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第9話 それは、罠なのか

そして毎日透と登下校をし、何日か経った放課後。


昇降口で靴を履き替えていると、聞き慣れた声が降ってきた。


「お疲れさま、紬ちゃん」


顔を上げると、透が穏やかに微笑んでいた。


それだけなのに、なぜか少しだけ安心してしまう自分がいる。


(……だめだ)


あれから、ずっと距離がおかしい。


「帰ろうか」


「……はい」


また、毎日のように並んで歩き出す。


少しずつ近付いているような距離。


だから妙に意識してしまう。


しばらく沈黙が続いたあと、


「紬ちゃん」


「……はい」


「これから、少し寄り道してもいいかな」


「寄り道、ですか?」


「うん」


透は少しだけ間を置いて、


「会ってほしい人がいるんだ」


と言った。


「……誰に、ですか」


透は困ったように、でも変わらずやさしく笑った。


「《夜叉》の人」


「……は?」


紬にとっては、理解が追いつかない。


だって《夜叉》にとって自分は…。


「なんで……」


「大丈夫だよ」


すぐに重なる、やわらかい声。


「危ないことはさせない」


「そういう問題じゃないです」


思わず強く言ってしまう。


それでも透は否定せず、静かに頷いた。


「うん、そうだね」


「でも今回は、断れなかったんだ」


その一言に、息が詰まる。


「……どういうことですか」


「上の人に呼ばれてる」


「……上って」


「《夜叉》のリーダーだよ」


心臓が、大きく跳ねる。


「紬ちゃんと紅蓮を、連れて来いって言われた」


「……っ」


行きたくない。


それが本音のはずなのに、


「もちろん、無理にとは言わないよ」


透は変わらず穏やかだった。


「怖いなら、断っていい」


「……」


「その場合は、僕が何とかする」


その“何とか”が、どれだけ無理をすることなのか、想像できてしまう。


「……透先輩は、行くんですよね」


「うん」


迷いはなかった。


「職場、だからね」


その言葉に、胸の奥がざわつく。


(この人は——どっちなんですか)


守ってくれているはずなのに、敵の場所に連れていこうとしている。


「……どうして」


気づけば、口にしていた。


「どうしてそこまでして、私のそばにいるんですか」


透は少しだけ目を見開いて、


それからやわらかく笑った。


「そばにいたいから、かな」


「……それだけですか」


「それだけじゃ、だめ?」


優しい問い。


でもその奥が見えず、紬は視線を逸らした。


「……紅蓮にも、聞きます」


「うん。それがいいと思う」


そして数分後に、紬は紅蓮を透の所へ連れてきた。


事情を説明すると、紅蓮はしばらく黙り込む。


「……なるほどな。お前は、どうする」


「……どうするって」


「行くか、行かないかだ」


答えを求められ、紬は唇を噛んだ。


「普通に考えたら、行かない方がいいよね」


「ああ」


「じゃあ——」


「だが」


紅蓮が言葉を遮るが、その目は冷静だった。


「向こうがわざわざ呼んできたんだ。理由がある」


「……」


「逃げ続けても、いずれ捕まって殺される。だったら、一度こっちから踏み込むのも手だ」


「……行くべき、ってこと?」


「俺はそう思う。もちろん危険だが」


紅蓮はちらりと透を見て、


「こいつがいる」


「……信じていいの?」


と、ため息を付いた。


透は少しだけ困ったように笑った。


「信じてもらえたら、嬉しい」


「少なくとも、今は敵に回る気はないだろうな」


「……今は、って何それ」


「状況は変わるってことだ」


紬の胸がざわつく。


(やっぱり……)


透の事は、完全には信じきれない。


それでも、


「……行く」


気づけば、そう言っていた。


透がわずかに目を揺らすが、


「紬ちゃん」


「逃げたくない」


と、はっきりと言い切る。


「ちゃんと、知りたいんです」


自分に何が起きているのか。


何に巻き込まれているのか。


(この人は、なんの為に近付いてくるのか)


透は一瞬だけ目を伏せてから、静かに頷いた。


「わかった」


「絶対に、危ないことはさせない」


その言葉はやさしくて、でもどこか信じていいのか不安な気がした。


そんな話をしている内に、夕暮れになってしまった。


街の明かりが少しずつ遠ざかっていく。


人気のない道に連れていかれ、そこは静かな空気が流れていた。


「……ここ、どこなんですか」


紬の問いに、透は前を見たまま答える。


「もう少しで着くよ」


変わらない、やさしい声。


でもその先だけが、明らかに違う。


やがて見えてきたのは、無機質な建物だった。


人の気配はないのに、重たい圧だけがある。


「ここが……」


恐怖で、紬の声がかすれる。


透は一度だけ振り返った。


その目はやさしくて、けれどどこか決意を含んでいる。


「大丈夫。僕がそばにいる」


その言葉をこの場に来ても信じていいのか、まだ分からないまま、紬は一歩踏み出した。


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