皆で紡ぐ幸せな時間
姫華の両手には、紙袋がいっぱい抱えられている。
「お、おかえりなさい」
「ただいまです!」
にこっと笑った姫華は、そこでベンチに座る2人へ気付いた。
「あっ!」
ぱちぱちと目を瞬かせ、
「玲さんと紅蓮先輩!」
「やあ、奇遇だね」
玲が片手をひらりと上げる。
すると姫華が、何かを察したように目を輝かせた。
「もしかして……!」
「ん?」
「お2人もデートですか!?」
「……ぶっ」
紬が思わず吹き出した。
「お!」
玲は楽しそうに笑い、何を思ったのか、隣に座っていた紅蓮の肩を抱いた。
「あぁ、デートだ」
「……は?」
「な、紅蓮?」
「……」
突然話を振られた紅蓮は、目が泳いでいたが、
「……まぁ」
少し照れたように視線を逸らした。
「玲が、ご飯連れてってくれるっていうから」
その声音は、どこか嬉しそうだった。
「わぁ~!」
姫華の目がきらきらと輝き、
「いいですね!大人のデートって感じです!」
「だろ?」
玲が得意げに笑う。
「紅蓮と珍しく休みが同じだったからな」
「……珍しくは余計だ」
「ははっ」
そのやり取りに、紬も思わずくすくすと笑った。
「お待たせしました」
「……お待たせ」
後ろから声がし、振り返ると、蒼真と凪が小走りでこちらへやって来る。
「蒼真くん、凪くん」
「こんにちは」
「……こんにちは」
2人も玲と紅蓮へ軽く頭を下げた。
「よっ」
「……どうも」
「あれ?」
姫華が辺りを見回し、
「そういえば……」
蒼真も、きょろきょろと周囲を見る。
「リーダーは?」
「……まだみたいだね」
凪が首を横に振る。
確かに、一番最初に『僕が負けるわけないでしょ』と自信満々だった透の姿が、まだ見えない。
「珍しいですね」
紬が首を傾げ、
「透さんなら、一番に戻ってきそうなのに……」
「確かに、それもそうだな」
玲も不思議そうに呟く。
「迷子になったとか?」
「透さんがですか?」
「いや、ないな」
自分で言っておいて、すぐに否定した。
「……」
紅蓮はコーラを一口飲み、
「……多分」
「うん?」
「時間も忘れて、本気で選んでんだろ」
「……あ」
紬が小さく目を見開く。
それなら、何だか納得してしまう。
透はこういうところで、妙に真面目なのだ。
「ふふ……」
思わず紬の笑みが零れると、
「……来た」
凪がぽつりと呟いた。
「え?」
全員が同時に顔を上げるその先には、誰よりもたくさんの紙袋を抱え、少し息を切らしながら歩いてくる透の姿があった。
「……」
「……」
「……」
「……リーダー」
姫華がぽつりと呟き、
「……本気すぎません?」
透はきょとんとした顔で立ち止まった。
「え?」
そして、自分の両手いっぱいの紙袋を見下ろす。
「……あ」
どうやら、その量を今になって自覚したらしい。
ベンチの周りに、何とも言えない沈黙が流れたのだった。
両手いっぱいの紙袋を抱えた透を見て、ひとしきり笑った後、玲がふっと優しく目を細めた。
「……みんな楽しそうで何よりだ」
その言葉に、紬も小さく微笑む。
すると玲は、隣にいる紅蓮へ顔を向けた。
「……よし、紅蓮」
「ん?」
「私達は、デートの続きをしようか」
そう言って、自然な仕草で紅蓮の腕へ抱きつく。
「……」
紅蓮は一瞬だけ驚いた顔をしたが、嫌そうではなかった。
むしろ――、
「……あぁ」
少しだけ口元を緩め、嬉しそうだ。
「そこ入ったとこ」
紅蓮がショッピングモールの奥を指差し、
「パスタの美味い店があるって」
「へぇ?」
玲が楽しそうに目を細める。
「紅蓮が調べたのか?」
「……パスタ好きだろ」
「ふふ」
玲が小さく笑い、
「じゃあ、そこにしよう」
「おう」
2人は顔を見合わせて、穏やかに笑う。
「それじゃあ、私達は行くよ」
玲がひらひらと手を振り、
「またな」
紅蓮も小さく手を上げる。
「はい! 楽しんできてください!」
姫華が元気よく手を振り返す。
「……また」
「お気を付けて」
蒼真と凪も頭を下げ、紬もにこりと微笑む。
「行ってらっしゃい」
「おう」
「またな、紬ちゃん」
そう言って2人は並んで歩き始めた。
少しずつ、少しずつ、背中が遠ざかっていく。
「……」
紬は、並んで歩く2人のその手が、さりげなく、繋がれていたのを見た。
指先が、そっと触れ合うように。
「……」
紬の口元が、ふわりと緩む。
昔は想像もできなかった。
赫焉との戦い、たくさんの別れ、たくさんの涙。
それでもこうして、みんなが笑っている。
大切な人と一緒に歩いている。
それだけで、胸がじんわりと温かくなった。
「……楽しそうで良かった」
誰にも聞こえないくらいの、小さな声だけど、その言葉には、たくさんの想いが込められていた。
春の風が、優しく吹き抜ける。
遠ざかっていく2人の背中を見つめながら、紬は静かに微笑んでいた。




