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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第8章 タイムリミット
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第77話 もう1人じゃない

「失敗作のお前にも、母親が居た」


赫焉は紅蓮を見下ろしたまま、静かに口を開く。


その一言に、紅蓮の肩がぴくりと震えた。


「……」


「まあ、お前を産んですぐに、人間共に殺されたがな」


最後の一言だけ、赫焉は僅かに歯を食いしばった。


紅蓮の瞳が大きく揺れる。


「……人間に……殺された……」


会ったこともない母、顔も知らない。


それでも、自分を産んでくれた、たった一人の母親。


その命は、自分が生まれて間もなく、人間によって奪われていた。


「あぁ、そうだ。妖の子を産んで、人間の恥だと罵られ、井戸水に毒を盛られてな」


赫焉はゆっくりと紬へ視線を移し、しばらく黙って見つめた後、小さく鼻で笑った。


「あの小娘は、お前の母親によく似ている」


その瞳に宿るのは、怒りとも悲しみともつかない感情だった。


「……ムカついてしまうほど、な」


赫焉が右手を掲げた瞬間、


「……っ!」


紬の身体が床から浮かび上がる。


「え……?」


足が宙を離れたと思うと、見えない何かが首へ巻き付いたのだ。


「がっ……!」


苦しい、何にも触れられていないのに。


それなのに、喉だけが強く締め付けられていく。


「……やめ……っ……!」


両手で首を押さえても苦しさは消えない。


「紬!!」


紅蓮は反射的に赫焉へ飛び付き、右腕へ必死にしがみ付いて、叫ぶ。


「辞めろ……!」


赫焉は微動だにせず、


「辞めてくれ!!」


紅蓮の叫びが玉座の間へ響く。


「紬は関係ない!」


赫焉はようやく紅蓮を見下ろしたが、その瞳はどこまでも冷たかった。


「……関係ない?」


そして小さく笑う。


「何を言う。お前はその小娘と契約しておる」


右手は動かず、それだけで紬は苦しそうに宙でもがき続ける。


「さっさと心臓を喰えばよいものを」


赫焉は紅蓮を見下ろし、冷たく笑った。


「……あぁ、情が移ってしまったか」


紅蓮は歯を食いしばるが、


「違う……!」


「情など持つから弱くなる」


と、赫焉は静かに続ける。


「お前の情のせいで、何人の人間が犠牲になった?」


「……何?」


赫焉は答える代わりに、空いている左手を軽く振った。


玉座の脇に置かれていた巨大な鏡が、不気味な音を立てて揺れる。


黒い波紋が鏡面へ広がり、一つの景色を映し出した。


城の外にある、長く続く石階段には、血の海の上で横たわる二人の姿があった。


「……」

紬の瞳が震え、


「……透……さん……」


かすれた声が漏れる。


「……玲さん……」


二人は全身傷だらけのまま倒れ、ぴくりとも動かない。


「……そん……な……嫌……嫌だよ……」


赫焉は右手を下ろすと、


「……っ!」


紬は床へ叩き付けられ、激しく咳き込んだ。


赫焉は鏡から目を離さず、静かに言う。


「お前達が待っている人間も、死んでおる」


「……何でだよ……」


紅蓮の声が震え、鏡から目が離せない。


「……何でなんだよ!!」


拳を床へ叩き付け、鈍い音が響く。


赫焉はゆっくりと歩み寄り、紅蓮の片角を掴んだ。


「ぐっ……!」


軽々と持ち上げられ、


「何で?」


赫焉は冷たく笑う。


「全部、お前のせいだと言っておるだろう?」


「違う……違う……」


紅蓮は苦しそうに呟く。


「全部……俺のせい……なのか……?」


その瞬間壁の破片が飛び、赫焉の立派な角へ当たる。


赫焉はゆっくりと視線を向けた。


そこには、焔月を握り締めた紬が立っていたのだ。


肩で息をし、涙を流しながら、それでも赫焉を真っ直ぐ睨み付けている。


「……紅蓮から、手を離して」


赫焉は僅かに目を細める。


「ほう」


紬は焔月を握り直した。


胸に浮かぶのは、二人の笑顔。


優しくしてくれた透、どんな時でも背中を押してくれた玲。


二人の想いまで、無駄になんてしない。


焔月が脈打ち、紅い光が刀身を駆け巡る。


「私は……」


紬の身体を紅い覇気が包み込んだ。


黒髪が風に舞い、鮮やかな紅へと染まっていく。


「紬……!!」


紅蓮が目を見開き、


「あの馬鹿……!……辞めろ!!」


必死に叫ぶ。


「これ以上、俺の血を使うな!!」


だが紬は首を横に振った。


涙を流しながら、それでも笑う。


「私が」


焔月の刃先を赫焉へ向け、


「私が全部守るの」


そして、力強く叫んだ。


「紅蓮も、もう一人じゃないんだから!!」


その叫びと同時に、紅い覇気が爆発する。


紬の額に鋭い痛みが走り、赫焉も紅蓮も、その変化を見逃さなかった。


紬の額に、一本の鬼の角がゆっくりと姿を現したのだ。


「……小娘のくせに」


赫焉は初めて、興味を示すように口元を緩める。


その瞳に映る紬は、もうただの小娘ではなかった。


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