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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第6章 私を探さないでーーー
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第59話 全ては、貴方の為に……

壊れたステンドグラスから月明かりが差し込む。


静まり返った教会の、祭壇の前には、白いベールを被せられた紬が眠っていた。


まるで眠り姫のように、美しく。


その光景を見た瞬間、透の胸の奥で何かが切れた。


「……宵」


祭壇の前に立つ宵は、ゆっくりと振り返る。


花婿のような黒いスーツを着て、穏やかな微笑みを浮かべている。


「おや」


宵は口元を緩めた。


「ようこそお越しくださいました。」


そして眠る紬へ視線を向ける。


「ワタクシ達の結婚式へ」


透の瞳から温度が消える。


「ふざけるなよ」


刀を構え、刃先を宵に向ける。


「紬ちゃんを返せ」


「嫌に決まっているでしょう?」


言葉に被さるように、即答だった。


「この小鳥さんは、ワタクシの花嫁ですから」


透は床を蹴ると、激しい金属音が教会に響く。


刀と短刀がぶつかり合い、火花が散った。


「返せ……!」


「お断りします」


何度も刃が交差するが、宵は攻撃すらしてこない。


透は気付いていた。


宵は、透を紬へ近付けないようにしているだけだ。


「邪魔だ!」


透が強引に押し込むと、宵の身体が僅かによろめいた。


その隙を逃さない。


透は祭壇へ向かって走り出す。


「紬ちゃん!」


あと少し、あと少しで届く。


伸ばした指先が紬へ向かった。


「行かせませんよ」


黒い影が床を走って来て、一瞬で透は、腕を掴まれた。


「……っ……!」


透の身体は宙を舞い、壁へ叩き付けられる。


背中に激痛が走り、刀が手から離れる。


カラン、と床を転がった。


「しまっ……!」


黒い影が一斉に伸び、腕、脚、胴と全身を拘束されてしまう。


宵は笑みを浮かべながら、ゆっくり近付いてくる。


「ようやく捕まえました」


そして、透の首を掴んだ。


「ぐっ……!」


少しずつ、少しずつ力が込められていく。


呼吸が出来ない、視界が……。


それでも透は睨み付けた。


「紬……ちゃん……」


諦めるものか、絶対に。


「……!」


突然、宵の瞳が見開かれる。


首から手が離れ、透は床へ崩れ落ちる。


「ごほっ……!…… がっ……」


咳き込みながら顔を上げると、宵の背中に短刀が突き刺さっていた。

「……透先輩を……傷つけるなんて……!」


祭壇の上で寝ていた紬が、上半身を起こし、涙を浮かべながら、真っ直ぐ宵を睨み付けていたのだ。


「許さない……!」


「紬ちゃん……!」


宵は震える手で短刀を引き抜いた。


黒い血が滴り落ち、カラン、と床へ捨てる。


そして、肩を震わせた。


「……ほんとに」


笑っているようで、怒っているようで、壊れているようで……。


「ほんとに腹立たしい……」


黒い妖力が爆発し、教会全体が激しく揺れる。


長椅子が砕け、祭壇に亀裂が走る。


窓ガラスが弾け飛ぶ。


宵は頭を押さえた。


まるで内側から何かが溢れ出しているように。


「お前なんか……」


嫌な音が響き、頭部から白銀の狐耳が突き出した。


毛先は黒く濁り、妖力が煙のように溢れている。


さらに背中が大きく膨れ上がり、骨が軋み、肉が裂けていく。


服を突き破り、巨大な尾が飛び出してきたのだ。


一本、二本、三本と、尾は増えていく。


増える度に教会が揺れ、まるで巨大な蛇のような尾は、床を削り、壁を砕き。黒い影を撒き散らしていく。


そして、最後の尾が現れた瞬間、教会の窓が一斉に砕け散った。


宵がゆっくり顔を上げた。


裂けた瞳孔に、頬を伝う黒い妖力。


口元は獣のように歪んでいる。


「どうしてですか……」


9本の尾が暴れ、床に深い亀裂が走った。


「どうして貴女は……ワタクシを選ばない……!」


宵が紬へ手を伸ばすが、その腕は途中で止まった。


「……え?」


動かない、身体が……。


「なぜです……?」


九本の尾が無意識に暴れている。


それでも身体は動けない。


そんな身体の奥底から、何かが脈打った。


宵の顔から血の気が引く。


「……まさか……」


心臓ではなく、何か別の生き物が、身体の中で蠢いているような音が響く。


「やめ……」


胸が大きく膨らみ、肉が盛り上がる。


骨が軋み、


「やめて……ください……!」


そして、胸が裂けた。


黒い腕が飛び出し、宵の口が無理やり開く。


喉が裂け、そこからもう一本の腕が這い出てきた。


「赫焉……様……」


宵の声が震える。


初めてだった、九尾の妖が恐怖で震えていた。


「待ってください……!」


黒い腕が宵の首を掴み、骨が鳴る。


「赫焉様……!」


返事はない、姿もない。ただ腕だけが存在していた。


その時、教会の扉が勢いよく開いた。


「透!」

紅蓮と玲が入って来たが、2人は足を止めた。


目の前の光景に、


「……は?」


紅蓮が呆然と呟く。


玲も表情を強張らせた。


「……なん……だ……これは……」


直後、黒い腕が九本の尾へ絡み付き、尾を引きちぎっていく。


妖力が噴き出し、


「ぁぁぁああああ!!」


宵の悲鳴が教会に響いた。


透は咄嗟に紬に近付き、そっと抱き寄せる。


「透先輩……?」


紬の顔を胸へ押し付ける。


あんな姿を、見せないように、聞かせないように、強く優しく。


「見なくていい。……紬ちゃんは見なくていんだ」


紬は震えながら透の服を掴む。


黒い腕は止まらない。


尾を引き千切り、身体を裂き、影の中へ引きずり込んでいく。


ゆっくりと、動かなくなった宵は闇へ沈んでいった。


最後に残ったのは、虚空を掴む指先だけ。


闇に呑まれ、妖力も何も残らない。


床に広がる黒い染みだけが、そこに九尾の妖が存在していたことを物語っていた。


誰も言葉を発しなかった。


残されたのは、赫焉という存在への恐怖だけだった。


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