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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第8章 タイムリミット
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第71話 愛してるの、その先へ

赤黒い空の下、透達は果てしなく続く石階段を登っていた。


荒廃した大地の先にある、黒く禍々しい城は確かに見えている。


それなのに、どれだけ歩いても近付いている気がしなかった。


「流石に長くありませんか……?」


紬は肩で息をしながら呟く。


妖の大群との戦闘を終えたばかりで、疲労は確実に蓄積している。


それでも足は止めなかった。


透は額の汗を拭いながら苦笑し、


「そうだね。でも、まだまだありそうだよ」


「えぇ……」


と、紬は思わず顔をしかめる。


その様子を見た紅蓮が鼻で笑った。


「弱音吐くには早ぇぞ」


「吐いてないもん!」


即座に反論する紬に、玲が思わず吹き出す。


ほんの少しだけ、重苦しい空気が和らいだ気がする。


だが次の瞬間、乾いた足音が響き、4人は同時に足を止めた。


周囲には誰もいない、それなのに足音だけが近付いてくる。


紬の背筋が凍り付いた。


聞き覚えがある。


忘れられるはずがない。


「ようこそ」


穏やかな声が響き、4人の後ろにはいつの間にか、1人の男が立っていた。


白い彼岸花の柄が刺繍された、深紅の着物。


モノクルの奥の瞳が、細められた。


そして、ゆらりと揺れる九本の尾。


紬の瞳が大きく見開かれる。


「……宵」


男は優雅に一礼し、


「赫焉様のお城へ」


その表情が嬉しそうに緩んだ。


「あぁ、私の小鳥さん」


九本の尾が揺れる。


「また会えましたね」


だが、紬以外の3人が自然と紬の前へ出る。


「てめぇ、何しに来た」


紅蓮が肩を回すと、拳に炎が燃え上がる。


宵は微笑み、


「ご挨拶ですよ」


「嘘つけ」


と、紅蓮は即答だった。


玲も冷たい視線を向けると、


「紬ちゃんにはもう近付かせないぞ」


静かな怒りが滲んでいた。


「……私も、お前が大嫌いだからな」


宵が少し目を丸くする。


「これはまた、手厳しい。一緒に戦った仲ではありませんか」


透も刀を抜き、刃先が真っ直ぐ宵へ向く。


「しつこいな」


声は静かで、怒っているようだ。


「ほんと」


宵はそんな3人を見て、苦笑し、


「小鳥さんは愛されていますね」


その言葉に、3人の機嫌はさらに悪くなった。


すると、透と玲が顔を見合わせた。


言葉はないが、2人は静かに頷き、玲が紅蓮の肩を叩いた。


「紅蓮」


「あ?」


「君は紬ちゃんと先に行くんだ」


紅蓮の眉が寄る。


「は?」


玲は宵から視線を外さず、


「私を好き勝手してくれた分、返してやらないとな?」


その笑みに紅蓮は言葉を失った。


「僕達、宵には随分怒っているんだよね。紬に酷い事をしてくれたし、仲間の玲さんを洗脳させて。……正直、一発じゃ済まないかな」


「いや、それなら俺も――」


紅蓮が声を上げるが、玲は首を振った。


「駄目だ」


即答だった。


「紅蓮は、親父さんに会いに行くんだ」


その言葉に、紅蓮は拳を握り締めた。


赫焉は、ずっと追い続けた存在だった。


聞きたい事、確かめたい事がある。


それを分かって、玲は行かせるのだ。


自分達は、ここで宵を足止めする、と。


透も小さく笑い、


「ここは僕達に任せて」


と、紅蓮は2人を見る。


そして、小さく舌打ちした。


「……死ぬなよ」


「誰に言っている」


「そんな簡単には死なないよ」


紬は胸が苦しくなった。


嫌な予感が消えない。


それでも、2人を信じるしかなかった。


透が、いつもと変わらない優しい笑顔を紬に向けた。


「紬」


「……はい」


「僕達も後で行くから」


透は親指で城の方を指し、


「赫焉に一発入れといてくれる?」


と、紬の目に涙が滲む。


でも、泣かなかった。


泣いてしまったら、本当に最後みたいな気がしたから。


「そんなの!」


声が震えてしまうが、それでも叫ぶ。


「一発でも二発でも入れてやりますよ!」


透が少しだけ目を見開くが、紬は唇を噛み締めた。


「……だから」


必死に涙を堪える。


「だから……来てくださいね……!」


透は優しく微笑んだ。


「うん、もちろんだよ」


それだけなのに、紬は安心した。


透は約束を破らない。


ずっとそうだった。


だから、今回もきっとーーー。


「行くぞ」


紅蓮が声を掛けると、紬は大きく頷いた。


「うん!」


2人は階段を駆け上がる。


振り返ったら足が止まってしまう気がした。


やがて2人の背中は小さくなり、見えなくなった。


透はその背中を静かに見つめ、隣で玲が刀を抜く。


透は小さく息を吐いた。


誰にも聞こえない声で、


「……愛してるよ、紬」


と、呟くと、風が吹く。


その言葉を攫うように、赤黒い空へ溶かしていった。


玲は何も言わず、ただ静かに前を見る。


九本の尾を揺らしながら、宵は残った2人を見つめている。


「さて」


玲が口角を上げ、


「少し遊んでもらおうか」


透も刀を構えた。


「話し合いで済むなら良かったんだけどね」


宵は優雅に一礼する。


「ええ、お相手致します。もちろん、ワタクシが勝てば、小鳥さんは頂きますよ」


九本の尾が広がり、凄まじい妖気が階段を震わせた。











一方の現代では、透達が穴へ飛び込んだ後、街で異変が起きていた。


空間が歪み、ブラックホールのような黒い穴が、次々と出現する。


そこから現れるのは、やはり特級妖。


倒しても、倒しても、新たな穴が生まれる。


「右から来るぞ!」


「援護しろ!」


「避難誘導急げ!」


全く、終わる気配が無い。


1人の隊員が肩で息をしながら刀を握り直した。


腕から血が流れているが、それでも立ち上がる。


「……くそ」


拳を握り締め、


「諦めてたまるかよ……」


と、呟く。


透達は今も戦っているから、自分達も戦うだけだ。


「よっしゃあ!」


別の隊員が叫ぶと、


「まだまだ行くぞ!」


周囲から笑い声が上がる。


「任せろ!」


「先に倒れるなよ!」


「それはお前だろ!」


誰一人、諦めていなかった。


透達を笑顔で迎えるために、《夜叉》は戦い続ける。


最後の1匹になるまで、刀を握り続けるのだった――。


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