新人達の休日
姫華、蒼真、凪が《夜叉》へ入社してから、早いもので2ヶ月ほどが経った。
新人だった3人も、今ではすっかり施設に馴染み、それぞれが自分の役割を見つけ始めている。
そんなある休日、3人は、街のショッピングモールへ遊びに来ていた。
だが今日は、ただ遊びに来たわけではない。
「で、相談って?」
姫華が人気カフェのフラペチーノを飲みながら尋ねた。
ベンチに座る蒼真は、珍しく落ち着かない様子で、紙コップを両手で持っている。
「……」
「蒼真?」
「……」
「え、なに? そんな深刻?」
隣では、凪が黙ってジュースを飲んでいた。
しばらく沈黙が続いた後、蒼真がぽつりと口を開く。
「……僕」
「うん」
「最近……少し、おかしいんです」
「おかしい?体調悪いの?」
姫華が心配そうに身を乗り出すが、蒼真は慌てて首を横に振った。
「いえ、そういうわけではなくて……」
「じゃあ、どうしたっていうの?」
再び沈黙が流れ、そして、
「……雨宮先輩を見ると」
「うん」
「胸が、どきどきするんです」
「……」
「……」
姫華と凪が固まってしまった。
「……」
「……」
蒼真だけが真剣な顔をし、
「最近は、先輩と話すだけでも変に緊張しますし……先輩が笑うと、何だか嬉しくて……それで……」
眼鏡を少し押し上げる。
「この気持ちは、一体何なんでしょうか?」
「……」
姫華が、すぅっと息を吸い込み、
「……え」
さらに吸い込む。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ショッピングモール中に響きそうな声だった。
「しっ……!」
蒼真が慌てて口を塞ぎ、
「お、落ち着いてください!」
「いやいやいや!」
姫華は、がたっと立ち上がった。
「それ、完全に恋じゃん!!」
「……恋?」
「えっ、気付いてなかったの!?」
「?」
「嘘でしょ!?」
蒼真は本気で首を傾げている。
「だって……僕、今までそういう気持ちになったことがなくて……だから、自分でもよく分からなくて……」
すると、隣でずっと黙っていた凪が、ぽつりと呟いた。
「……大変だ」
「うん、大変」
姫華が真顔で頷き、
「めちゃくちゃ大変」
「そんなにですか!?」
「だって相手……」
遠い目をする。
「紬先輩だよ?」
「……はい」
「しかも、紬先輩の事が大好き過ぎる、リーダーの奥さんだよ?」
「……」
蒼真の動きが止まり、数秒後に、
「……あ」
「今気付いたの!?」
思わず姫華が突っ込む。
「はい…」
蒼真の顔が、みるみる青くなっていく。
「僕……」
「うん」
「終わりました……」
「終わってないから!」
「でも……」
蒼真が頭を抱え、
「僕、先輩をそんな目で……」
「いや、そんな悪いことじゃないって!」
「……」
「ただ」
姫華は真顔になる。
「リーダーには、絶対に言わない方がいいと思う」
「……なぜですか?」
「訓練のメニューが3倍になる」
「そんなに!?」
隣で、凪が静かに頷いた。
「……3倍じゃ済まないかもしれない」
「凪くんまで!?」
蒼真の顔がますます青くなり、
「でも」
凪が、小さく続けた。
「……恋をすることは、悪いことじゃないと思う」
「……」
「……」
「……ただ」
凪は少しだけ考え、
「……相手が悪かったかな」
「そこ!?」
姫華が思わず吹き出した。
3人は顔を見合わせ、
「……ふっ」
「……あはは」
「はははっ!」
気付けば、3人とも笑っていた。
休日の穏やかな風が、ベンチの周りを吹き抜けていく。
蒼真は、小さく息を吐き、
「……少し、すっきりしました」
「それなら良かった!」
「……うんうん」
姫華が、にやりと笑う。
「じゃあ、今日の相談料ね」
「……はい?」
「お昼ご飯奢り!」
「えっ!?」
「パンケーキもいいなあ」
凪が静かに手を挙げ、
「……俺、パフェ」
「凪まで!?」
3人の笑い声が、休日のショッピングモールへ響いていた。




