第61話 透、大ピンチ!
《夜叉》の施設へ戻ると、玄関を開けた瞬間、
「あっ!」
女性隊員の一人が紬を見つける。
「紬ちゃんおかえり!」
「おかえりー!」
次々と女性隊員達が集まってきて、
「わっ!?」
紬は思わず目を丸くする。
そして、あっという間に囲まれてしまった。
「え、その髪飾り可愛い!」
「ほんとだ!」
「似合ってる!」
桜の髪飾りを見つけた女性隊員達が歓声を上げる。
紬は照れくさそうに笑った。
「えへへ……」
隣に立っていた玲が髪飾りを見て、
「私が選んでみたんだが、変かな?」
その一言で女性隊員達がさらに盛り上がる。
「そんな事ないですよ!」
「玲さん、やっぱりセンスいいなぁ!」
「私も選んで欲しいです!」
玲は少し困ったように眉を下げた。
「良かった。じゃあ今度は、皆で行こうか」
「やったあ!」
皆の言葉に玲も小さく笑う。
そんな様子を見ながら、紬は嬉しそうに髪飾りへ触れた。
宵から解放されて一週間、《夜叉》のみんなは以前にも増して優しかった。
お菓子をくれたり、話し相手になってくれたり。
こうして沢山構ってくれる。
少し照れくさいけれど、嫌ではなかった。
そんな中、女性隊員達の後ろから、そろそろと男性隊員達が近付いてくる。
「今だ」
「今しかない」
「行くぞ……」
小声で相談していた1人が意を決して前へ出た。
「紬ちゃん!」
「あ、はい?」
紬が振り返り、男性隊員は勢いよく口を開いた。
「俺も――」
突然、隊服を引っ張られ、
「うおっ!?」
反射的に振り返る。
そこには満面の笑みを浮かべた透が立っていた。
「やあ」
爽やかな笑顔を向けているが、しかし何故だろう、とても嫌な予感がする。
透はにこりと笑った。
「連絡先交換、はダメだからね」
「っ!?」
男性隊員達が固まり、女性隊員達が吹き出した。
「あははは!」
「リーダー、また始まった!」
「過保護!」
透は首を傾げ、
「心配なだけだよ」
「重症だな」
後ろから紅蓮が笑う。
「うるさい」
だが紅蓮は止まらない。
「お前さぁ」
「何?」
「やっぱいいや」
「はい?」
そう言いながら透は自然に紬の隣へ移動していた。
女性隊員達がまた笑う。
「全然説得力ないですよ!」
「見てくださいよその位置!」
紬だけが事情を理解していなかった。
「?」
首を傾げる。
そんな紬を見ながら、男性隊員の1人が透へ顔を近付けた。
「リーダー」
「何?」
「正式にはまだ、付き合ってないんでしょう?」
透の笑顔が固まった。
「……」
男性隊員はにやりと笑い、
「なら俺らだって負けませんよ」
その言葉に周囲の男性隊員達も頷いた。
「そうそう」
「公平ですよね」
「まだ彼氏じゃないですし」
透の額に青筋が浮かぶ。
反論できなかった。
なぜなら、全部事実だからだ。
「じゃあ俺、今度誘おうかな」
「俺も」
「負けねぇぞ」
男性隊員達は盛り上がっており、紅蓮は腹を抱えて笑っていた。
「ははははっ!」
「笑い過ぎ」
「だってよ!」
紅蓮は肩を震わせ、
「正式に告白もしてねぇのに、今まで何安心してんだ」
透は黙った。
確かに、お互いの気持ちは分かっている。
指輪も渡して、「全部終わったら、話す」とは言った。
確かに、正式に付き合っていない。
その事実が今になって重くのしかかる。
もし誰かに取られたら、もし紬が他の誰かを好きになったらーーー。
そこまで考えた瞬間、透の顔色が悪くなった。
「え、ちょ、リーダー?」
「大丈夫ですか?」
男性隊員達が心配しているのも他所に、透は遠い目をしていた。
――正式に告白した方がいいかな。
そんな事を真剣に考え始めていた。
翌日の昼休み、食堂では玲と紬が昼食を取っていた。
「玲さん、この唐揚げ美味しいです」
「あぁ、私もここの唐揚げ好きなんだ」
玲はパスタを口へ運ぶ。
「あの!」
数人の男性隊員達がやって来る。
「紬ちゃん、玲さん!一緒にいいですか?」
「私は構わないよ」
玲が頷くと、男性隊員達は嬉しそうに席へ着いた。
紬は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんですか?」
箸を置き、
「あ、書類に不備でもありました?」
と、男性隊員達は首が取れそうな勢いで横に振った。
「違う違う!」
「全然違う!」
「え?」
紬はますます分からない。
男性隊員達は顔を見合わせ、そして覚悟を決めたような表情で、
「今度さ」
「はい」
「良かったら……」
「はい」
「一緒に出掛けない!?」
と、全員が一斉に言った。
食堂が静まり返り、紬はぽかんとした。
「出掛ける?」
「うん!」
「皆で?」
「違う違う!2人で!」
「え?」
玲が突然、口元を押さえた。
面白い、実に面白すぎる。
紬は真剣に考え始める。
何故自分なのだろう、仲良くなりたいのだろうか。
よく分からない。
だが皆、良い人達だし、断る理由も無い。
「皆さんが良ければ……」
そう答えた瞬間だった。
「よっしゃあああ!!」
男性隊員達が立ち上がり、
「ありがとう!」
「じゃ、じゃあまた詳しくは後で!」
「ふ〜、やったぜ〜!」
興奮したまま食堂を飛び出していく。
あっという間だった。
「……?」
玲の肩が震えている。
「玲さん?」
「……いや」
玲は笑いを堪えていて、
「何でもない」
「?」
紬は首を傾げ、嬉しそうに微笑んだ。
「仲良くなれそうで良かったです」
その言葉に、玲はとうとう吹き出してしまった。
「ふっ……ははっ!」
珍しく食堂に玲の笑い声が響く。
紬は最後まで、自分が何を了承したのか、全く理解していなかった。




