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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第6章 私を探さないでーーー
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第55話 悪趣味な招待状

意識がゆっくりと浮上する。


重い瞼を開くと、見慣れた天井が目に入った。


冷たい石造りの部屋に、大きな鳥籠そして、柱に繋がれた鎖は、自分の手首と足首に続いている。


夢だといいのに、何も変わっていない。


「……?」


紬がゆっくり身体を起こすと、違和感に気付いた。


柔らかい布地で肌触りが良く、普段着ている服ではない。


視線を落とした紬は息を呑んだ。


「……!」


純白のドレス。


胸元を彩る繊細な刺繍に、幾重にも重なるレース。大きく広がるスカートが、とても可愛らしい。


誰が見ても分かる。


これは、ウエディングドレスだった。


「なに……これ……」


震える声が漏れ、嫌悪感が込み上げる。


自分の意思など関係なく、また勝手に着替えさせられたのだと理解した。


「私の小鳥さん」


聞きたくない声がして、紬の身体が強張る。


「よくお似合いですよ」


宵は 相変わらず、穏やかな笑顔を浮かべている。


その笑顔が気持ち悪い。


紬は思わず後ずさった。


「……やめて。私は人形じゃない」


宵は怒ることもなく、嬉しそうに口元が歪んだ。


「その顔です」


紬は背筋が震えて、仕方がない。


「やはり貴女は美しい」


紬はさらに距離を取ろうとするが、手首の鎖が強く引かれる。


「っ!」


身体が前へ引き寄せられ、よろめいた紬の腕を、宵が掴んだ。


「離して!」


振り払おうとするが、とても逃げられない。


宵は紬を見下ろし、顎を持ち上げた。


無理やり視線を合わせられる。


紬は負けずと睨み付けるが、宵はその姿でさえ、満足そうに微笑んだ。


「さあ。最高の場所へ行きましょう」


「……何を、言ってるの……?」


「もちろん」


細められた瞳が妖しく光った。


「貴女の大切な人達も、ご招待しますから」


その言葉に、紬の顔色が変わる。


胸が大きく締め付けられた。


「やめて……」


かすれた声が漏れる。


「みんなを巻き込まないで……」


宵は不思議そうに首を傾げた。


「どうしてです?貴女は会いたいのでしょう?」


紬は言葉を失う。


会いたい。


会いたいに決まっている。


だけど、こんな危険な場所に来てほしくない。


宵はそんな葛藤すら楽しむように微笑んだ。


「彼らは必ず来ます」


その言葉には確信があった。


「貴女のために、ね」











《夜叉》本部な管制室では、隊員達が慌ただしく動き回っていた。


玲は訓練を終えたばかりだった。


紅蓮も壁にもたれて腕を組んでいる。


科学チームは宵の影の破片を解析中で、透はその報告を受けながら、別のモニターへ目を向けていた。


紬を探すために、もう一秒たりとも無駄には出来ない。


「あれ?」


一人の隊員が首を傾げる。


「どうしたの?」


透が近付くと、隊員はモニターを指差した。


「さっきから画面がおかしくて」


映像が歪み、ノイズが何度も走る。


「故障か?」


紅蓮が眉をひそめた。


だが、突如全てのモニターが砂嵐に変わった。


「なっ!?」


隊員達がざわめき、砂嵐の中から、1人の青年が姿を現した。


「……宵……」


全てのモニターに同じ顔が映り、それはまるで監視網そのものを乗っ取ったかのようだった。


宵は微笑んだ。


『皆さん、こんにちは。ご機嫌いかがですか?』


「紬ちゃんはどこだ」


透は即座に問い掛ける。


宵は小さく笑い、


『元気ですよ。毎日よく食べて、よく眠っています』


と、玲の表情が険しくなる。


その時、鎖の音が宵の方から聞こえた。


透の表情が変わり、宵が誰かを引き寄せるのが見える。


「……!」


映し出された姿に、管制室が凍り付く。


紬は純白のウエディングドレスを着ていた。


本来なら、全て終わった後に、幸せな場所で見たかった姿だ。


それを宵が、無理やり着せていた。


『どうですか?とてもお似合いでしょう?』


しかも、紬の口には白い布が噛まされていた。


『んっ……!』


ただ必死に首を振り、助けて、来ないで、そんな感情が入り混じった瞳で訴えている。


透の拳が震え、宵はそれを見て楽しそうに笑う。


『せっかくですから』


紬の肩を抱き寄せる。


『貴方達にも、ご招待致しますよ。私と』


宵は紬の顎を持ち上げた。


『小鳥さんの結婚式へ』


誰も言葉を発せなかった。


それは愛ではなく、紬をただ手元に置きたいだけ。


誰にも渡したくないだけ。


歪んだ所有欲、それだけだった。


『場所は、町外れの森にある古い教会です。お待ちしておりますよ』


紬が必死に首を振るが、宵は楽しそうに続けた。


『ですが、そう簡単に行けるとは思わないでくださいね』


そして、


『それでは』


優雅に一礼し、にこりと微笑んだ。


『楽しみにしていますよ』


激しいノイズが走り、宵と紬の映像は消えた。


静まり返る管制室で、玲が口を開く。


「……あそこか……」


「知っているんですか?」


「ああ。昔は結婚式も行われていた教会だ。……だが今は立ち入り禁止になっているんだ。怪奇現象や行方不明者の噂が絶えない場所でね」


紅蓮が大きくため息を吐いた。


「……ほんと趣味がわりぃ」


心底嫌そうな顔で、呟く。


「気色悪ぃな」


透は黙ったままモニターを見つめる。


そこにはもう宵も紬も映っていない。


だが、脳裏にはびっしりと焼き付いていた。


ウエディングドレスを着せられ、涙を堪える紬の顔が。


「行きます」


「もちろん私も行くからな」


「俺も。宵に一発入れないと、気が済まねぇ」


透は小さく頷き、真っ直ぐ前を見据える。


「紬ちゃんが待ってて」


宵の用意した舞台で、最悪の招待状を貰ってしまった。


それでも、透達は進む。


大切な人を取り戻すために。


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