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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第8章 タイムリミット
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第75話 食卓を囲むということ

砕け散った鏡の部屋を後にし、紬と紅蓮は静かに階段を上っていく。


城の中は相変わらず不気味なほど静まり返っていた。


足音だけが、重苦しい空気の中へ吸い込まれていく。


「……いつまで続くんだろう」


「あぁ」


短く答えた紅蓮は、拳を軽く握り直した。


やがて2人は3階へ辿り着く。


そこにも重厚な両開きの扉があった。


紅蓮はゆっくりと扉へ手を掛ける。


「ここは開きそうだな」


「うん」


鈍い音を響かせながら扉が開き、部屋へ足を踏み入れた瞬間、紬は思わず目を見開く。


「……すごい」


そこは広大な食堂で、高い天井には豪華なシャンデリアが埃を被っていた。


壁には美しい装飾が施され、部屋の中央には長い長い食卓が置かれている。


10人以上は座れそうな大きなテーブルに、磨き上げられた銀食器が並んでいて、今にも料理が運ばれてきそうなほど整えられた席だった。


誰もいないというのに、まるで、この瞬間も誰かを待ち続けているようだ。


紬はゆっくりと食卓へ近付き、


「……こんな大きなテーブル」


椅子を見つめながら歩いていく。


主人が座るのであろう、一際立派な椅子の隣には、もう1つ小柄な椅子があり、その隣には、少しだけ小さな椅子が置かれていた。


紬は思わず足を止める。


「……」


その椅子だけが、不思議なほど綺麗だった。


埃一つ積もっていない。


今でも誰かが座るのを待っているように、綺麗にされていた。


紅蓮もその椅子を見つめる。


何だか、胸の奥がざわついた。


理由は分からない、知らないはずなのに、その席を見ているだけで、苦しくなる。


「……行くか」


紅蓮は静かに背を向け、紬は何も聞かなかった。


聞いてはいけない気がした。


2人は食堂を後にし、しばらく無言で廊下を歩く。


やがて紬がふっと笑った。


「ねぇ、紅蓮」


「ん?」


「みんなの所戻ったら、またパーティしようよ」


紅蓮は足を止め、


「……は?」


「みんなでご飯食べてさ」


紬は笑顔のまま続けた。


「透さんも、玲さんも、《夜叉》のみんなと、今度はもっと賑やかに!もちろん、紅蓮も最後まで付き合うんだからね!」


紅蓮は少しだけ目を丸くした。


紬は食堂のことを聞かなかった。


あの小さな椅子のことも、肖像画のことも、何も。


ただ、当たり前のように未来の話をしてくれた。


「……面倒くせぇ」


ぶっきらぼうにそう返すが、その口元はわずかに緩んでいた。


「そんなこと言って」


紬はくすっと笑うと、


「ちゃんと来るくせに」


「……知らね」


照れ隠しのように頭を掻きながら、紅蓮は再び歩き出した。


紬も笑顔でその後を追い、2人は最後の階段を上る。


そして階段を上り切ると、そこには長い廊下が続いていた。


左右には、高そうな壺や像が何個飾られている。


赤い絨毯が真っ直ぐ奥へと伸び、蝋燭が2人を照らしていた。


廊下の果てには、今までとは比べ物にならないほど巨大な、黒い両開きの扉がそびえ立っていた。


天井近くまで届くほどの高さで、黒い扉には禍々しい紋様が刻まれ、その隙間からは濃密な妖気が漏れ出している。


息をするだけで胸が苦しくなるほどの圧迫感が、紬は無意識に焔月の柄を握り締める。


「……すごい妖気」


紅蓮も静かに頷き、


「あぁ」


真っ直ぐ巨大な扉を見据えていた。


「親父……」


赫焉は、全ての元凶。


自分を捨てた父親でもある。


2人は扉の前まで歩み寄ると、紬はふと後ろを振り返った。


静かな廊下は、誰も上がってくる気配はない。


「……透さんと玲さん、来ないね」


紬の少しだけ心配そうな声に、紅蓮は鼻で笑った。


「大丈夫に決まってんだろ」


そう言って拳を軽く鳴らすと、


「《夜叉》の元リーダーと、現役リーダーだぜ?」


その口元に、自信に満ちた笑みが浮かぶ。


「あんなクソみたいな宵に負ける訳ねぇんだ」


紬もその言葉に小さく笑う。


「……そうだね」


透も玲も、必ず来る。


2人はそう信じていた。


巨大な黒い扉を前に、それぞれの想いを胸に抱えながら。


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