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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
最終章 それぞれの道
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第83話 未来に乾杯

「透さん……」


涙を拭った紬は、はにかむように微笑んだ。


「……指輪、付けてくれますか?」


そう言って、そっと左手を差し出す。


薬指には、以前透から贈られた指輪が静かに輝いていた。


透は優しく目を細めると、


「もちろんだよ。僕のお姫様」


紬の左手をそっと包み込む。


小さな箱から結婚指輪を取り出し、薬指へ重ねるようにゆっくりとはめた。


月明かりを浴びた二つの指輪は、寄り添うように輝いている。


紬は思わず左手を胸の前へ持っていき、嬉しそうに見つめた。


「……綺麗……」


思わず零れたその一言に、透も笑みを浮かべる。


「紬によく似合ってる」


「ありがとうございます……!」


頬を染めながら微笑む紬を見て、透は紬の手を優しく握る。


「そろそろ行こうか?」


「はい!」


2人は手を繋いだまま屋上を後にした。











食堂の前まで来ると、透が足を止める。


「紬」


「はい?」


「ほら、開けてごらんよ?」


「……?」


不思議そうに首を傾げながら、紬は扉へ手を掛けた。


扉を開いた瞬間、


「「「二人とも、おめでとう!!」」」


クラッカーが一斉に鳴り響き、色とりどりの紙吹雪が舞う。


「きゃっ!」


紬は驚いて思わず透の腕へしがみついた。


食堂は風船や手作りの飾りで彩られ、長いテーブルには色鮮やかな料理がずらりと並んでいる。


「え……え?」


何が起きたのか分からず、紬は辺りを見回した。


「いやぁ、準備、大変だったんだぜ?」


聞き慣れた声に振り向くと、そこにはタキシード姿の紅蓮が立っていた。


黒いタキシードに身を包み、整えられた髪の、その間から伸びる二本の立派な角が、どこか誇らしげだった。


「なかなか大変だったぜ。花なんか作ったことねぇんだからよ」


照れくさそうに頭をかく紅蓮。


紬は壁いっぱいに飾られた手作りの花へ目を向ける。


「もしかして、あの花?」


「ああ」


「ふふっ」


紬は優しく笑い、


「独特で可愛いと思うよ?」


「……そうか?」


「うん。すごく好き」


その一言に紅蓮は照れたように鼻をこする。


「ったく、お前はそういうことをさらっと言うよな」


「だって、本当にそう思ったんだもん」


そのやり取りを見ていた玲が笑顔で歩み寄る。


「紬ちゃんのそういうところ、私、好きだよ」


玲は深い蒼色のドレスを身に纏い、いつも高い位置で結んでいる長い黒髪を下ろしていた。


「玲さん……!」


紬は思わず目を見開く。


「すっごく綺麗……!」


「ありがとう」


玲は少し照れたように笑う。


「たまにはこういう格好も悪くないな」


食堂には自然と笑顔が広がっていく。


透はパチンとと手を叩くと、


「よし。じゃあ、パーティーを始めようか?みんな、飲み物を取ってきてね」


隊員たちは一斉にグラスを持ち、それぞれ好きな飲み物を選び始めた。


紬も空のグラスを持って並ぶが、


「うーん……」


真剣な顔で飲み物を見つめている。


「どうしたの?」


透が隣へ来て、クスッと笑うと、


「あ、分かった。オレンジジュースかコーラで悩んでるんでしょ?」


「え!」


紬は驚いて透を見上げ、


「なんで分かったんですか!」


頬をぷくっと膨らませる。


透は優しく笑い、紬の頭を撫でた。


「紬のことなら分かるよ」


「もう……」


照れながらも嬉しそうに笑う紬は、結局オレンジジュースを選び、2人はグラスを持って皆のもとへ戻った。


透はグラスを高く掲げ、食堂中を見渡し、


「それじゃあ、そろそろ始めようか」


穏やかに微笑むと、紅蓮へ視線を向ける。


「紅蓮。乾杯の挨拶、よろしく」


突然名前を呼ばれた紅蓮は目を丸くし、


「……んぐっ!」


隠れて口いっぱいに頬張っていた唐揚げを、慌てて飲み込む。


「紅蓮!」


紬は思わず笑いながら、ぺちんっと軽く頭を叩いた。


「まだ始まってないよ!」


「いてっ!」


紅蓮は叩かれた頭を大袈裟に押さえる。


「……悪かったって。」


食堂中に笑い声が響き、紅蓮は照れくさそうに頭をかきながら、グラスを持って一歩前へ出た。


「えーっと……」


咳払いを一つし、少しだけ考えてから、ゆっくりと口を開いた。


「俺は最初、人間が嫌いだった」


笑い声が止み、食堂は静まり返る。


誰もが紅蓮の言葉に耳を傾けていた。


「だから紬と契約した時も、こいつを妖にして、最後は俺が喰ってやろうって思ってた」


苦笑いを浮かべ、


「……だけどな」


《夜叉》のみんなを見渡した。


「此処に来てから、みんな半妖の俺に普通に話しかけてくるし、優しくしてくれるし、ほんと意味分かんねぇって思った」


隊員たちから小さな笑いが漏れ、紅蓮もつられて笑った。


「でも今なら分かる。人間にも妖にも、いい奴も悪い奴もいる。そんな当たり前のことを教えてくれたのは……」


紅蓮は紬へ目を向け、


「お前だった」


突然見つめられた紬は少し照れながら笑う。


「私もね」


紬はグラスを胸の前で持ち直し、


「妖なんて漫画や昔話の世界だけだと思ってた。だから紅蓮に会った時も、きっと夢なんだって。目が覚めたら、全部元通りになるんだって思ってた」


小さく首を振る。


「でも違った。嬉しいことも、悲しいことも、苦しいことも、全部本物だった」


紬は《夜叉》のみんなを見渡す。


「だから今、こうしてみんなと笑っていられることが、本当に幸せ」


その言葉に、隊員たちは静かに頷いた。


すると1人の隊員が勢いよくグラスを掲げるが、


「俺だって、紅蓮に負けねぇからな!」


すぐ隣の隊員が呆れたように笑った。


「お前、1回も勝ったことないだろ」


「あーっ!お前だってないくせに!」


言い返した隊員は頭をぽりぽりとかく。


「……いや、紅蓮が強すぎるんだよなぁ」


「確かに……」


「組み手で勝てる気がしねぇ」


食堂中が笑いに包まれる。


玲は腕を組み、真剣な顔で紅蓮を見つめた。


「確かに……紅蓮は前よりも強くなったと思うぞ」


そして顎に手を当て、


「この際、妖専門の秘密部隊を作って、紅蓮にリーダーを任せるのも――」


「れ、玲さん」


何か考え始め、透が苦笑いを浮かべた。


「今はパーティーですから」


玲は「む?」と首を傾げる。


「仕事の話は後にしましょう?」


「もちろん、その話は僕もちゃんと聞きますから」


玲は少し考えたあと、小さく笑った。


「……そうだな。今日は楽しむ日だった」


透はほっと胸を撫で下ろし、改めてグラスを掲げる。


「それじゃあ、紅蓮。締め、よろしく」


「お、おう」


紅蓮は少し照れくさそうに笑うと、勢いよくグラスを掲げた。


「えっと……乾杯!」


「「「乾杯!!」」」


カチン、と無数のグラスが重なる音が食堂いっぱいに響き渡る。


笑い声が重なり、美味しそうな料理へ次々と手が伸びる。


長い戦いの果てにようやく辿り着いた、穏やかな時間。


《夜叉》は今日も、笑顔で満ちあふれていた。


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