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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第7章 人類滅亡ーー赫焉の呪いーー
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第66話 貴女の帰る場所

「ただいまぁ」


紬が玄関の扉を開ける。


慣れ親しんだ家の匂いに、ようやく肩の力が抜けた。


すると奥から、ぱたぱたと足音が聞こえてくる。


「おかえり――」


母親は言葉を止めた。


透を見ると、


「あら!」


目を輝かせた。


「いつも朝、迎えに来てくれる子じゃないの!」


紬は思わず顔を覆う。


覚えられていた。


透は慌てて頭を下げる。


「夜遅くに申し訳ございません」


「いいのよ、いいのよ!」


母親は満面の笑みだった。


その声を聞きつけた父親も玄関へやって来る。


「なんだ、なんだ。お母さん、そんなに大きな声を出して――」


そして固まった。


透、紬と交互に見たと思うと、また透を見る。


「だ、だ、誰だね君は!?」


玄関に父親の声が響いた。


「お父さん!」


紬は慌ているが、母親は呆れたように笑った。


「あなた。この子、前から紬を朝、迎えに来てくれる子よ?」


「な、なんだって!?」


「仲がいいなあ、とは思ってたけど〜」


父親は愕然とする。


紬からは、聞いていない。


透は改めて姿勢を正し、


「初めまして。《夜叉》のリーダーをしています。雨宮透と申します」


と、父親の顔色が変わった。


《夜叉》は、娘が所属している組織で、色々と話は聞いている。


「本日はお話がありまして」


透は真っ直ぐ父親を見て、


「娘さんとお付き合いさせていただいております」


と伝えると、母親は両手で口を覆う。


「まあぁ!」


父親は固まり、紬は真っ赤になった。


「まあまあ、玄関じゃなくて中でお話しましょうよ」


母親は上機嫌で透をリビングへ案内し、そのままキッチンへ向かう。


「珈琲でいいかしら?あ、そういえばクッキーがあったんだわ!紬と食べようと思って、取っておいたの」


鼻歌まで聞こえてくるが、父親だけが落ち着かない。


紬は苦笑しながら透へ椅子を勧める。


「どうぞ」


「ありがとう」


透は腰を下ろした。


自然と父親と向かい合う形になってしまい、しばらく沈黙が続いた。


やがて父親が口を開き、


「……娘のどこが好きなんだね」


「お父さん!?」


紬が叫ぶ。


だが父親は真面目だった。


透も真剣な顔になり、少し考えた後、


「優しいところです」


父親は黙って聞いていた。


「誰かが困っていたら放っておけないところ。頑張り屋なところ。笑顔が可愛いところ」


紬の顔がみるみる赤くなっていく。


母親はキッチンから嬉しそうに聞いていた。


そして最後に、透は少し照れながら笑った。


「全部です」


母親が感動したように胸に手を当てているが、父親は何も言えなかった。


その時、珈琲とクッキーが運ばれてきた。


駅前で人気のお菓子屋のクッキーだ。


父親は珈琲を一口飲み、静かに言った。


「……君は娘を守れるのかね」


その言葉に、透の表情が引き締まる。


「ちゃんと、この家に連れて帰ってくれるのか?」


透は膝の上で拳を握り、


「絶対、は約束できません」


父親の眉が動いた。


だが透は逃げまいと、続ける。


「ですが、これだけは言えます」


透は父親を見据え、


「大事な娘さんは、僕が必ず守ります」


と力強く答えた。


父親はしばらく黙り込んだが、小さく息を吐く。


「……そうか」


それ以上は何も言わなかった。


しばらくして、父親はクッキーを手に取る。


「ま、まあ……透くんもどうぞ」


ぎこちない言い方だったが、透は微笑み、


「ありがとうございます」


と、隣を見る。


「紬ちゃんは?どれ食べる?」


「え?」


「先に選んで?紬ちゃんと食べたいからって、お母さんさっき言ってたから」


紬は少し照れながらクッキーを眺めた。


「じゃあ、このジャムが挟んであるクッキーにします」


「うん。それも美味しそう」


透も別のクッキーを手に取った。


その自然なやり取りを見て、父親は小さく目を細めた。


この青年は、本当に娘を大切にしている、と。











何故か、母親の提案で、透は泊まることになった。


当然ながら部屋は別で、父親は最後まで反対していたが、母親に押し切られた。


寝る支度を終えた紬は自室へ戻り、電気を消そうとした時、ドアがノックされた。


「紬?まだ起きてるかしら?」


ドアを開けると、そこには愛用の枕を抱えた母親が立っていた。


「今日は一緒に寝てもいいかしら?」


紬は目を丸くするが、嬉しそうに笑った。


「うん!」


母親と一緒に寝るなんて、小学生以来だった。


2人でベッドに入る。


月明かりだけが部屋を照らしていた。


母親は何も聞かなかった。


世界の危機のことも。


《夜叉》のことも。


ただ娘の髪を優しく撫で、


「……良かった」


と、ぽつりと母親が呟く。


「紬が笑ってくれてる」


その言葉に、紬の胸が温かくなる。


母親は全部気付いている。


それでも聞かないのは、今はただ愛する娘と一緒にいたかった。


それだけ。


「おやすみ」


母親が紬の額へ優しく口付ける。


子供の頃と同じように、紬は母親の肩へ寄り添った。


「……おやすみ、お母さん」


久しぶりの、静かな夜だった。


世界の終わりが近付いていることなど忘れてしまうほどに。


ただ、今はこの温もりの中で眠りたかった。


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