気になる、あの人と食事を
「あれ? 姫華ちゃん達だ!」
聞き覚えのある声がして、姫華が振り返る。
「紬先輩とリーダーだぁ!」
勢いよく立ち上がり、2人のもとへ駆けていく。
そこには、可愛らしいフリルのワンピースを着た紬と、爽やかな私服姿の透が立っていた。
普段かけている眼鏡を外した透は、どこかいつもと雰囲気が違う。
「3人でお買い物?」
透が優しく微笑むと、
「はい!」
姫華が元気よく頷く。
少し遅れて、蒼真と凪も立ち上がった。
「こんにちは」
「……こんにちは」
頭を下げながら、蒼真はふと顔を上げる。
楽しそうに笑い合う姿、自然な夫婦としての距離。
そして何より、紬の左手できらりと光る結婚指輪。
「……」
蒼真の胸の奥が、少しだけちくりと痛んだ。
(――あぁ、やっぱり、僕は)
その事実を、改めて思い知らされる。
「蒼真くん?」
「……っ」
名前を呼ばれ、蒼真は慌てて顔を上げた。
「どうしたの?」
紬が不思議そうに首を傾げ、
「い、いえ!」
蒼真は慌てて首を横に振る。
「何でもありません!」
「ほんと?今日は少し暑いし、体調でも悪い?」
「だ、大丈夫です!」
少し声が裏返ったその様子を見て、姫華と凪がそっと目を合わせる。
(……あぁ、完全に恋してる)
2人とも、何も言わずに察した。
その後、5人はショッピングモールの中にあるカフェへやって来ていた。
休日ということもあり、店内は家族連れや友人同士で賑わっている。
「いただきます」
それぞれの料理が運ばれてきて、穏やかな食事の時間が始まった。
紬はトマトソースのパスタをフォークでくるりと巻く。
隣では、透がサンドイッチを食べていた。
向かいの席では――
「……大きい」
凪が目を丸くする。
その視線の先には、姫華の前に置かれた、大盛りのオムライスがあった。
「え?」
姫華がきょとんとしているが、
「普通じゃない?」
「…普通じゃない」
凪が即答した。
「えぇー?家ではもっと食べるんだけど」
そのやり取りに、思わず笑みが零れる。
「ふふ……」
私はパスタを一口食べてから、3人へ視線を向けた。
「そういえば、3人は今日何してたの?」
「んー?」
姫華は、もぐもぐとオムライスを頬張り、ごくんと飲み込んでから笑った。
「1人で出かけるのも何だか楽しくないから、3人で行こうってなったんです〜」
「なるほど。仲良しなんだね」
「はい!」
姫華が満面の笑みを浮かべ、
「蒼真も凪も、何だかんだ優しいんですよ!」
「……何だかんだは余計です」
蒼真くんが苦笑する。
「……」
凪くんは少しだけ照れたように視線を逸らした。
そんな3人を見ていると、自然と頬が緩む。
入社したばかりの頃は、どこかぎこちなかったのに、いつの間にか、こんなふうに笑い合えるようになっていた。
「なんだか、兄弟みたい」
「兄弟?」
姫華が首を傾げ、
「とっても仲良しだから」
紬は小さく笑った。
「見ていて、こっちも楽しくなるね」
「……」
蒼真が、じっと紬を見ていて、
「どうしたの?」
「い、いえ」
慌てて視線を逸らす。
「その……兄弟……いいな、と思って」
「?」
紬は不思議そうに首を傾げた。
けれど、隣に座る透は、小さく微笑んでいる。
向かいでは、姫華と凪が、そっと顔を見合わせていた。
「そうだ!」
姫華が、ぱっと顔を上げる。
「せっかくですし、この後みんなでお買い物しませんか!?」
「お買い物?」
「はい!」
姫華が身を乗り出し、
「紬先輩のお洋服とか見たいです!」
「え、私の?」
「見たいです!」
その勢いに、私は思わず笑ってしまった。
「ふふ……じゃあ、少しだけ」
「やったー!」
ぱあっと顔を輝かせる姫華を見て、凪も小さく頷いた。
「……俺も、行きたいです」
「僕も」
蒼真も微笑むと、
「……あれ」
透が少し困ったように笑った。
「もしかして、今日は僕、仲間外れ?」
「そんなことありませんよ?」
紬はくすっと笑い、
「透さんも、一緒ですよ」
「……それなら良かった」
ほっとしたように笑うその姿が、何だか可愛くて紬は思わず、ふふっと笑ってしまった。
窓の外では、柔らかな春の陽射しが街を照らしている。
こんな穏やかな休日が、これからもずっと続いていく気がした。




