表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第8章 タイムリミット
PR
74/76

第74話 偽りの貴方

鈍い音を響かせながら扉が開き、紬と紅蓮は警戒しながら部屋へ足を踏み入れた。


「……」


紬は思わず目を見開く。


そこは奇妙な部屋だった。


壁一面に鏡が飾られていて、大きな鏡に小さな鏡、丸い鏡や四角い鏡、豪華な装飾が施されたものまで、数え切れないほどの鏡が並び、蝋燭の光を反射していた。


まるで無数の瞳に見つめられているような感覚に襲われる。


「綺麗な鏡……」


紬は一枚の鏡へ近付いた。


その鏡は、金色のフレームに細かな彫刻が施されていた。


「なんか高そう……」


「見る所そこかよ」


紅蓮が呆れたようにため息を吐き、


「鏡なんて使えれば何でもいいだろ」


「そういう問題じゃないの」


と、紬は頬を膨らませた。


その時、


『ねぇ、二人とも』


聞き慣れた声が響いた。


紬の身体がぴたりと止まり、


「……え?」


振り返るが誰もいない。


部屋には紬と紅蓮しかいない筈だった。


『もう帰らない?』


再び声が響く。


今度ははっきりと聞こえた。


「透さん……?」


思わず呟き、慌てて辺りを見回す。


だが、どこにも姿はない。


『紬』


何度も聞いた、あの優しい声。


「透さん……? どこですか……?」


返事はないが、突然目の前の鏡が揺らめいた。


水面のように波打つ鏡面に映ったのは、


「……っ」


透だった。


いつもの優しい笑顔に、紬だけに向ける柔らかな表情。


鏡の中の透は微笑んでいた。


『帰ろう、紬』


透が手を差し伸べる。


『僕達二人だけで、結婚式をしよう?』


その言葉に、紬の肩が震えた。


『誰にも邪魔されない。二人だけで生きていこう?もう戦わなくていいんだよ。僕がずっと紬を守るから』


紬が夢見た未来、透と共に歩む未来。


だが、紬はゆっくりと首を振る。


「……違う」


鏡の中の透が首を傾げ、


『紬?』


「……違う」


紬の声が震える。


会いたい、今すぐ会いたい。


透の声が聞きたい、透の隣にいたい。


それでも、紬は知っている。


透という人を誰よりも理解している。


「……透さんはそんな事言わない……!」


鏡の中の透の笑みが僅かに歪む。


『どうして?』


「僕達二人だけ……?」


紬は唇を噛み締めた。


涙が滲むが、それでも目を逸らさない。


「……馬鹿な事言わないで」


透はそんな人じゃない。


2人だけが幸せならそれでいいなんて、そんな事を言う人じゃない。


《夜叉》のみんな、玲、紅蓮がいる。


大切な人達がいる。


だから、透はきっと言う。


みんなで助け合って生きて行こう、と。


だから、目の前にいるこれは透じゃない。


「透さんを勝手に語るな……!」


紬は焔月に力を込め、紅い炎が刀身を包み込む。


一直線に鏡へ駆け出し、


「はああああぁぁぁっ!!」


振り下ろされた刃が鏡へ突き刺さる。


鏡が砕け散り、無数の破片が床へ飛び散る。


鏡の中の透も、その笑顔も、全て消えていく。


部屋には再び、蝋燭の火だけが揺れていた。


紬は荒い息を吐く。


焔月を握り締めたまま、砕けた鏡を見つめる。


胸が苦しいけれど、その瞳に迷いはなかった。


誰よりも、透を信じているから。


だからこそ分かる。


紬は静かに焔月を下ろした。


その先に待つ真実など、まだ知らないまま――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ