第62話 告白大作戦!
またまた翌日になり、鍛錬を終えた紬は、更衣室で汗を流していた。
シャワーを浴び、髪を整え、玲に選んでもらった桜の髪飾りを付ける。
鏡の前で少しだけ微笑んだ。
「紬ちゃん居る?」
廊下から声が聞こえ、更衣室から出ると、1人の男性隊員が立っていた。
「どうしたんですか?」
「えっと……少しだけ時間いい?」
「はい!」
紬は何の疑いもなく頷いた。
人気の少ない廊下は、窓から午後の日差しが差し込んでいる。
男性隊員は先程から、何度も深呼吸していた。
「紬ちゃん。忙しいのに、ごめんね?」
「大丈夫ですよ?」
紬は首を横に振る。
「それで、お話とは?」
「あっ、これ!」
男性隊員は慌てて缶ジュースを差し出すと、
「わぁ!」
紬の顔が明るくなる。
「ありがとうございます!」
紬の無邪気な笑顔に、男性隊員の心臓が大きく跳ねた。
可愛い、改めてそう思う。
だから今日は逃げない、今日こそ伝える。
そう決めていた。
「紬ちゃん」
「?」
男性隊員は拳を握る。
「俺――」
そして同じ頃、透は執務室で最後の書類へ判を押していた。
「……終わった」
椅子へ身体を預ける。
肩が重く、最近は謎の時空の歪みについての報告も増えていた。
赫焉の動きも気になるし、考える事は山ほどある。
「少し休憩しようかな」
透は執務室を出て、食堂へ向かう途中、曲がり角を通りかかった時だった。
「紬ちゃん」
聞き慣れた声がし、透の足が止まる。
「……?」
少しだけ顔を覗かせ、固まってしまった。
「……!」
そこには紬と、男性隊員が2人きりで何かを話している。
男性隊員は明らかに緊張していて、透の胸がざわついた。
とても嫌な予感がする。
「俺――」
その言葉を聞いた瞬間、透は悟った。
告白だ、絶対に告白だ。
思わず固唾を飲む。
もし、もし紬が受け入れたら、胸が苦しくなる。
自分はまだ何も伝えていない。
好きだと、ちゃんと一度も伝えていない。
「ごめんなさい!」
紬が勢いよく頭を下げ、透も男性隊員も固まる。
「私……」
紬は胸の前で、少し恥ずかしそうに手を握る。
けれど迷いなく、
「透先輩が好きなんです」
と、透の思考が停止した。
「……」
そんな透を他所に、紬は、
「優しくて」
透の耳が段々と、赤くなる。
「カッコよくて」
ついに、首まで赤くなった。
「いつも自分の事より、周りの人の事ばっかり気にかけてくれて」
透は顔を覆った。
「私が困った時も助けてくれて、辛い時も支えてくれて、本当に素敵な人なんです」
紬は少し照れたように笑う。
「だから……ごめんなさい」
男性隊員は寂しそうに笑った。
「そっかぁ。やっぱリーダーには勝てないなあ。でもありがとう!」
そう言って去って行き、紬も申し訳なさそうに頭を下げた。
「……よし」
「ん?」
後ろから声がしたが、透は今、それどころではない。
紅蓮は百面相をしている透を見つけた。
「何してんだお前」
「紅蓮。僕は紬ちゃんに告白する」
紅蓮は数秒沈黙し、
「あー、はいはい」
盛大に呆れた。
「精々頑張れよ」
「うん」
「今更だけどな」
「うん」
透は紅蓮の話を聞いていない。
もう頭の中は、どう告白するか、何を渡すか、どこで話すか、それだけでいっぱいだった。
そして、またまた翌日、《夜叉》では玲と紬のおかえり会が開かれていた。
料理やデザートはバイキング形式で、隊員達は大盛り上がりだった。
もちろん、これは透の提案である。
だが本当の目的は別だった。
これは、透の告白大作戦の一部である。
しかし、
「紬ちゃん!」
女性隊員達が集まり、
「あのカルボナーラ食べた!?」
「あの唐揚げも美味しいよ!」
「ケーキも!私は、チョコが美味しかった!」
紬は楽しそうに笑う。
「まだです!」
「行こう!行こう!無くなっちゃう!」
そのまま連れて行かれ、透は手を伸ばしかけて止まった。
数分後、
「紬ちゃん」
今度は玲だった。
「あそこのパンナコッタ美味しかったぞ」
「本当ですか!?」
「一緒に行かないか?」
「もちろん行きます!」
2人はデザートコーナーへ行き、透は遠い目になった。
そしてさらに、
「紬ちゃん!」
今度は男性隊員達が、
「映画いつ行く!?」
「ショッピングもいいよな!」
「水族館は!?」
紬は首を傾げる。
「えっと……?」
透は頭を抱え、紅蓮だけが面白がって、腹を抱えて笑っていた。
結局、透は疲れ果てて椅子へ腰を下ろした。
缶ジュースを開け、
「……疲れた」
と漏らす。
「透先輩」
聞き慣れた声がし、顔を上げると紬だった。
透は危うくジュースを吹きそうになる。
「つ、紬ちゃん?」
「隣、いいですか?」
心臓が跳ね、五月蝿すぎる。
「あ、う、うん」
慌てて椅子を引くと、
「もちろん」
紬は嬉しそうに腰を下ろした。
「実はですね」
「うん」
「紅蓮が」
透の眉が動き、
「紅蓮?」
「はい!」
紬は少しだけ笑った。
『透の所に行ってやれ。寂しそうだぞ』って言ってました」
透は思わず額を押さえた。
余計な事をーー。
いや、ありがたいのか。
少し離れた場所では、紅蓮が唐揚げを食べていた。
目が合い、透は顔をしかめた。
だが、今はどうでも良い。
透はゆっくり立ち上がり、
「紬ちゃん」
「はい?」
桜の髪飾りが揺れた。
透は覚悟を決め、
「あのね」
「はい」
「ちょっと二人にならない?」
と、紬の瞳が大きく見開かれる。
そして、ほんの少しだけ頬が赤く染まった。
「……っ」
透の胸が高鳴る。
これはーーー。
紬は黙って、頷いた。
2人は賑やかな食堂を後にする。
透の鼓動は止まらない。
紬もまた、どこか緊張した表情を浮かべていた。
そして2人は、誰もいない屋上に向かうのだった。




