、ニコも、後ろで倒れている4人も、全員がここで消滅する。

【 00:42 】

【 00:39 】

まだ、40秒近くもある。

進の意識は、激痛と偽りの酸欠、そして己の液体で汚れていく絶望のなかで、急速に闇へと引きずり込まれそうになっていた。しかし、その掠れかけた意識の底で、進は必死に心を繋ぎ止める。自分のために、ボロボロになりながら、魂を削って道を開いてくれた4人の姿が、脳裏を過る。

(やめるもんか……ッ! 傷つかないなら……死なないなら、なおさらだ……ッ! どんなに無様だっていい……僕が、僕たちが……みんなを連れて、ここを超えるんだ……ッ!!!)

進はありとあらゆる液体を垂れ流し、泥を啜るような無惨な姿のまま、一歩も引かない決意とともに、その圧倒的な地獄の錯覚の渦中へと、一人で深く沈み込んでいった――。

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