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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
最終章 それぞれの道
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第87話 受け継がれる想い

「乾杯!」


グラスの音と笑い声が、食堂いっぱいに響く。


隊員達はそれぞれ料理を手に取り、思い思いに楽しんでいた。


「これ、美味いな!」


「おい、それ俺が狙ってた唐揚げ!」


「早い者勝ちでーす!」


いつもより賑やかな食堂の光景に、紬は自然と笑みを零した。


「ふふ……」


「どうしたの?」


隣に立つ透が優しく尋ね、


「いえ……」


紬は食堂を見渡した。


「なんだか、すごく幸せだなって」


「僕もそう思う」


戦いばかりだった日々、明日が来る保証なんてなかった日々。


それでも、今はこうしてみんなで笑っていられる。


それだけで、胸がいっぱいだった。


すると、玲がパチンと手を叩くと、


「さて」


その一言で、食堂が少し静かになる。


玲は皆の顔を見渡し、ふっと笑った。


「実は――。もう一つ、サプライズがある」


「えぇ!?」


「まだあるんですか!?」


隊員達が一斉に声を上げる。


「玲さん、サプライズ好きですね」


透が苦笑するが、玲はどこか楽しそうに肩を竦めた。


「まあな。こういう日は、とことんめでたい方がいいだろう?」


「確かに!」


「気になるー!」


食堂がざわつき出し、玲は一つ咳払いをした。


「来月から、新人が15人ほど入ることになった」


一瞬、食堂が静まり返り、


「……え?」


紬が目を瞬かせた。


「じゅ、15人……?」


「ああ。今までの私達の活動を見て、一緒に街を守りたいと志願してくれたんだ」


数秒の沈黙が流れ、


「うおおおおっ!!」


食堂が歓声に包まれた。


「15人!?」


「すげぇ!」


「一気に増えるじゃないですか!」


「賑やかになりますね!」


紬も驚きながら、嬉しそうに笑った。


「……すごい……」


透も静かに目を細め、


「僕達のやってきたことが……ちゃんと届いていたんだね」


「ああ、無駄では無かったという事だ」


玲は優しく頷いた。


「だから――」


そこで一度言葉を切ると、まっすぐ透を見る。


「これからの《夜叉》を、よろしく頼む」


「……え?」


玲は静かに微笑み、


「リーダー。頼むよ」


食堂が、再び静まり返った。


「玲さん……」


透の声が小さく震え、玲はゆっくりと頷いた。


「私はこれからも《夜叉》にいる。でも、リーダーに戻るつもりはない」


「……」


「今の《夜叉》をここまで導いたのは、お前だ。みんながこうして笑っていられるのも、透がいたからだ」


透は言葉を失う。


玲は優しい目で彼を見つめる。


「だから、これからも《夜叉》のリーダーは――透しか居ないんだよ」


しばらく沈黙が流れ、そして透は小さく息を吸った。


「……僕で、本当にいいんですか?」


「何を今さら。私が、透以外に任せると思うか?」


その言葉に、食堂から小さな笑いが漏れた。


透は少し目を潤ませながら、ゆっくりと頷く。


「……はい。僕、頑張ります……!」


「頼んだぞ、リーダー」


玲は満足そうに頷いたが、


「それから、私は副リーダーとして、透をサポートしていく。困った時は相談する事。一人で抱え込むな」


「……はい!」


「それと……」


にやりと笑った。


「君達にも、ビシバシいくから覚悟しておけよ?」


「えぇぇぇ!?」


「新人が増えるのに厳しくなるんですか!?」


「勘弁してください!」


食堂に悲鳴が響くが、その様子に、玲は満足そうに笑った。


「新人達の前で、格好悪い先輩になるなよ?」


「うっ……」


「それは嫌だ……」


隊員達が頭を抱え、そんな中、玲は今度は紅蓮の方へ歩いていった。


ぽん、と肩を叩いたと思うと、


「そして、紅蓮」


「……何だよ」


「実はな?」


玲は少しだけ口元を緩めた。


「新人15人の中に、3人ほど半妖の子がいるんだ」


「……は?」


紅蓮が目を見開き、紬も驚いたように瞬きをした。


「半妖……?」


「そうなんだ」


玲は静かに頷く。


「それで、この前話していただろう?……妖専門の部署を作る」


「……!」


「人間に紛れて、ひっそりと生きている妖。居場所を見つけられずに苦しんでいる半妖。そういう者達を手助けする部署だ」


玲は真っ直ぐ紅蓮を見て、


「その部署のリーダーを、紅蓮に任せたい」


「……俺が?」


「紅蓮だからこそ、救える者がいる」


「……」


紅蓮はしばらく黙り込んだ。


やがて、


「……ったく」


小さく笑い、


「人を見る目、なさすぎだろ」


「あるから任せるんだ」


玲が笑った。


紅蓮は頭を掻きながら、ふっと息を吐く。


「……分かった。任せろ」


その瞬間、


「おおーっ!」


「新リーダー誕生!」


食堂が拍手に包まれ、紅蓮は少し照れくさそうに顔を逸らした。


玲は今度は紬の前へ立ち、


「最後に――紬ちゃん」


「は、はい!」


紬が慌てて姿勢を正すと、玲は優しく微笑んだ。


「本当なら、紬ちゃんには最前線で戦ってほしいくらいの戦力なんだが……」


そこでちらりと透を見る。


「それは透が止めると思ってな」


「もちろんです」


透は当たり前のように即答する。


「ですよね……」


紬が苦笑した。


食堂からも笑いが漏れが、玲は続けた。


「だから、紬ちゃんには《夜叉》専属トレーナーとして、みんなの訓練をサポートしてほしいんだ」


「私が……?」


「紬ちゃんは、みんなをよく見ている。誰が困っているか、誰が悩んでいるか、誰が無理をしているか。それに気付ける子だ」


紬の瞳が揺れ、


「だからこそ、私は紬ちゃんに頼みたい。みんなを支えてくれないか?」


周りを見渡した。


大切な仲間達に、そして、これから入ってくる新しい仲間達。


やがて、ふわりと笑い、


「……はい!私でよければ、みんなの力になりたいです!」


大きな拍手が起こった。


「よろしくお願いします、トレーナー!」


「鍛えてください!」


「厳しすぎるのは勘弁で!」


紬は少し照れながら笑った。


すると、透が一歩前へ出る。


「みんな、紬のことを頼りにしてくれるのは嬉しいよ」


隊員達が頷くが、


「だからって、紬にベタベタしたら許さないからね?」


「……」


「……出た」


「リーダーの独占欲」


食堂がざわつく。


透はにっこりと微笑み、


「紬とプライベートな話をしたいなら、僕に訓練で勝てたらね?」


「えぇ!?」


「無理ですよ!」


すると、そんな様子を見た紬が、


「もう!」


頬を膨らませた。


「透さんってば!」


「ん?」


「皆さんに厳しいですよ!」


「でも……」


「駄目です!」


紬は腰に手を当て、


「玲さんみたいに、もっと優しくなれないなら私、怒りますからね!」


「……!」


透の動きが止まった。


「……怒る?」


「はい!」


「……」


そして、目に見えて透の肩が落ちた。


まるで叱られた子犬のようだ。


「……分かった。気を付ける」


「……」


「……」


「リーダーって」


「え?」


「完全に紬ちゃんに弱いですね」


「……否定できないな」


「認めた!?」


どっと笑いが起こり、紬も思わず吹き出す。


玲はその光景を見ながら、優しく目を細めた。


――大丈夫。


これからの《夜叉》もきっと、明るい未来が待っている。


そんな気がしたから。


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